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第19話 初めての家に向けて

 実休との再会を分かち合い、互いに現状報告と情報共有を終えてから、イベントを潤沢に楽しむ。

実休はスタッフ側なので長慶とは長く一緒に居られない。

どうも忙しいようで、長慶1人で過ごす時間の方が割合多い。


「千満丸からたこ焼きなるものも美味だと聞いたが……確かに、これは良い品物だ」


 実休に勧められた16個入りのたこ焼きを持ちながら、近くの木製の椅子に座る。

未だ椅子自体に座りなれないが、たこ焼きはお気に召したらしい。

気づけばもうからっぽだ。


「もうなくなってしもぅたか。また買いにゆこう」


「これそこのもの、先のたこ焼きをまた頂くぞよ」


「ありがとうございますー。500円ですー」


 こうして、グラウンド内にまで出された出店で購入している。


「うむ、何度食べても食べ飽きぬ口触りじゃ」


 そうしてまた食べ終われば、次は実休が食べていたクレープを買いに行く。


「チョコみかんクレープを頂こうかの」


「450円よー」


 50代くらいのおばちゃんが少しフランクに対応してくれ、すぐに手渡される。


「ふむ、クレープというのはお惣菜とは違うのか……。果実がはいっておるのも興味深い」


 目をキラキラ輝かせながらも、異文化のデザートも十分に堪能している。

イベントが終わるまで長慶は、1人でできることをひたすらやり尽くし、実休が迎えに来るまでの間気づけば長慶は荷物だらけになっていた。


「うわっ。兄上何をそんなに沢山買ってきたのですか!」


「何って、見て分からぬか?」


「いえ、分かりますが……」


 長慶がかったグッズというのも……、木刀や模造刀、修学旅行中の中学男児なら買いかねないビジュアルがかっこいいタイプのキーホルダーなどなど、用途不明のものばかり買い漁っていた。

無論物珍しさで買っていて、中にはどうやって買ってきたの?!という品物まで混ざっている。


「これは、よく分からない柄物のTシャツですが……こんなお目汚しにもならないダサTよく売ってましたね……」


 俗に言うアニメキャラが印刷されたTシャツなのだが、なぜ売ってあったのだろうか?


「まぁ良いではないか。このような代物も、上手く商いに活かせば暮らしは安泰ぞ」


「戦国の楽観的な考えはお控えください兄上! 気楽すぎる考えでは生きて行けませぬ! あなたともあろう方がお忘れになられたのですか?」


「……。よいか千満丸。確かに私は理世安民を志し、その政の為に天下人となり商いをしてきた。しかしの、せっかくの異文化に触れられる機会なんじゃ、たまには気を抜きたくての…」


 大名としてなさねばならないこと、そのうえで自分に振りかかった悪名は久秀が受けていたということ、そしてなにより、大名は多種多様な責任を被り続けなくてはならない存在であるがために、疲れたのだろう。

たまには休息したって構わないだろう?と言いたげな眼差しを実休に向ける。


「それに千満丸よ、其方は人のことを申すことは出来ぬ。あのような踊りをしながら笑を零しておった。それは、楽しんでおるということではないのか?」


「……。そうですね、失言でした」


「僕は、大事な事を忘れていたようです」


ーー息抜き、という言葉の大切さを。


 物事に真面目に取り組み、阿波国1国を統治し実休当人も内政に注力していた人物、彼もまた苦労人だったことを忘れていたのだ。

しかし、互いに戦国乱世の記憶は、やはり残ったままだった。


「ところで千満丸よ。孫六はしらぬか?」


「あぁいえ、僕は見かけてませんよ? 噂なら聞きましたが」


 孫六、十河一存の幼名である。

どうもその一存の所在は知らないらしいが、噂話を聞き入れたとのことらしい。


「聞いて驚かないでくださいね?」


「うっうむ……」


「孫六は……いえ、一存殿は……」


ーー女子おなごになって自衛隊員として勤務しておると噂が流れております。


「なっ、なんじゃとぉおお?!!」


 それが嘘かホントか、そもそもここに来てようやく1名除いて一門が揃うのかと長慶は驚きつつも、そんなことより性別が変わっているかもしれないという驚きでパニックを起こしかける。

しかも、よりにもよって自衛隊にいるらしいと聞けばどうしたものかと頭を悩ませることにも繋がった。

確かに鬼十河と呼ばれ恐れられた程の武将であった彼にはピッタリな場所だが、色々と情報を再整理する必要がありそうだ。


「……まぁともかく、確証がないですがこんな噂が流れていますので、確かめる必要はあるかと」


「そのような噂、どこから流れておるのだ?」


「私の所属しておりますいざよい連の皆様にお聞きした時に……。いや、この世では同姓同名の方もいらっしゃると聞きます。もしかしたら人違いである可能性も有り得まする」


「まさか、あのような姓がほかに被るとはかんがえにくいがのぉ……。十河家が讃岐国から出た話を聞いておらぬし……」


 武家で付いた苗字というのは、基本的に武家の中でしかその苗字は与えられず、そこらの身分の低い農民等には決してつくことは無かった。

苗字を付けることにした辺りで庶民がこぞって姓を考え付ける段階で被った可能性もないとはいえないが、それも低いだろう。


「一先ず、この話の続きは僕の家でしましょう。さっ車に来てください」


「ほぅ、ついに私の今日までの行いが報われるか……」


「して、車とは一体どのようなもので?」


「……乗れば分かりますよ」


 実休は少しだけイタズラな笑を零しながら、ここまで来るのに長慶も苦労したのだなと、改めて服装を見ながら判断した。

ジーンズの汚れや上着の汚れ、ボサボサな髪の毛に汗の匂いとホームレス不回避レベルの状態で、正直見るに絶えなかったのもある。

長慶そのもの自体は大した苦労を実休に比べればしてはないが、要領把握に苦戦したのが響いたのだろうか。


____Let's go home! 兄上を乗せて〜。

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