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5時

 5時。

 絶望のどん底で、俺は机に突っ伏していた。

 目の前には、何度も上書き保存されたファイル名「恋愛小説(仮)最終ver_ガチ_ほんとにこれでいくやつ_FINAL2.docx」。

 ああ、俺、何回“最終”って言うの?

 ふと顔を上げると、窓の外がうっすらと明るくなっていた。

 あれ、太陽って、こんなに無慈悲だったっけ……?

 朝焼けが俺の無様さを照らしてくる。

 それはまるで、「お前、何してんの?」って言ってくる母親の表情。

 冷静になったら、もう、全てがバカになった。

 昨日の深夜テンションで生まれた名(迷)アイデアたち。

・Slack恋愛

・幽霊社長と恋に落ちるヒロイン

・天然女上司と業務後○○展開未遂

 どれも、一周まわって墓に埋めたい。

「……考えるのをやめよう」

 “書く”じゃない、もはや“産む”。

 思考を手放し、フォースに身をゆだねる。

 ドントシンク。フィール。

 もはや作品じゃない。これは儀式。

 恋愛小説という名の召喚術。


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