実休らが奮闘する裏で議論が行われていた日から数日後の事だった。
度々テレビでは、最近頻発する戦国武将出現事件についてのニュースが報じられていた。
「このような事態、有り得ませんよ」
「結城順子アナウンサーはこの事態をどう受け取りますか?」
「えー、あくまで希望的観測にはなるのですが、確かにあまりにも非現実的な出来事が頻発しているのは確かでしょう。
しかし、逆を言えば戦国当時の生活などを深く知れるいい機会とも言えます」
「なるほど、確かに分かり合うことさえ出来れば研究は捗りそうですね。ありがとうございました」
言語自体は日本語なので会話は成立するのだが、あまりに古代語故に専門家でもないと理解には苦しむのだろう。
三好家一門らのように馴染める武家ならともかく、そうでは無い家は果たしてどうなのか。
……? 一門
「……最近この話ばかりですねぇどこのメディアも……」
「私らがそんなに物珍しいんじゃろうか」
「違いますよ。学者の皆さんが研究したくてウズウズしてるんですよ」
「私たちを知ることで、私たちがいた戦国乱世の時代を深く知るために……」
「結果的には同じことじゃろうて。幼きときから軍法を教わるものや文化に触れるものがおるのとなんら変わりないわい」
「それとはまた規模が違いますが……そうなのでしょうね……」
未だ現代の価値観に完全には馴染めないでいる長慶。
自らの弟実休に遅れを取っている……という訳ではなく、長慶の方が後になって死に、早くに死んだもの達がこぞってこの世界に集まってきたようなものが故に兄よりも知識が豊富なだけである。
この理論なら、十河一存は一体どうなってしまうのだろうか。
「まぁよい。久秀を探してこのような事態になった事を言及してやりたいところじゃが……あのものは織田に下ったと聴いておる。今から信貴山まで赴くのは、当てずっぽうじゃからのぉ……」
「何事も情報を得てからです。今確実であろう孫六の行方を追求するのが先でしょう兄上」
「そうじゃな……」
改めて今後どうするかの話し合いをした上で、気づけば長慶は阿波踊りの男踊りを習得していた。
話しながらも癖で踊るようになる始末。
「……あえて突っ込んでませんでしたがとりあえず兄上、話しながら踊るのだけはやめてください」
「県のイメージが"踊ることしか能がない県"とかになりかねませんから……」
あくまで偏見だが、実際皆は徳島県と聞いてどのような県であるか想像ができるだろうか。
四国地方にある香川県の下にある県ということすら忘れられがちの徳島県は、鳴門の渦潮や祖谷のかずら橋など、有名な物はあるにはあるが、それ以上に魅力が無さすぎて存在がうすすぎるのである。
故に徳島と聞くときっと大多数は、より知られてる伝統文化である"阿波踊り"のイメージを思い浮かべるだろう。
まぁ実際、ことあるごとに踊ってる県だから間違っては無いのだが……。
しかし、そんな徳島県もいい所はある。
「じゃか千満丸よ。阿波国の良さを忘れおったか?」
「良さ、ですか……?」
「そうじゃよ。それは……」
ーー何も、ないこと。
長慶はそう堂々と答えた。
何も無いというのは、語弊を恐れずに言うなら、文字通り発展の見込みも感じられない位田舎の要素が強いということ。
でもそれは、自然豊かな風景を静かに楽しむことが容易であるというものの見方もできるということ。
田舎ならどこでもそうだろうと言われればそこまでだが、栽培もしやすい気候であるこの地方は、家庭菜園にも向いている。
「このような風景、孫六とも見れれば良いのだが……」
「そういえば、直接会えるかは分かりませんが、自衛隊の部隊が来るって言うイベントがあるようですよ」
「ふむ。そのような催し物があるのなら、そのイベントの時期にでも向かってみようぞ」
「して、いつ行われるのじゃ?」
「開催日は……。この5月17日ですね。こちらは海上自衛隊のイベントですが、陸の部隊も一緒との事ですよ」
「海か。新たなる景色を見るためじゃ。今日は15日であるからして、早速準備を致すぞ」
「ハッ! 兄上」
つい条件反射で片膝を付いてしまった実休。
それに気づいた長慶がふと視線を実休に向けたあと、すまぬと言いたげに体制を戻せと伝えた。
イベントが明後日に控える中、孫六の幼名を持つ十河一存に近づく2人。
果たして、向かう先に十河一存はいるのだろうか。
ーー……そろそろ頃合か。主もご苦労だったぞ、仮初のワシよ。
ーーいえ、ご名誉であります十河一佐。
ーーなれば、ワシも海自に合流せんと伝えてくれ。これを終え次第、主の任務は終了とする。その後は好きになされよ。
ーー分かりました。