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第18.5話 実休の苦労

 長慶は実休と久しぶりに会えて感動していた。

そんな中、実休も実休でここに至るまで度重なる苦労をしていた。


____まず実休のスタートは、長慶よりも悲惨な状態からスタートする。


 史実にて流れ弾に被弾し亡くなったとされている実休だが、その直後の状態で転移しているがためにまあ大惨事。

当時の甲冑に太刀、被弾した血の跡、騎乗中だったであろうポージングでの転移とまぁ悲惨だった。

実休が着ていたとされる甲冑は当世具足といい、簡単に世代分けすると大鎧の次の世代が当世具足と言われている。

大鎧よりは軽量で前後の防御性能に特化している。

そんな、戦真っ只中での転移だったと言うだけに、当然警察沙汰になり、長慶とは違う意味で警察にお世話になっていた。


「あなたがどなたかは存じませんが、未許可の日本刀所持ならびに文化遺産と思われる鎧の盗難の疑いで逮捕します」


 当然実休も見知らぬ場所で急にムショ生活を送らされたのだからびっくり。

とはいえ、この世界に来る直前の怪我は現代医療で治療され死なずには済んだものの、冤罪が晴れるまでは投獄生活を送ることに。


「しらぬ場所しらぬ政にしらぬ身なり……。それがしもまだ未熟だったか……」


 実休は長慶と同じく文化人として知られている。

阿波国1国を納め統治していた実休は、その時得た知識がこの今の日本では通用しないことを、長慶よりは遅めに理解していた。

とはいえ、頭が悪かった訳ではなく、いきなり知らぬ場所に来て困惑しているだけで、ひとたび理解してしまえば馴染むのは早かった。

むしろ長慶よりも先に異文化を楽しんでいた。


「このパフェとやらは格別美味しい。もっと異文化を知らねば」


 冤罪が晴れ、そのまま自由の身かと思いきや、実休の文化人の側面が生きたのか、徳島在住の連長に声をかけられていた。


「これそこのあなた、私の運営するいざよい連にきてみんかい? 阿波踊り、知らなくても教えるけんね」


 若干阿波弁混じりの男性は、気楽な対応で実休に話しかけていた。

それは、実休がパフェを堪能してすぐあとの事で、どう返答するのが正解かは分からなかったものの、見知らぬ文化を知るにはちょうど良いと思いその話を受け入れた。

しかし当然、踊りだけで食っていける訳では無いので、近くのコンビニでバイトをこなしながらお金を貯めていた。


「(便利になってる分金銭の管理とその取り扱いが面倒になりましたね……)あっ、いらっしゃいませー!」


 学歴がないしかけるものでもなかったから入れないかと思われたが、警察から前もって許可を出してもらっていた唯一の店だからよかった。

……まぁ、いわゆる特別枠と言うやつで、その警察官の親がたまたまオーナーだったから許されたというラッキーな展開が起きただけである。


____こうして、今の実休に繋がる訳だが……、ここまで来るのに大体5年はかかったようだ。


「ーーって事がありましたかね。順応は大変でしたがまぁ慣れたら楽しいですよ兄上」


「そっそうか……。口調もこっちに合わせておるのか?」


「はいっ。若者はこう振る舞えと教わりましたので」


 元気よくハキハキと、そう教わった実休は、有言実行でそつ無くこなしている。


「しかし、私よりさきに来ておるのなら聞きたいことがあるのじゃが……」


「はい? どうしました? 兄上」


「義輝は、おったか?」


「……いえ、存じないですね」


 実休は、少し思考を巡らせた後に長慶に言葉を返した。

少なくともどこかで見かけた訳では無いのは確かだったと。

どうもそう言いたいらしい。


「そうか……」


 それに対し長慶も、安心していいのかどうなのか悩んでいる。

自己完結で気にするだけ無駄だろうとは言ったものの、いつまたどこで刃を交えるやも分からぬ相手故に、油断出来ないのだろう。

少なくとも、戦国に生きた者として、気を抜く訳には行けなかった。


「ともかく兄上、異文化のことなら僕にまかせてください。今日のお祭りの事も僕が案内しますから」


____次の話に繋がるまでの幕間に実休の苦労が語られ長慶に伝わる。これにより更に進展することだろう。

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