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第25話 爆誕っ! SAMURAI!!

 あれから多様に時間をかけること約2時間。

徳島市の方面にある海辺に到着した。

いざ着いてみるとやはり人だかりが出来ており、早めに来たというのに駐車場がほぼ満車だった。

しかし、幸運にも1箇所空いてたところがありそこに停める事が出来た。


「とりあえず……停めれはしましたが、やはり車は多いですね……。兄上、一応言っておきますが迷子にならないようにしてくださいね?」


「戦の感覚と思えば迷うことなぞ……街道が使えぬなら分からぬな……」


 分かりやすく言うと、道無き道を移動して目的地にたどり着けるかと言われたら怪しいよねってことだ。

とはいえ、沿岸部の移動だけであるため恐らく迷わないだろう。

少なくとも実休は……。


「こんな時、千々世が居たらと思うと、安心感が違いますね……」


「千々世、か……」


 千々世とは、長慶自ら切腹を命じたやら自ら殺したやら説が様々ある安宅冬康あたぎふゆやすの幼名である。


 さて、ここまで来て一門なのに苗字がみなバラバラで意味不明に感じていることだろう。

苗字に関する解説は別の回で設けるとして、冬康は安宅水軍を率いてたとされる武将だったとされている。

でも、それ以外何したのかほとんど情報が出ていないはっきり言って1番1門の中で存在が薄い人物である。

強いて言うなら、とても優しい人物だったことと、松永久秀とは仲がやっぱり悪かったことくらいである。


「? どうしました? 兄上。深刻な顔をして」


「あぁ気にするでない。しばし考え事をしておっただけじゃ」


「……そうですか……」


 口でなんと言おうと、やはり実の弟を手にかけたことは変わりない故に、こればかりはずっと引きずって生きていくことになりそうだと確信している。


「まあよい、ずっと車の中におってもあれじゃ。外に出て軍船を見ようじゃないか」


「厳密には軍艦ですが、そうですね……。向かいましょう」


 そうして長慶らはトコトコ歩いて、軍艦の見える場所までシャトルバスを利用して進むこととなる。

シャトルバスでの移動中……。


「(ふむ。この運転手もじゃが見慣れぬ服をしておるの。特に装飾がより一層特別感を増しておる……。不思議じゃの)」


 長慶はシャトルバスを運転している運転手の服装を見て、まるで研究するように隅々を見て回る。

着ている服といえば、海自の制服で、それに対応した肩章や賞賜などもついていた。


「しかし実休、このバスは金を使わなくて良いのか?」


「えぇ、無料ですのでいいんですよ」


「そう言うのもあるのか……」


 無料、と聞くと途端に怪しく感じてしまうのは日本人だからだろうか?

しかしながら、お金を使わなくて良いともなればその分はなにかに使えるとも言える。


「さて、シャトルバスを経由してついに着きましたね。護衛艦の謁見です」


 シャトルバスを下車し、潮風が吹き付ける中、やっとの思いでたどり着いたこの場所に、どこか感慨深さを覚えている2人。

そこに、1人の女性が近づいてきた。


「あのー。もし人違いだったら申し訳ありませんが、三好長慶さんとその弟さんですか?」


 身なりは至って普通の女性で、特徴らしい特徴がさほど見つからない。

強いて言うなら、何故かこんな場所で目立つ和服だし何故か髪にかんざし付けさせられてるだけである。

美人だし似合うのだが、あまりに場違いである。


「そっそうですが……何故僕達のことを? もしかして……」


「其方が……十河一存……なのか?」


 長慶と実休は、自分達のことを知りうる人物に出会い、一瞬嬉しいと思いつつも疑問が広がっていた。

やっぱり一存はおなごに転生したというのだろうか……? と。


「えぇそうですよ。……っと言いたいところですが、案内したいところがあります。着いてきて頂けますか?」


「はっはぁ……」


 若干困惑する実休。

しかし、なにか用事があるらしく、そういうことならついて行こうかと兄の様子を見るが……?


「千満丸よ……。これははかりごとかの?」


「それは無いと思いますよ。……とは言ったものの、かなり場違いな服は着てますが……」


 まず長慶が先に小声で実休へ耳打ちをする。

その後に、実休も投げかけられた疑問に返答する形で同じように耳打ちをした。

どっちにしても、そんなことをしながらも2人の足は目の前を先導する十河一存を自称するナニカについて行く。


「連れてきました。十河一佐」


「ご苦労。もう下がって良い」


「ハッ!」


 案内された場所にたどり着いてみれば、護衛艦の傍に置かれた床机に足を広げてどしりと腰掛けるイカつい男の姿が。

その周りを付き添いだろうか、何者かが2人くらい一緒にいるのが分かるが、見てくれでは自衛隊かどうか疑うほどに、何故か甲冑を着せられている。

しかも、レプリカではなく見た感じでは本物を……。

髪もちょんまげヘアーに統一されており、現代人の服装でもなければ自衛隊特有の迷彩服でもない。


「それで、主らがワシの兄者らであろうというつもりで前から情報を集めておったが、もし本当なら兄者らも品層が悪くなったのぉ〜」


 なんて、腰に掛けた刀を揺らしながらゲラゲラと笑う。

ちなみに、自らの服装も甲冑であり、十河一存が実際の戦で着たとされる甲冑をそのまま着ている。


「…………」


 それに対し呆気に取られる実休。

自衛隊がこんなことして大丈夫なのか?という疑問と、こんな装備で今の国守れるのか? という不安も募っている。

どう見たって装備紹介の項目にあるのは、長槍や火縄銃なんかの今の時代に似つかわしくない武器ばかりなのだから……。

かと思えば急に装甲車や輸送車など近代化するのだからもう意味がわからない。


「どうじゃ? ワシがここ数年間で築き上げた、通称"SAMURAI部隊"は! 自慢の部隊じゃぞ!」


「……のぉ孫六よ。私は長慶だが……、さすがに乱世と近代を一緒として考えない方が良いと思うのだが……」


「何を申すか兄者! 武士は武士らしく振る舞い! 武士らしく日本ひのもとの前に散るのが当たり前じゃろう!」


「それに! 今の日本は精神がたるんどる! 故に、ワシが特戦群よりも秘匿性があり、そのうえで思考を叩き直したものを作ったんじゃ」


 一存曰く、今の日本は長らく戦ってないせいで平和ボケしていて、そのままでは他勢力が攻めてきた際にまともに戦えぬだろうと言いたいらしい。

現実の日本が管理する自衛隊は練度が高く日本独自の兵器も、10式戦車などはかなり優れている。

しかし、命をかけた戦いを知らず、甘い蜜だけを吸っている今の日本では、その技術も無駄になると考えたようで、その腐った性根を叩き潰す為に専門の部隊を作ったとの事だ。


「……孫六も、苦労してるんですね……」


「……そうらしいの」


 2人は、ここまで熱弁する一存をどういった目で見てやればいいのか分からなくなって、ついには真顔で対応し始めた。


「まぁしかし孫六、情報網を敷いてたとはいえよく僕達がここに来るとわかりましたね」


「主が所属するいざよい連あるじゃろ?」


「えぇ」


「あそこでここに来るようにわざと仕向けておいたのじゃよ」


「?! ということは……」


「はっはっは! どうも熱心に阿波踊りの練習をしておったようじゃが。そんなことをせずともワシには会えたんじゃよ。まっ、まだ主らが本当の兄者かは信じられはしないがな」


「そりゃ、僕や兄上だって……」


「私も、正直……」


 そう、一存があまりに早く病没したもので、今の兄弟らの顔を認知出来ないのだ。

とはいえ、実休についてはそうでも無いらしく……?


「主は恐らく兄者じゃろう? 何となく記憶があるわい」


 そういってひとさし指をさされたのが実休だった。


「孫六が亡くなってからそう時間経ってませんからね……」


「となると、残りは私だけか……」


「まあよいわ」


 なんて色々話していると、一存の元に1人の足軽装備を着た隊員が駆けつけてきた。


「十河一佐! 通達です!」


「なんじゃ身内の与太話をしておる時に」


「申し訳ありません! ですが緊急なのです」


「よいから早く要件を申せ」


「ハッ! では恐縮ながら……。我が部隊の隊員の1人が不慣れな装備を身にまとったことで、先程転倒し、足の怪我をしたそうです。軽傷ですが擦り傷です」


「そのような軽微な怪我でいちいちワシに報告をするでない! その程度なら傷に塩と梅肉でも擦って治して居れば良い」


「ハッ!では失礼しました!」


 一存達の1連のやり取りが終わった後、顔を向き直して長慶達をみる。

もう、2人は絶句していた。


ーーどうしてぇぇぇ〜!


 この瞬間、2人の脳内は宇宙猫に満たされた。

こんなノリで2人はついてこれるのだろうか。


「其方はまたそれなのか……」


 "また"というのも、戦国時代当時はまともな医療を受けられていたのはかなり限定的な人物であり、そうでなくてもほとんど医療技術が発展してなかった時代。

そんな時代では、怪我をすればその場所に塩と消毒の役割を果たす梅干しを使って後方にて下がって治療して……というのが一般的だった。

ちなみに、十河一存に限ってはこれをずーーーっとやりながら戦い続けており、とある面白いエピソードでは……。


ーーチッ、この腕では、まともに槍も振るえぬか……。仕方ない、塩と梅を使うといたそう


ーーよし、塩を塗り蔦で縛り終えたぞ! 今一度出陣じゃ!


 というノリで出陣したエピソードがある。

こんなんだから鬼十河なんて呼ばれたのだろう。

そうでなくても部下の扱いも雑だったなんて伝わる彼のことだ、現代に来てもその感覚は抜けないのだろう。


「ふんっ、軟弱者は強くはなれぬ。常に強靭であることこそ武士の誉れぞ」


「あーもうそういうのいいんでまともな装備支給してあげてください孫六」


 そうして、一応今は一般人の扱いである実休が一存相手に呆れ顔で話すのだった……。

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