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第22話 野望の始まり

 半ば無理やり実休に阿波踊りの文化を触れさせられることになった長慶。

文化人と言われた彼でも、拒否権なくやらされるものだから正直動揺している。

しかしそんなことよりも、今の実休をみて長慶はずっと疑問に思っていたことがあった。


「のう千満丸よ。しばし疑問に思っておったことがあるのじゃが……」


「? なんです? 兄上」


ーーあれだけ茶器を持っておったのに、茶はどうしたんじゃ?


 そう、実休も確かに文化人ではあったのだが……和歌が主体ではなく、現代で言う茶道のほうがどちらかというと主だった人物なのだ。


「言ったじゃないですか。僕は戦途中のところを、このような世界に転移させられたんです。茶器の一つも持ってるわけないじゃないですか」


「かといって、こちらの通貨を用いてまで茶を作るという文化も、あの時ほどは廃れてるようですし、それなら伝統文化とやらを触れておこうかと思ったのですよ」


 茶道という文化そのものは現代も残っていて、お茶に対する考え方自体も廃れては無いのだが、みなが集まってそれを嗜むことがひとつの交流の手段ともいえた戦国当時に比べれば、その機会が激変してることを悟って趣向を変えたのだろう。

なお、ギャグ作品なのに真面目に論じてどうするんだと思われるだろうが、実休は真面目な性格だったらしいので仕方ない。


「そういう兄上は、あのころの野心は何処へ?」


「其方に会うまでに色々模索しておったんじゃよ。義輝がおると聞いて探しに行ったり、私の城に戻るかと思っても綺麗さっぱり消えておったり……」


「野心そのものはあるんじゃが、こうも先進的過ぎるとやれることがのぉ……」


 実休もだが、長慶も現代と戦国とのギャップで散々揉まれ尽くしたが故に、今がどう言う時代かを理解してやることがほとんどない状態なんだと実休に話す。


「元の世界に、帰れさえすればのぉ……」


「その手段は、ないでもないですよ。形は違いますが……」


「あるのか?!」


「ええまぁ……。ですが、それをするにもまずは阿波踊りの稽古からですよ兄上」


「……そうじゃな、頑張るかの」


 こうして長慶は実休に阿波踊りを教わることとなる。

2人揃って男なので男踊りと呼ばれる踊り方を練習する。

恐らく読者の方がよく知る阿波踊りと言えば、女性が踊る女踊りのほうであろう。

厳密には連によって表現の仕方が違ってて、男性であっても女踊りのような踊り方をする連もあるのだが……それは言い出したらキリがない。

ちなみにいざよい連は、踊りというよりは"音での表現"が主である。


「足先を開いてがに股になるようにしながら斜めに足を出してー戻す。これを繰り返すんです」


「そして、手は……説明が難しいですねこれ」


 作者が語彙の限界に達したので説明は省くが、どの連でも共通してることは、女踊りはさほど変わらないが男踊りは個性が多分に出るということ。


「……ほんとにこんなことしてて私の野望は果たせるのかの?」


「正直、知名度は分かりませんが心構えは持てますよ。兄上程の特別な方ならね」


「世辞をあまり言うでない。未だにこの日本の勝手がようわかっとらんから動くに動けんのだ」


 政治家を目指すかなんて息巻いてた長慶も、今となっては現実を知って萎縮気味である。

しかし、ここぞとばかりに訪れた転機を利用しない訳には行かないと、長慶も必死になって阿波踊りを習得する。

片手間で徳島ラーメンを食べることになるのだが……こっちでも長慶は苦戦させられることとなる。


「なぜこうも味の種類だけで千差万別なんじゃこのラーメンとやらは」


「他にも有名なラーメンはありますが、多分徳島ラーメンという名称で知られてるなかで、徳島ラーメンの味といえばこれ!と定義できる物はないと思いますよ……」


「一応醤油味がデフォルトのようですが……あまりにも種類がありすぎますので……」


 なんて雑談をしながら、近所の老舗ラーメン屋で麺をすする二人。

徳島ラーメンには茶系・黒系・白系・黄系などと言ってスープの味やその色によって種類分けされているのが特徴で、1口に徳島ラーメンが食べたい!と徳島県民にいってもどれがどれなのか分からなさすぎて初見では勧められない名物料理だったりもする。

作者も、教えた1人だから言えることである。


「しかし、家で食べるというのも久方ぶりじゃの……」


「あとで、シャワーの使い方や洗濯機の使い方とかも教えますから、身を清めてくださいね兄上……」


「なに? そのような便利なものまであるのか。あいわかった。触れておこう」


 インスタントとはいえラーメンを美味しく頬張りながら、長慶はふと未来を見据えながら現在とてらしあわせた。


「(私の、"知名度を広める"という野心は変わらず持っておる。絶対に名を轟かせてみせるぞ……)」


 そう、胸の内にひめながら、長慶の知らないところで長慶が再評価されつつあることを本人は知らない。


ーー信長よりも先に天下人に……これを推さないのは教育に宜しくないかと。


ーー天下の三英傑が天下の四天王に変わる可能性……面白そうですね。

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