「かかれっ!」
長慶指揮の元、晴元ら相手に戦もといただの喧嘩が始まる。
まず最初に先陣をきったは一存だった。
「じゃじゃ馬に突き飛ばされたが、刀傷に比べればこんなものっ!」
義輝がどこからか用意したのであろう地面に突き刺さった刀を1本抜き、義輝と刃を交える。
「ほうっ、お主は確か十河一存……といったな。なれど、そのようななりでは……」
一存が踏み込み、義輝にみずからの刀身を振るうも、その瞬間を突いた義輝により踏み込みの素早い振り下ろしが飛んでくる。
「鹿島新當流 一ノ太刀……!」
踏み込む一存の頭部を狙う、圧倒的な速度の一閃。
一撃に重きを入れ、相手が間合いに入った瞬間を狙い斬り伏せる基本の技であり、義輝が最も得意としていた技だ。
「ぐぅっ、将軍様は大人しく鞠でもしておればよいのだっ!」
一存は咄嗟の判断でその一撃を、刀を斜めに構えて滑らせるように受け流す。
僅かに掠っただけで容易く斬られた
「槍さえあれば良いのだが……兄者! 仇は任せた! ワシは将軍様を抑える!」
「孫六がいうと別の意味で不安ですが……わかりましたっ! 兄上、僕たちも行きましょう」
「さっきそう号令したところじゃろうに」
2人も、一存に続いて地面に刺さった残りの刀を1本ずつ抜いて、二人で左右から当たるように陣形を組みながら晴元に攻撃をしかける。
「"てんせい"とやらは幾分不便じゃ。じゃが……良きことにも出逢えた!」
2人が刀を手に持ち斬りかかるまでの一瞬、晴元自らも鞘から刀を抜き応戦する。
「今一度応えよ、宗三左文字!」
「……! 宗三、左文字……じゃと?」
長慶の刀をひとはらいで払い除け、実休の刀を受けたかと思えば腹部に蹴りを入れ吹き飛ばす。
そんな晴元の手にあるは1つの名刀……。
「政長から渡っておったのか!」
現代では義元左文字と銘を変えられたこの刀は、元々三好政長が保有し晴元を通じて武田晴信へと渡された一振。
その後今川義元の元へこの刀が渡され、桶狭間の戦いで信長が手にした際に銘を変えた刀。
幾度と天下を収めんとする大名の間を渡り着いだ名刀である。
しかし、そんな名刀は晴元に呼応しているようにも見える。
何やら様子がおかしい。
「くっ。迂闊でした……」
「良い。しかしあの刀は担い手を蝕んでおるわ。私への恨みがさぞ詰まっておるのだろうな……」
長慶は姿勢を立て直したあと、1度集中するために空を斬った後、ゆっくりと歩き息を吐きながら晴元との距離を詰める。
「何をブツブツとっ! 斬り伏せてくれるっ!」
晴元は、我を失ったかの如く刀を夢中にふるう。
その振るいは、とても管領までになった者とは思えなかった。
「歌連歌」
それを逃さなかった長慶は、言葉をつむぎながら歩み寄り、ひと振りずついなしていく。
「ぬるきものぞと言うものの」
そして、弾いた刃ひとつにつき晴元に衝撃が加わり、一歩ずつ二人が動いていく。
「
そして、晴元の力任せの振り下ろしを容易く躱し、その長慶の刀は、確かに宗三左文字の峰を捉え.....
その名刀の刀身を、甲高い音と共に叩き折った。
「晴元公、其方は政長のあった頃と変わらぬ」
「武士たる心構えすら忘れたか? 正しく物事を見て戦の意義を想えぬならば、私に勝てはしない」
刀を折ったその太刀の峰で晴元の膝裏を叩き姿勢を崩すと、そのまま宗三左文字を折った刀を晴元に突きつける。
「……一門殺しのお前に、武士の志など語れた口か?」
「?! 其方、なにゆえそれを……」
「兄、上……? それはどう言うことで……?」
晴元の傍に冷たくも優しい風が吹いた。
その刹那、未だ刃を交える義輝と一存以外のものは時間が止まったように動かなくなった。
「なにをよそ見しておる将軍様よ」
「なぁに、お主の刃も、槍なくてはこの程度かと思っての」
「そうは言うが、お召し物がそんな状態じゃ……格好もつかないじゃろ?」
一存は義輝とずっと刃を交えていたが、どうも義輝の方が劣勢らしく、義輝の着ていた服の所々に斬撃の跡が残っている。
一部は斬られすぎて服だったとも思えぬほどだ。
「?! いつの間に」
「そういえば将軍様は今指名手配されておるはずじゃのぉ? 牢におったはずじゃろうに如何様にしてこの場におるんじゃ?」
「……恨みある限り、余を縛ることは出来ぬわい」
方法はどうも不明らしいが、三好家が存在する限りいつまでも邪魔をするという意思表示らしい。
「……ばかばかしいのぉ。そんなことなら、命張って戦うのもアホくさいわい」
あろうことか、敵を前にして刀を捨てた一存は、堂々とその場であぐらをかき始めた。
そして、のんびりとポケットからスマホを取り出す
「じゃから……ワシはワシの立場を利用させてもらうわい」
ーー十河一佐! どうされましたか?
「
ーーわかりました!きっと例の指名手配犯ですね。MPを介して手配します。
MPとは、自衛隊内での警察のことで駐屯地の治安を守る役割を果たすのが主。
しかし今回は、公安の警察に連絡をするようにと手配を回してくれるよう一存の命で動いたのだ。
それを、スマホのSNSアプリLINEで伝えた。
「なんじゃその四角い箱は。余の前でそのような愚行、介錯でも求めるか? ならば、死ねいっ!」
だが、連絡してすぐに義輝は一存の首をとらんと斬りかかる。
「いいのか将軍様、今は乱世じゃない。これ以上罪を重ねては、帝もさぞ悲しまれるぞ」
もちろん、自らも刀を手に取り戦った以上銃刀法違反を犯したことになる。
それは我が兄者である長慶や実休にも言えたこと。
巻き込んでしまったことに責任を感じながら両目を瞑る。
「……ふんっ。命乞いにしては華がない。まぁよい、何をしたか知らんがまた捕まるのはごめんじゃ」
そういって一存の首に刀が届く寸前で手を止め、その刀を捨てた。
義輝が一存に背を向け去ろうとすれば、今度はなぜか刀が勝手に消滅する。
かと思えば最初からそこには何も無かったかのように、晴元も共に人の影さえ消えていた。
「……なんと、私は、魂を見ておったのだろうか? 犬神に操られ、見えもせぬ敵と戦っておったのだろうか……?」
「それよりも兄上、お聞かせ願いたいのです」
ーー一門殺しとは、なんの事にございますか?
実休は、幻影か実物だったか分からない晴元が放った言葉に違和感を覚えていた。
「……答えかねるな」
「なぜです! なぜお答えに……!」
「これは……これは久秀に託したはずの……今後の当家にとって良いことをしたはずのことじゃ! 私より先に死んでもうた千満丸や孫六は知らぬで良い事じゃ」
「…………そんなことじゃ、逆臣が増えることになるかもしれないんですよ?」
「ただでさえ私らは既にあの乱世で死んでおるはずなんじゃ。それを現代に来て影響を及ぼすということはどういうことか分からぬのか!」
長慶は一喝した。
もちろん、このような時代でさえなければきっと答えただろうが……これ以上の歴史改変を起こさぬためにも真相を話す訳には行かぬと話すことを拒んだのだ。
タイムパラドックスという言葉を、これまでの出来事で体感的に理解したのだろう。
「……なら、はっきりさせてください。兄上は、日の本の福王たる存在であると! 決して魔王なんかにならず、民のため世のため尽くし福をもたらす存在でおわすと!」
それに対して実休は怯むことなく自らの想いを伝えた。
無差別に人を殺すような兄上ではなく、時には恨みすら捨て和睦を望んだかつての頃と同じであると信じて……。
「時が来たらじゃ、話さねばならぬと思うた時が来れば……話してやる。それまでは、わだかまりを捨てよ」
「ハッ! 兄上!」
長慶はすっかり暗くなった夜空を見るように上を見た。
曇り空か星はほとんど見えないが、青白く光る恒星が、間違いなく長慶達を照らし続ける。
声をかけ、応援するように……。