あれから翌日の事、まだ誰も訪れる様子がなかった為に、長慶が誰かに取り囲まれるというようなことこそなかったものの、最近つくづく感じている家臣のありがたみに、悲壮感を覚えていた。
しかし、そんな中で己の志を忘れずに、ただひたすらに野望を持ち続けていた。
__何とかしておのが名を轟かせたい! その一心で。
「……さて、芝生城は確か……昼間の方面だったかの」
昼間と呼ばれる地名があるのだが、芝生城跡はこれより先にある、三野町という場所に位置している。
今長慶がいる場所からは少しだけ遠いこと以外は楽である。
なぜなら、作りこそ当時から変われどほとんど道中は同じだから。
「こうも歩いてばかりじゃと、流石の私も足に応えるのぉ……」
質屋から出て2日は経過していて、そのうえで固定の家を持たないせいで少しずつ体調に疲労が見え始めていた。
ーー歩き初めてから数時間後。
時間はお昼に差しかかるタイミングで、目的地に到着する。
しかしどうだろう、そこにあったのは石碑と自らの名前を白文字で書いた赤い旗である。
そこには"三好長慶生誕の地"と書いてある。
でも、それ以外には何も無く更地なのだ。
「……。私のいた城は、無くなってしまっておるのか……」
「しかし、私の事を存じておるものも多いのだな?!」
実際には城と言うよりは館のような建物だったとされていて、長慶の住んでいた家の目の前には、広大な畑が広がっていたのだという。
「ここに私の名があるということは、私の事を存じておるはず。上手く仲を取り持っておかねば……」
そうして色々思考する中で、たまたま自分の近くを1人の女性が通る。
年齢にして18歳頃だろうか?
先程から老人ばかり見かけるあたり、この地方は若者は少ないらしい。
「これそこのもの、少し聞きたいことがあるのだが……」
「はっはぁ。なんでしょう」
「あの旗に書かれておる三好長慶というものがどういうものかは存じておるか?」
「……いえ、全く知らないです……。それでは」
「なっ……!」
その女性は少し思考した後、何か言うでもなく軽く会釈だけしてその場を去っていった。
「なぜじゃ! なぜ私の名を使っておいて知らぬのじゃ! もうわからん! 分からんぞ私は! 何を、信じれば良いのか……」
長義は嘆いた。
こうまで堂々と名前が記されていれば知っている者もいるだろうと……。
しかし、話しかける相手の年齢が悪かったのか、本当に知らなかったのか、また長慶は絶望した。
もうこれで何度目だろうか。
いわゆる、"でじゃぶ"である。
「……もうよい。今しばらくここで次なる目的を考案しておくか……。もうそれまでしばらく動かぬこととしよう」
先の女性の発言が聞いたのか、心が折れた長慶は、しばらくこの場で呆けることを選んだ。
1種の黄昏に近い形で、近くの土手に腰掛けながら街並みを見渡す。
片田舎なだけに殺風景だが、長慶からみれば、ここが天下人になるためのスタート地点になった場所であるために、どこか感慨深い。
__長慶は、デジャブを乗り越えれるのか?