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第14話 あの将軍の現在

 さて、1口に政治家と言ってもいきなりなれるものではないことは長慶も理解していた。

なんせ、大名のシステムと似ているから。

武将により様々だが、基本は武家生まれでないとなることは出来ない。

しかし、足軽として仕えていたものが下克上という形で大名を殺して代替わりすることもあれば、武家生まれでもない農民スタートの身分でも実績と運さえ良ければ大名になることは出来た。

この最たる例が豊臣秀吉である。


 今長慶は、今後どうすれば良いのかを見定めた上で判断を委ねられていた。

はて、ほんとに政治家になる必要があるのだろうかと。


「私は天下統一を目指し世に安息をもたらそうと考えておったが……、よく考えてみればそもそもなれぬやもしれぬな」


 立候補しようと思えば基本誰でもなれるシステムなのは理解したが、つい最近ここで生まれたような自分が政治で活躍するのは無理では無いか?と考え直し始める。


「だとしたら、私は一体何を目指せば……」


 長慶は目的を見失っていた。

義輝追跡を諦めたとすると何をするべきなのか……それが分からなかった。

しかし、そんな時今ふと思いついた案がまた頭をよぎる。


「そうじゃ! 阿波国に1度帰ろう。もしかしたら一存や実休らがまだ生きておるやもしれぬ。冬康は……出来れば会いたくは無いところじゃの……」


 自分の生まれ故郷にして始まりの地である芝生城しおうじょうを目指すことにした。

目指すと言っても、長慶にとっては帰るだけではあるのだが。

そして、1度帰れば実休ら三好兄弟が出迎えてくれると信じて……。


「さて、そうなればさっそく向かいたいところじゃが……。せっかくじゃ、1度二条御所に赴いてみるとするかの」


「道順があの頃と変わってなければ、歩いて行けるはずじゃな……」


 京都の街並みは昔の平安の頃からほとんど変わってはおらず、近代化こそされど道のりは変わらず迷路のよう。

舞妓達が京都の街を歩く際の覚えうたも、きっとその当時の名残なのだろう。


「まるたけえびすにおしおいけ……。まさか、あのような歌がまだ使えるとは、感動するわい」


 三好政権が崩れるまでの間、京にしばらくいた事がある長慶からすれば、この覚えうたが未だに使えることにもはや嬉しさすらあった。

唯一自分の知識で行ける場所だからだろうか?


 そうして道中を歩き、二条通りを迎える辺りで、とある貼り紙が視界にはいる。


「む? なんじゃ? この貼り紙は」


 書いてあった内容と言えば……。


__指名手配:複数の日本刀を持って人を斬り殺した連続殺人犯を探しています。

足利義輝と名乗り打倒三好家!と訳の分からない発言をする老人を見かけたら京都警察へ連絡を……。


「……あやつはやはり馴染めぬか。私も慣れきってはおらぬが、こうはなりたくないのぉ……」


 長慶自身も1度は留置所に送られた身、義輝と同じ足取りをもう一度追う訳には行かないと決心した。



「さて、二条御所にゆくか」


 歌に沿って進めば二条通に着くはずで、ここに来ればもう少しということを理解している長慶は、今までと変わらず時間はかかるものの歩いて進む。

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