ーー手はずは済んでおるか?
ーーハッ。かの将軍様との約定を結び、我らに手を貸すことになっております。
ーーなれば、機を見て長慶を此度こそ討つぞ。
不穏な影が降りるこの日本で、やっと兄弟が3人まで集まった長慶一行は、十河一存を加え、ふたたび実休の家に向かうことに。
「それにしても孫六、あのような鉄砲や武具は見たことがなかったが、あれはなんだったんじゃ?」
「あぁ、20式5.56mm自動小銃と迷彩服のことか?」
「あれらは最新技術を用いて開発された新兵器だが……、ワシらの部隊には配備されておらん」
十河一存率いるSAMURAI部隊なる場所ではどうも最新鋭の装備は配備されてないらしく、一般的にも認知度が高い89式自動小銃のようだ。
変なところで武士道極めすぎた彼でも、この時代にもなって槍1本で戦う気はないらしい。
「では、何故甲冑なんじゃ。私は色々学んだが、今の日本じゃ意味をなさないのじゃろう?」
当然ながら、戦国初期の頃の甲冑を今使っても、ただ重いし移動に不便なだけで今の弾を防げるわけが無い。
「そんなことはわかっとるわい! じゃが、武士たる者、志なくてはしまらんのじゃ」
「それなら……僕思ったんですけど、なぜ民の為にって思考にならないんです?」
「………………すまぬ、多忙ゆえ正直忘れておった」
「当家の方針をお忘れとは……、相も変わらず鬼ですな」
当時の武士の末弟は、反乱などを企てられても困るからと、教養がほとんどない状態で戦に駆り出されていた事がほとんど。
それは名のある家であっても同じようなこと。
しかし、三好家はそれに当てはまらなかった武家とされていて、鬼十河と呼ばれた彼も実はこう見えて文化人だったとされる。
「しかし兄者。そうは言うが、慣れ親しんだ武具の方が扱いやすくていいわい」
「……否定はしませんが、定められた軍法は守らねばいけませぬ」
「まぁ其方は戦となると、まさに鬼のごとき振る舞いで雑兵を薙ぎ払うからのぉ……」
自分の弟とはいえ、時代が変わっても硬派な考えなのは変わらないんじゃなと少し感傷に浸りながら、助手席で腰掛け直す。
すると次の瞬間、実休が急ブレーキを踏み車を止めようとする。
今は下道、高速からはとっくに降りており人気のない場所。
シートベルトの存在を忘れていた一存は、盛大に後部座席から前方に吹き飛ばされ、長慶の座る座席に顔面からぶつかった。
長慶は初めて車に乗った時に実休から教わっていたから怪我は無いが……。
「どっ、どうしたんじゃ千満丸。何かあったのか?」
「だっ、誰かが僕達の行く手を封じてます。ほら」
「ってて。なんだいまのは! 兄者何事じゃ?」
「……なにか良からぬ気配を感じます」
実休は、近くの幅が広い道路の片隅に車を1度止めて車からおりることを選ぶ。
"なにか良からぬ気配がする"そう話す実休の予感が当たるのか否か、確かに彼らの前方には人影らしきものが見える。
そのまわりには別の影も見えるが……。
「なんじゃ、あれは……」
「兄者、状況はよぅ分からんが、これは戦になるやもしれぬな」
「……孫六がいうのなら、そうなのじゃろう」
残りの長慶と一存が下車したところで、前方の影は高らかな声を上げ宣言する。
「我こそが管領、細川晴元! 政長と将軍様の無念、忘れたとは言わせぬぞ、長慶!」
「近くば寄って目にも見よ、余こそが室町の将軍、足利義輝! 今此処に逆臣長慶を討伐し、京への足がかりとせん」
1人の老人とその隣にいるまたも老人。
細川晴元は長慶にとっても一門にとっても仇だが、長慶からすれば今世でも一時的に世話になった相手。
もう一方は、長慶が押し進めた三好政権中の足利将軍。
江口の戦いの頃は義藤と名乗り、将軍を継ぐ間もなく追放された者だ。
今まさに、存在しなかった戦が起きようとしていた。
__もしも江口の戦いで管領晴元が逃げ出さず、次期将軍を連れて長慶討伐に動いていたら。
「……あれは、どうしたものか……」
「素直に警察に通報したいのですが……、残念ながら携帯の充電が無くなりましたし、近くに交番もありませんね」
現在の所在は徳島県の松茂町という場所。
なんの因果かかつて実休が入った城がある付近での待ち伏せだった。
幸いその城、勝瑞城は跡地として残っており、その場所に車を止めることができたから良かったものの、近場には民家もあるためこのままでは大事になりかねない。
「どうした逆臣。あの時の威勢はどうした? このごに及んで理世安民をまだ唱えるか?」
「もう既に将軍様の謀によりこの地は抑えておる」
どうも、民家からの迷惑は考慮しなくていいらしい。
無数の太刀を地面に刺した状態で、仁王立ちしながら義輝が挑発するそばに堂々立つ晴元の眼光は、長慶を向いていた。
「お主の家臣には大変世話になったからな。もうその時には長慶は死んでおったが、余の命を取らんとする動きを久秀に命じるとは思わなかったぞ」
「?! 久秀が将軍様を? そのような命は下しておらぬぞ。第1、私の家臣といっても久秀の他には石成友通と、残された我らが一門の他には……」
「そうじゃろのぉ。その残された一門...三好三人衆に余が殺されかけたとは知らぬよのぉ……」
義輝は、永禄の変の時の恨みをぶつけんと、道路に刺さった太刀を一振抜きながら構え直し、長慶に再度蛇睨みをぶつける。
「僕たちが帰るべき進行方向に待ち伏せしたうえで、警察を呼ばれぬよう工夫したというのですね……。さすがは将軍様、お労しいことで……」
「兄者! そんな悠長なことを言っとる場合か! ワシが知らぬところで殿が……兄者が死んでおるとは何事じゃ」
「孫六、その話はあとじゃ。話せば長いのでの……」
「我らは武器なし故不利じゃが、逃げては武士の名が廃る! ゆくぞ! 千満丸! 孫六! かかれぇえ!!」
3vs2という数だけなら三好一行が有利なこの戦い、晴元らを撃退することが無事にできるだろうか?