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第3章 結集、そして

第30話 影の暗躍者、遭遇?

 晴元ら反三好勢力により波乱や苦難を経験した一存との再会の後、しばらくは実休の自宅で英気を養っていた長慶一門達は、この流れだと安宅冬康や松永久秀、そして長慶の息子である義興にも会えるのではないかという雰囲気を出す中で、長慶は今再び難局に立たされていた。


「のぉ千満丸よ、この"げぇむ"とやらはなんなのじゃ?」


「おや? もうすっかり経験していらっしゃると思いましたよ」


 今となってはレトロゲームと分類付けされるハードであるPS4ことPlayStationシリーズのソフトに翻弄されていた。

その名はーー


「戦国武将ならば1度は経験しておかねばなるまいと! 信長の野望 新生! とやらを購入してプレイしておりまして……」


「違う! 私が申したいのはそこじゃなくてだな……!」


 そう、かのコーエイテクノゲームス様が企画・開発されたこの信長の野望シリーズの現状最新作(スマホゲーは除く)を長慶がプレイさせられていたのだ。

最近新バージョンを発表され、無料アップデートで決戦システムなどが実装されたこのゲームを遊んでいる訳だが……どうも長慶は戦国時代にはなかった"げぇむ"という要素に酷く翻弄されているようで……?


「なにゆえ! 何故うつけのげぇむを遊ばればならぬと申しておるんじゃ!」


「しかもなんじゃあやつは! 何故自らを第六天魔王と名乗り堂々と比叡山を焼き討ちしておるんじゃ! 」


 史実通りの展開やそれをねじ曲げてのifプレイを楽しめるのがウリの本シリーズで、まさに信長が史実でやってのけた比叡山焼き討ちというイベントを目の当たりにしていて大混乱!

しかも長慶がプレイする三好家では既に長慶を除く主要一門が史実通り死んでおり、長慶も本来なら亡くなっているはずが実休の計らいにより長慶だけは編集機能を使って長慶の寿命を限界まで伸ばしているから余計に混乱している。


「……解説されていたでしょう兄上? 仏教徒を謳っておきながら戒律を平気で破り、ついには武装し信長に対し牙を向いたことへの報いだと」


「その焼き討ちに怒り、書状で咎めた武田信玄に対して"我第六天魔王なり、そんな戯言は知らぬわ"と返答したと……」


 なおこれは実休が勝手に意訳しただけで史実での信玄に対する発言は全く異なるが概ねあっている。


「納得がいかんわい! 私は大体のことは学で知っておったしこの世に来て学び直したとはいえ……何故あのものが主役を名乗ってるのかが分からぬ!」


「私こそが、私こそが天下人だと何度申せば!! おのれぃうつけめっ! 私をなきものとして扱いしくさって!」


 某企業さんも真っ青な屁理屈で信長勢力に果敢に戦をしかけ続ける長慶。

なおイベント通りの展開ではあるが長慶が死んでいない為久秀だけはまだ残っている。


「しかもなんじゃ久秀のやつ! 平蜘蛛を粗末に扱いおって! なぁにが"弱き者らよ、情けなど望むでないわ。いねぃ!" じゃ! あのような出来のいい茶器を何度も焙烙ほうろくのように扱いおって!」


「……仕方ないじゃないですか、松永久秀は史実によると信貴山城の戦いにて平蜘蛛に爆薬を仕込んで信長の愛する茶器と共に爆ぜたと記録が……」


「そうじゃないわい! 私は! 私は久秀に全てを託したのじゃぞ?! 三好家の存続の為に!!」


 画面越しで行われる激しい激闘もさることながら、その外側もまた激しさを増していた。

"織田がつき、羽柴が捏ねし天下もち、座りしままに食うは徳川"

ここに "名前を入れろと怒るは三好" が追加されるのも近いだろうと思える程に長慶が激怒しているのだ。

そんな大声を出すものだから部屋の壁越しからゴンゴン!と激しく打ち鳴らす音が響き渡る。


「とりあえず兄上、お声を控えめになさってください。ご近所様から苦情が来ておりますので……」


「そっそうか……それは、すまなんだ……」


 実休からの諌言を経て一旦冷静になった長慶。

しかし冷静になれど状況は劣悪で、信長勢力相手についに三好家は本拠である芥川山城ただ1つを残すのみとなってしまった。

衰退する三好家を目に長慶が見たものは……。


「なっなぬ?! うつけからの約10万の軍勢じゃと?! 使者も来ておるとな……ふむ、通せ」


 このゲームでは、プレイヤーが劣勢になれば相手からの使者が来て停戦するかあるいは従属するかなど様々な方法で相手と和睦を結ぶことが出来、もちろんその逆を相手に強いることもできるが……今回はそうならなかったようで……?


「なに? 従属じゃと? バカをいえ! かようなうつけに頭を下げるくらいなら、大名らしく抗ってくれるわ!」


「……あれ? 兄上……理世安民……」


「やかましい! うつけ相手は別じゃ!」


 いつも冷静で民を思い家を大きくしてきた長慶も、自らを差し置いて天下人を名乗る信長相手ともなると人が変わるようで、せっかくの使者との取引も取り消してしまった。

そうなると待っているのは……


「なっ! 陥落?! 」


ーー三好家は滅亡してしました。あなたの野望もここまでです。


 自らが本拠の城が落ちたと思うと、その瞬間に顔面に映し出されるは業火に包まれ殺伐とした城のイラスト挿絵と、その下に表示される無慈悲なコメントが画面中央に表示されたかと思うと、ゲームのオープニング画面に戻されテーマBGMが流れる。


「なんじゃと?! 私の野望はまだ終わっておらぬわ! 勝手に決めるでないわ!」


「……どの道従属してても天下への道は閉ざされますゆえ実質ゲームオーバーでしたが……なんとおいたわしや……」


「おのれぃ! 何故このような"げぇむ"でも滅ばねばならぬのだ! しかも久秀の奴、千満丸が死んだタイミングから既に謀反を考えておったとは……! 」


「兄上、これはあくまでフィクションです。もし久秀様とお会いすることがあっても躍起になって問い詰めるのはおやめ下さいね?」


「そんなことはわかっておる! じゃが……それでも私は納得がゆかぬ! 千満丸よ! 今一度我が野望を……!」


「はいはい、分かっておりますよ。では次のシナリオはーー」


 そう言って実休が代わりにコントローラーを手に取ったかと思うと、次に選んだは1534年6月、あの信長が誕生した年のシナリオだ。


「千満丸……其方まさかわざと選んだな? あの憎き晴元の細川家しかおらぬじゃないか!」


「ということですので独立頑張ってくださいね、兄上!」


「おのれえぇぇえ!!」


 年甲斐もなく雄叫びを上げる長慶に、それを聞いた実休が必死に長慶の口を抑え隣人への迷惑を避けようとする。

すると当然長慶は暴れ始めるが、途端に大人しくなる。


「……喚いていても仕方の無きこと。不服じゃが、また独立を目指すかの……」


 こうして、長慶がプレイする信長の野望新生は始まった。

この世のどこかにもしかしたらいるかもしれない残された家臣を探すためにも……。


「(兄上にとっては苦痛でしょうけど、これも兄上の目標を推進するための修羅の道……。僕がサポートを続けなければ……!)」


 そうしてテレビ画面にかぶりつく2人を尻目に、一存はまたスマホを取り出しどこかと連絡をとっていた。


「……了解。すぐに戻ることとしよう」


 そう言ったかと思うとスマホの通話画面を終了させ、身支度を始める。


「孫六、どこかゆかれるので?」


「ワシの仕事を忘れたか兄者。 ワシは幹部故駐屯地に戻るよう命じられたんじゃ」


「あれでも今日は休みだと……」


「あの頃とは違うのじゃよ兄者よ。どうもワシの管轄に置いている中部方面軍で騒ぎがあったらしいからそれの対応をせよとの命での」


「騒ぎ……ですか?」


「詳しい事は機密ゆえ兄者相手でも言えぬが、ともかくワシも1度戻ることとする」


「そうですか……。ご武運を」


「安心せい! ワシは2度も苦虫を噛まんわい!」


 そう言って身支度を済ませると一存は足早に実休宅を後にした。


「さぁってと兄上、天下統一を目指して行きますよ!」


「……コヤツは処断! さらにコヤツも!!」


「ちょ、ちょっと兄上?! 政長……はともかくとして他のものまで斬り捨てては忠誠心が……!」


「分かっておるわい! じゃが私は許せぬのじゃ! 父上の仇を今のうちにも!」


「……これは、手がかかりそうです……」


 半ば自分が楽しむ為にわざとこのシナリオを選んだが、それがあだとなり崩れゆくフラグの数々……。

そして大名の横暴な態度により離反するもの達……これでは伊達政宗とやってることがあまり変わらない。

しかし、ゲームでの出来事とはいえ史実上の久秀を改めて知った長慶の心の中ではなにかが変わろうとしていた。


「(久秀に会えたなら、問いただしてやりたいことが幾らかあったが……あやつなりに存続しようと奮闘しておったのやもしれぬな……)」


 またどこかで会えたなら……そう思う自分がいる反面、会えたとして互いに何を思うか……。

それは、神か仏のみぞ知る。

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