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第34話 レッツ ボンバー!

 ーー時はきた。打って出るとしようかの。


「いやー、それにしても兄上は習得がお早いことで」


「良く考えれば兵法通りにやれば容易い事じゃわい」


 影で動きを見せつつある久秀を尻目に、長慶と実休は先日の信長の野望を楽しんでいた。

ゲームを初めてから数日しか経っていないのにすっかりゲームのコツを掴んであっさり天下統一を成せるまでになった長慶をみた実休は、幼きときから才覚を披露した長慶のことを改めて尊敬していた。


「兄上はどちらかと言うと内政の方がお得意なようですが、武勇や知略もさすがのものです」


 作中でも三好家衰退前で放置していれば今川家に継いでしれっと西日本をほとんど統一していることが多い三好家は、やっぱり一門揃って"初めて"強い家だと実感させられている。

能力値も固有戦法がなく足止という一般戦法なこと以外は比較的優遇されている方であり、信長ほどでは無いがそれに匹敵するほどの力は持つ。


「じゃが、やっぱり私は納得がいかんの……。ゲームの中で天下統一を成せても……のぉ」


「その野心も、一門揃ってこそですよ」


 なお、長慶の才覚については当時の成人とされる15歳の前である12歳の頃からの話だというから驚きである。

それを抜きにしても適応力の高さはさすが文化人と言われる所以であろう。


「あとは久秀もおれば良いのじゃが……」


「……やっぱり、お気になさってるんですね……」


 実休ら弟達からすれば久秀とあまり仲が良くなかったこともあり、少し気まずい反応を見せる。

しかしながら、今となっては下手な対応をすれば首が無くなる立場にいるのは自分であるために萎縮している。


「案ずるな。話はするだろうが其方の邪魔はせぬようにするわい」


「そういうことではないんですが、まぁいいでしょう」


「それで、久秀が来るらしい大会が今日らしいが行かなくても良いのか?」


「あ゛!!」


 現時刻は午前9:00を過ぎた頃。

大会開始時間が10:00で1時間余裕があるとはいえ急がないと遅れてしまう。


「支度しますよ兄上! このままでは棄権扱いになります!」


「その辺はよぅわからんがとにかく急ぐこととしよう」


 いつもは順序だてて緻密に計画して動く実休が、珍しく慌ただしく動く。

それだけゲームというものは人を虜にするらしいと長慶は改めて実感する。

自らも経験したことだから尚のことである。


「よし。家の鍵は持った財布も持ったスマホも持った、これで忘れ物はないですね」


「さて、まいるとしますか」


 そうして慌ただしい朝もさることながら朝食も取らず身だしなみも整えずに車に乗りこみ会場に向かう。

それから数十分後……。

なんとか受付時間の9:50分までには到着した。

会場はと言えばやっぱりゲームセンターの中。

そこまで規模が大きくない店内大会程度のものなのだが、それでも観客が沢山いるようで賑わっている。


「今回はいつもよりも優勝候補者が多いだけに、人が多いですね……」


「あっ、スタッフさん! 僕です! Wakaです!」


「今日は負けないでくださいよー?」


「あはは、茶化さないでくださいよぉ。結構きにしてるんですから」


 どうも実休はここのスタッフに顔が聞くほどの常連らしく談笑しているのがわかる。

そして彼が口にした名前はwaka。


「なんじゃ? その名は。いつからキリシタンに入信を?」


「これはハンドルネームといって本名じゃない匿名のものですよ」


 なんて説明しながら受付の名簿にwakaと記す。

これがそのままトーナメント表になる訳だが、その中にHiragumo1010と記載があるのを長慶が見つけた。


「ひらぐも? これは……」


「えぇ、久秀殿ですよ」


 ハンドルネームに自身の愛した茶器と死没日を書くという自虐的な名前にして自分を奮い立たせているのだろうか?と思うほどの変わった名前に実休も説明に困る。

まぁ自身も大概だからなおのことである。


「レッツボンバー!! そうとも! ワシがHiragumoじゃ!」


 なんて受付を終わらせつつ色々説明をしていた実休の傍でやけに高らかな声を出す壮年男性がいる。

そしてそのまわりをおおよそ20代ほどと思われる若い男性達に囲まれながらも歓声が上がっているのがわかる。

どうもその存在が久秀だと実休は言うが、顔は平蜘蛛を模した被り物で隠れて分からない。

でも目がある場所と思われる場所だけしっかり穴が空いているのが遠目でも僅かながらに分かる。


「……のぉ千満丸よ」


「……聞かないでください兄上。あれは久秀殿じゃなくていまはただのHiragumo1010さんですよ」


 ものすごく説明に困ってやっぱり言わないことにした実休と、唖然とした表情を浮かべながらただその場で久秀?と思われる人物の謎の行為を見ているしか無かった。

これではまるでプロレスである。


「今回もワシが圧勝してやるからの! 美濃の蝮あんなの新九郎こんなのを屈服させてやるんじゃ! それこそが我が運命デスティニーよ!」


「よっ!決まった前口上! ボンバーイカしてるぜ!」


 若者から歓声が上がるなか自作したのだろうか分からない人物像が描かれたプラカードを2枚高らかに掲げる。

ちなみにイラストは史料に存在するガチの人物像……を印刷して貼り付けたものだ。


「ほう? うつけの家臣ごときがこの蝮を喰らうと? 片腹痛いわ」


「……話にならない。つまらない戦いになるだけだろうな今宵は」


「あぁもう! わかりましたからマキで行きますよ! 長ったらしいんですよいちいち!」


 そしてそれを若者の後ろで傍聴していた、さっき思い切り煽られた斎藤道三と新九郎こと北条早雲。

さらにさらに何を心配しているのか分からない実休が介入してもう大変。

戦国の世で悪者として語られた3人の中に入る文化人という構図で互いに火花を散らすこの展開、さてどうなるか?


「あのーー……。私置いてけぼりかの?」


 長慶もまた、一人でどうすれば良いのか分からず呆けているだけだった。

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