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第20話 ひとときのありがたみ

「ここが、苦労して手に入れた我が家ですよ」


「……といっても、賃貸ですがね」


 車を走らせたどり着いた先は実休の家。

賃貸マンションの一室を借りての生活である。

なお、道中の長慶はと言うと……。


「なっ、なんじゃこの早い乗り物はっ! このような物もあるのか!」


「これは車ですよ兄上。そこらの電車とそこまで変わりませぬ。ただ、個人の移動用というだけですよ」


 なんて説明しながら自家用車を運転する実休。

イベントの経営者のポジションとして仕事をすることでコツコツとお金を稼いだようだ。

そのおかげか車も時期相応に入手できており、今はワゴン車乗り。

車の概念などは長慶も把握はしていたが、実際に乗ってみるとこうも便利なのかと驚かされていた。


「なれば、私にも扱わせてくれたまえ」


「なりませんよ兄上。車の運転には免許が必要ですから」


「なぬっ、免許じゃと? 手軽には乗れぬのか……」


 「かご輿こしと違って、扱い方ひとつで自分や他人を簡単に殺せてしまう兵器ですからね……。火縄銃と同じですよ」


 管理の仕方は違えど、扱い方を知らぬものが持てばどうなるかというのは銃も車も変わらない、そう言いたいのだろう。


____こうして実休の家にたどり着いた訳だが……。


「沢山門があるようじゃが、これはなんじゃ?」


「門ではありませぬ。これはドアですよ。ここは賃貸マンションといって、別名アパート住宅とも言います。他の方も別の部屋でひとつの建物に一緒に住んでるんですよ」


「そして、その全ての部屋を管理する大家さんという人もいます。毎月1度、その大家さんに年貢をお渡しするんです」


「……その流れはあまり変わっておらぬのじゃな」


 渡すものが米俵ではないだけで、その地を管理するものに税を払うというような仕組みは、現代とは似ていると言えるだろう。


「まあともかく、中に入ってくださいな」


「うむ、入るとしよう」


 思えば、晴元の1件以来久しぶりの家となる長慶。

しかも今回は、かの一門との久方ぶりの出会いである。

まぁ、内装の狭さと言えば質屋よりも狭いのだが……。


「まぁ……狭いのは勘弁してくださいね。1人用なので」


「せっ、狭いのぉ……」


 1人が住むのがやっとな狭さで、デスクワーク用のPC置き場だけで部屋の50パーセントは占める。

もう半分で小さな棚やベッドを用意するため、ほとんど歩けるペースがない。

が、ものがちらかってる感じはなく、むしろものが少ないくらいである。

こんな中に長慶が買ってきた物を置くのだから邪魔以外の何者でもない。


「私の荷物をここに置く、と……その分余計に手狭になってしまった……。屋敷の生活が少しばかり恋しいわい」


 大名というのは、ずっと城にいるイメージを持たれやすいが、意外にも城の領内にある屋敷で普段暮らしていたりする。

普段使いするには城は不便だったのだろう。

なお長慶の居城のひとつである芥川山城は、当時はまだ狭いとされていた山城でありながら、非常に広い敷地をもっていたとされる。

そんな生活を知っているからこそ、今の実休の部屋が狭く感じるのだろう。


「あの時と今とで勝手が変わるのも仕方ないと思いますよ。僕だって慣れるの一苦労だったし……」


 実休が死んだことで人材不足が深刻化し、それが結果として三好家滅亡に繋がった大きな要因だとする説もあるくらい、実休は優等生だった。

だが、そんな実休でも苦労したのが現代語。

同じ日本人でも時代が変われば話し方から何からここまで変わるもんなのかと、学べば学ぶほど対応するのに疲れていたほど。


「今こうして暮らしてて思いますよ。当時の民も、こうして質素に暮らしてたんだろうなと」


 自分達は身分が高い武家であり、当時の身分の低い百姓や農民ではなかっただけ生活は豊かな方だったのだが、その時のひもじかっただろう経験をこの世界に来て実休は思い知らされたのだと言いたいらしい。

真面目な性格だった実休にとって、今のこの経験はなかなか辛いのだろう。


「今となっては、私らの方が身分は下のようじゃから、下は下らしく頑張らないかんのぉ……」


「そうですね兄上……。孫六の件も気になりますし、次の目標は孫六捜索ということにしましょう」


「うむ、それが良いな」


 こうして、2人は次なる目標を立てた。

自衛隊に所属しているという女性になった十河一存。

果たしてそのものは本当に十河一存本人なのだろうか?

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