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第2章 長慶の野望

第18話 再会の一門

 未知の文化にふれ感動する長慶は、しばらく阿波踊りを見ていた。

どうも何かの催しごとだったらしく、周りには屋台や人だかりが沢山ある。


「これは、祭りかの? なんの祭りじゃろうか」


 長慶はこれを祭りだと解釈するも、それらしい案内を見かけない。

学校のグラウンドを利用して舞台が設置されてて、そのグラウンドの中にも屋台があるくらいで、特別目を張るものはなかった。

しかし、今も尚舞台上で踊り続けるものの中に、長慶にとって身に覚えのある人物が満面の笑みで踊っていた。


「! あれは……! いや、気のせいやもしれぬ……」


「しかし、誠に千満丸なのであれば……」


 そう、長慶の次男である三好義賢みよしよしかたではないか。

容姿はさほど変わっておらず、強いて言うなら阿波踊り特有の着物に、頭にハチマキのようなものを身につけていることくらいである。

ちなみに千満丸とは三好義賢こと実休の幼名であり、当時は幼名で呼ばれることも多くはなかった。


「きっとこれは幻術を受けておるのだ。見間違いに他ならぬ」


「死者と再び相見えるなど……」


 自身も1度死んで現代日本に転移してきてるとはいえ、このようなことは二度とないはずと思っている長慶は、仮にほんとに実休だとしても似た者であるだけだろうと信じてやまないのだ。

もう既に細川晴元という実例があるのに……。


「いやしかし、これが誠なら私の野心に利用できるやもしれぬ」


ーー今一度天下を……。


 その野心的考えはどれほど時間が過ぎている現代であろうと脱ぐうことは出来ず、結局のところ政治の実権は握れずとも知名度を確保すること自体は変わらなかった。

その地名度を得ることを今は最優先目標とすることにした。

……ところで、先程から視線を感じるのはいかようだろうか? と長慶は内心思ってもいた。


「(あれは、兄上ではないだろうか? まさか、僕の見間違いだろうけど……)」


 舞台上で踊る1人の若き青年は心で呟いた。

長慶の事を懐かしむような顔を見せながら、しかし長慶と同じくそんなわけあるかとも言い聞かせながら。


「(まさかほんとに兄上だとしても、あのように老けておられるわけないし……)」


 あくまで諸説があるが、実休が最後に生きた年の頃の長慶は40歳頃だったとされていて、その中でも実休は35歳だったと唱える者もいる。

しかし問題なのが、前述した実休の年齢を求めるための実休の生誕に諸説があり、明確な年数が分からないということ。

実際は実休が没してから2年の差で長慶が没している程度なのでそこまで老けてるようには見えないのだが、現代の闇に揉まれたせいだろうか?


「あのものは、やはり実休なのか……? 視線がやたら合うぞ」


 目と目があったら瞬間好きだと気づきそうだが、どうも頻繁に目が合うようだ。

そしてまもなくして踊りは終わり、そのものは誰かと話をすると途端にこちらに駆け寄ってきた。


「あのー。人違いかもしれませんが、もしかして三好長慶様だったりしません……か?」


「なれば私からも聞こう。其方は千満丸か? 」


ーー そうだとも私こそ長慶なり。

ーーはいっ。そうですよ兄上。


 なんということか、このような偶然があっていいのか。

2人して喜びを分かち合う前に同時に叫んだ。


____って、何故このような事がおこるのだ!!


 当然長慶としては一門にこの現世でも出会えたことは嬉しい。

それは実休とて同じで、泣き崩れそうなほど嬉しいし、彼だって長慶が死した時と同じく、自身が最後に戦ったとされる和泉国、現大阪府岸和田市久米田にて行われた久米田の戦いくめだのたたかいで討死後に転移していたのだ。

彼もまた、自身の一門を探し、いつか自らの兄に会える日を渇望して今日まで生きてきたのだろう。

まさか長慶が実休の討死の知らせをきいたタイミングが連歌を嗜んでいた最中だとは実休も知らないだろう。


「……まさか兄上がこうもお年を召されてるとは思わなかったので当人なのか未だ信じられないですけど、その幼名をご存知の方は専門家でもない限り少ないはず」


「でも、専門家だとしても特有の貫禄はお変わりなかったですから分かりましたよ」


 本当は、マジで誰か分からなかった。

でも、長慶と似た雰囲気だしそれとないオーラはでてたのは確か。

しかし、しつこいようだが死人とまた会えるなんて思ってなかった長慶と、この世界でもようやく会えたという双方の喜びが変な形でぶつかっていた。


「まぁなんじゃ、今となってはどう思われてもかまわん。募る話はあるが、もうそれはあとで良い。今はこの催し物を終わらせ民を安心させることに尽力するのだ千満丸よ」


「ええもちろん」


 こうして、まだ始まったばかりと言わんばかりにこの祭りの終わりまで実休は盛大に場を盛り上げた。

長慶もその様子を見ながら、今後を見据え色々思考を重ねていた。


「(ここで千満丸に会えたということは、孫六にも会えるのかの? 冬康にだけは気まずくて会いたくは無いが……。まぁよい、これでこの文化を利用して私の名を広く知らしめるきっかけを得ることが出来た)」


 これが長慶きっての快進撃になるのか? また晴元に邪魔されるのか?

野望は、まだ始まったばかりだ。

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