実休ら三好家は、とりあえずの目標を制定した。
しかし、その目標へのハードルが思ったより高いことにも気付いていた。
まずいきなり自分らが赴いたところで出ては来てくれないだろうこと、もうひとつは、そもそもどこの駐屯地にいるのかすら分からない。
自衛隊にいるということはわかるが、陸海空の3つで別れてることもありなおのことどこなのかが分からないのだ。
「総当りしか今のところはないのでしょうか……」
そんな状況だから、決めたはいいけど動くに動けないでいた。
「私らも自衛隊に志願すれば良いのではないか?」
年齢制限があることを知らない長慶は、名案のように言葉にした。
「いい案ではありますが、僕はともかく兄上も志願……というのは少々厳しいのでは? 今年齢いくつでしょう?」
「私か? 私は42だが……」
「なら、入隊は厳しいでしょうね。同時に、私も35なので厳しいですね」
諸説あるが、実休は35歳程で亡くなったとされている。
しかし、こちらの世界に転移してきてから5年過ごしているので40歳という計算になる。
「年齢制限があるのか? 」
「ええっ。18〜33歳未満ですので基準値外になります」
「私はともかく其方がすんでのところじゃの……」
そうなると、やっぱり面会になるのだろうが……向こうが会う気がなければどうしようもない。
「……仕方ありませんね。最終目標はこれでいいとしても、別の小さな目標を作りましょう」
「とはいってもどうするつもりじゃ?」
「僕に考えがあります」
そう口にしたと思えば、スマホを取り出しどこかに電話をし始めた。
「もしもし、こちらいざよい連所属の実休です。あぁはい、お疲れ様です」
「私どもの連に所属したいと申しております者がいまして、私の兄なのですが……あぁ、ありがとうございます! それでは失礼します……」
ぱぁ〜っと急に明るい笑顔を見せたかと思うと、その顔で長慶を見る。
「ということなので、僕と一緒に踊っていただきますね、兄上?」
「どぉしてそうなるんじゃ! 拒否権くらいあろうて!」
どうも連長に話をつけて一緒に踊ることにさせられたらしい。
長慶からしてみれば、確かに見知らぬ文化故に興味はある。
しかしながら、なぜ人前で踊らねばならないのかという疑問は抜けなかった。
「他にもいろいろ考えたんです。ですが、もし自衛隊の方が来るとしたら、お祭りの時が1番なんですよ」
「仕事としてくるのではなく、プライベートとして来ることがほとんどでしょうから、探しやすいんです。それに兄上、上手く行けば名を馳せることも出来ますよ」
「ぐ、ぬぬ……」
名を馳せる……までは嘘である。
しかし、総踊りと呼ばれる徳島市で踊るイベントでは、テレビで中継されたりすることもあるので、それに映ることさえ出来れば……という話らしい。
なんせ、たまに取材されることがあるからだ。
「……いたし方あるまい。これも孫六に会うためじゃ。私も腹を括るとしよう」
「さすが兄上です! そういうことなら……色々と準備しないといけませんね」
実は内心、長慶と踊りたいと思ってるだけだったりする実休。
そのためにいくつか嘘は付いたが、実際人が多く集まりやすいお祭りという行事を利用して人を探すというのも面白いやり方である。
「踊り方などは教わりますからそこはご心配なく。服も貸与して頂けますから」
「(当日沢山人がいすぎて特定の人を探すというのはほぼ無理っていう話はあえてしないでおこう……。すいません兄上)」
こうして、実の兄貴を巻き込んで徳島の文化を伝えることにした実休。
しかしながら、こういう試みが案外有効だったりもする。
時期は5月に移り変わり、世間はゴールデンウィーク真っ只中。
果たして2人は目標を達成できるのだろうか?