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第33話 重臣の足音

 アミューズメント施設から自宅へ帰りついた後、長慶は実休の作ったチャーハンを食べながらテレビを見ていた。


「しかしまぁ、昨今の情勢は複雑ですねぇ……」


「まだ群雄割拠していたあの頃の方がましに思えるくらいじゃな千満丸よ」


「……そうですよね」


 日本内で政権が転々とし、あれよあれよという間に税にむしばまれ生活困窮の危機を引き起こしていたり、海外での動きがどうも過激で日本にもその火の粉が舞い降りようとしていたり……。

長慶らが生きた戦国当時は、あくまで日本のことだけを考えてれば良かったのもあって現代ほど複雑じゃなくてよかったと話している。


「今の日本は、私から言わせてみれば腐敗しておるとしか言えぬが……変えるのは難しいことじゃからの」


「変えるだけなら選挙に行けば良いのですが、あの頃のようには行かないでしょうね」


「まぁよい。それよりも、これはなんなのじゃ?」


「……え?」


 テレビを見ながら晩飯を食べていた時、たまたまテレビの傍に置いてあったあるフィギュアに目が行く。


「あぁそれは、爆弾ゲームの主人公ですよ」


「で、そのゲームの大会で優勝したのでその時の賞品ですー」


「ふむ、大会というのがあるのか。良くはわからんが大義なことだ」


「……まぁ、僕のじゃないんですが……」


「じゃあ誰のじゃ? これは……」


「今は秘密ですー!来週また別の場所のゲームセンターに行けば……多分会えますから持ち主に 」


 やけに具体的に事情を知っていることに長慶は疑心を持つ。

まずは脳内で落ち着いて整理し、まとめることにしてそのうえで実休に聞くことを選ぶ。


「そのゲームの事は分からんが、先日からの発言を考えるに……もしや千満丸、久秀と関わっておるじゃろ。しかもどこにおるかも分かってるとみた」


「……まぁ、はい……。けど、僕だって苦労して準決勝まで入ったんです! 他が強くて勝てませんでしたが……」


「そこじゃなぁあい!」


 また久秀と共に歩めるやも……そう思い始める長慶は、来週まで待つことに。

とはいえ、やっぱり今までの事を考慮すると会うに会いにくいのが現実。

実休がしれっと話をそらそうとした為につい声が出たが、どうもそのゲームと関係があるらしい。


「ちなみにその時やったのは、焙烙を沢山置いて壁を破壊してアイテムをとったり、他プレイヤーを倒したりするゲームです! ゲームセンターにある方の!」


「…….其方誰に説明しておるんじゃ?」


「誰だっていいじゃないですかぁ。そういう"気分"です!」


 天を眺めるように顔を上にし、突如ゲームの概要を誰かに向けて話す。

神様どくしゃに干渉してきているのだろうか……?


「ふむ……まぁよい。この支弥飯しやはんと申す飯、悪くなかったぞ千満丸」


「ふふ、ご満足いただけてなによりです。あとチャーハンです」


「どちらでもよいわい!」


 洗い物の削減にとフライパンそのままに食卓に置いていた実休は、綺麗によそいで食べたからっぽのフライパンを炊事場に持って行って洗い始める。


「さてと、千満丸よ。歯木しぼくはあるか?」


「乱世じゃないんですからありませんよ」


 歯木とは今で言う歯ブラシのことで、柳の枝の先っぽだけ削ったものが主。

表現に悩む1品だが、当時は木の枝をまるまる使って歯を磨いていたのだ。


「代わりに歯ブラシはありますが」


「かたじけない」


 長慶にとって見れば現代的な歯ブラシは使い慣れないが、木を噛むよりは衛生的で確実に綺麗になることは間違いない。

そうして洗面器に向かい歯を磨き寝室に先に向かい眠り始めた長慶。

その影で洗い物を済ませた実休はどこかへと連絡を始める。


____

ZikkyU@数奇者:来週おいでになるって本当ですか?


久秀@三大梟雄の爆:早めに長慶様にお会いしないと、ワシも大変でな」


ZikkyU@数奇者:ですが、何を聞かれるかわかったものでは……


久秀@三大梟雄の爆:かまわん、ワシが殺されるならそれもまた運命デスティニー


久秀@三大梟雄の爆:なにより、長慶様の野望を叶えるためにもワシと冬康殿の力はいずれ必要になるからの


____


 2人はLINEの上で色々議論を交わしながら話を進めていた。

相手は松永久秀、かつて戦国三大梟雄と恐れられた男だ。

どうも実休の思わせぶりな発言の通り久秀はこの世にいて、影で活躍しているのは変わらなかったらしい。

ハンドルネームからもわかる爆弾魔も、この現代を生きているのだ。


ZikkyU@数奇者:でも結局は、来週の大会が目当てなのでしょう? 決着をつける為に


久秀@三大梟雄の爆:ほう、見透かされておったか。あの蝮と新九郎殿には世話になったからの




 大会で決着を……。

相手は残る三大梟雄の2人、1人は波乱を生きた蝮の齋藤道三、もう一人は新九郎や八郎、伊勢宗瑞に北条早雲とも呼ばれるやけに名前の多い人物だ。

あくまで久秀はゲームでの勝負に執着し、それを持ってどちらが上かを決めるようだ。

久秀の得意な、で!


「誰が1番謀に長けておるか、ワシは負けてはおられぬのだ」


「……僕も参加しますがまた準決勝止まりになりそうです」


 こうしてえも知らぬ場所で火花飛び散る中、実休はやや呆れ気味に対応していた。

血を流し合うよりよっぽど平和的な争いで競ってくれてる分まだマシとはいえど、悪行を重ねたとされてる3人の戦いに巻き込まれるのは実休も苦労するのだろう。


「さてと……僕も休息をとるとしますか……」


 久秀との連絡を終えれば、自分も歯を磨いて眠りにつく。

今日も静かな夜の中、眠れることに改めて関心しながら……。

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