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第35話 電脳 令和の戦い 前編

 日本三大梟雄と後世に語られた松永久秀・北条早雲・斎藤道三の3人の戦いに紛れ込む形で実休が入り合計4人。

そしてその戦いを見届ける流れになってしまった長慶。

さらにさらにそんな歴史的戦いが始まろうとしていることにいまいち気づけてない観戦者と主催者一同。

それぞれが決勝グループにはいるために予選を突破しようとレバーとボタンを動かす。


「おらぁ! 喰らえ奥義! 平蜘蛛っ!!」


「ふんっ、蝮の前でそのような調略……効くと思ぅてか?」


「俺が動いたあのころの苦労に比べればこの程度の障害、容易い」


「……何とか、勝てました……」


 それぞれ、大会に参加した参加者相手に勝利を重ねつつ決勝へコマを進める。


「(いつもの僕なら準決勝で負けている……。でも!)」


 差し掛かった準決勝の枠で久秀らがほぼ余裕で勝ち上がる中、実休は苦戦を強いられている。

思ったより爆発火力を増すためのアイテムに恵まれず、無駄に自機の機動力が増すアイテムばかりが出るせいで相手との火力差に苦しめられていた。

しかし逆を言えば相手はその手のアイテムに恵まれた反面爆弾の数を増すアイテムには恵まれなかった所に救われて何とか実休も決勝のコマまでは進めた。


「さぁー決勝トーナメントの発表だっ! 」


 そうマイク越しで元気よく案内する司会者が見せるトーナメント表は、それぞれの勝ち上がり同士で戦うバトルロワイヤル形式のマッチ。

このゲームの仕様で1ゲーム4人まで同時に遊べる為に出来る形式のようだ。


「この形式での勝ちは、1人3本先取のルール! 逆に言えば誰かが3本取るまで無限に続くようになっています」


 かなりの長期的な戦いになりそうなルール説明をしていく司会者をよそに、既に互いの視線では雷鳴轟いていた。


「ふっ、この蝮の腹を満たすのにちょうどいい。うつけが家臣の力、見せてもらおうか」


「何を言うかと思えば、そのうつけを前に息子の下克上で死んでカラスヘビに成り下がった道三ではないか。息巻くのもこれでしまいじゃ」


「……茶器を焙烙ほうろく代わりにするような野蛮人に、俺は負けんぞ」


「まぁまぁ皆さん、勝つためとはいえ所詮ゲームですから落ち着いて……」


「「「やかましい!」」」


「ひっ」


 煽り文句を互いに言い合う3人から同時にヘイトを買った気がした実休は身震いしながら、彼らが向ける実休への視線から戦いへの火蓋が切られたことを自覚する。


「(もう引き下がれない、僕は、兄上が見る前で2度も負ける訳には……!)」


 自分が立て続けに死んだことで三好家にさらにヒビを入れたとも言えたあの当時。

またしても長慶の見守る状態で負ける訳には行かないと自分にプレッシャーをかける。


「なるほど、このゲームは焙烙の爆発をぶつけ合うのか。戦と変わらんの」


 皮肉にも戦国当時の事を思い出した長慶は、自分が生まれた頃とあんまり変わらないんだなとゲーム性を理解しつつ、でもそれがなぜゲームとして楽しめるものになるのかは分からずにいた。


「でも、私の目指していた政は……案外こういう環境なのかもしれんの……」


 長慶は考えた。

理世安民とは、世の中を正して国民が安心して暮らせる世にすること。

しかし、それは何も戦だけをして勝ち取るものではなく、眼前で今なお行われている大会のようなちっぽけな遊びが存在するだけで既に成り立っていたのだろうと思考する。

そう考えれば、公家の遊びにかこつけて和歌を楽しんだあの日々と今は、身分という概念が消えただけで何も変わりはしないのだということに気付かされる。

こうして長慶もまた、考えを改めようと思案することに。


「おやおや? 平蜘蛛おじさん? ワシの毒蛇はお嫌いで?」


「くっ……」


 一方こちらはと言えば、黙々とプレイし続ける早雲と実休を前にしてもなお煽り続ける道三を横にしながら久秀はプレイしていた。

戦況はと言えば現状有利なのは早雲で、ついで道三・久秀・実休の並びとなっている。

まだ誰も1本も保有していないが、明らか追い詰めているのは早雲ただ一人だ。

その中で道三は久秀の通るだろう場所にのみ爆弾を設置し続けたり、わざとアイテムが出た場所に爆弾を投げてアイテムをけす嫌がらせ行為をして妨害したりして翻弄していた。


「相も変わらず卑怯な手をしくさりやがって。ワシを侮るでないぞ蝮、今に蛇酒にしてやる」


「活きがあって楽しみがいがあるわい」


 アイテムの保有数だけなら久秀だけがいちばん不利な状態なのだが、道三が早々に久秀を倒さずに弄んでるだけの影響で、激しい戦いに巻き込まれにくく逆に生存に繋がっている。


「(これだけブロックに囲まれていれば、少数のアイテムであろうとあのものらを倒すだけの力は得られる。キックアイテムさえ出れば……。よしっ、よいぞ……これで!)」


 爆風は置いた本人も巻き込まれて死んでしまうのがこのゲーム。

爆弾の置き方を工夫し1マス隣にさっき道三が開けてくれた穴を利用して入り込み、その流れで残り3人がしのぎを削り会うとこまで通過できる場所に出るブロックを壊していく。

その際に出てきた爆弾を蹴れるようになるアイテムが手に入り、これによってほぼ勝利を確証した久秀はニヤリと顔を見せる。


「おっと、久秀殿させませんよ!」


 しかし、合流される可能性を考慮していた実休により、開通こそできても安易に入って来れぬよう出先で待機して先に爆弾を置いて封鎖していた。


「行く手を阻むか青二才! しかし、ワシはその程度では屈さぬ!」


「行け我が渾身の、平蜘蛛焙烙キック!」


 確かに爆風で道こそ塞がれたものの、逆にこちらが置いた爆弾を前方に蹴り飛ばし、そのまま実休に直撃させる。

蹴られた爆弾が当てられた自機は混乱ししばらく操作不能になるという仕様を利用しての作戦だった。


「しまっ……! うわぁあ!!」


 そして、蹴るアイテムもなければパンチのアイテムも持ち上げて投げるためのアイテムもない実休は、哀れ無慈悲にも爆発に巻き込まれ死んでしまった。


「おっとwaka選手! Hiragumo選手の作戦にハマってしまったぁ! これは渾身の一撃ぃ!」


 司会者はどうも実況もやるらしく、迫真の大声で場を盛り上げる。

マイク越しだから少しうるさいものの、その攻撃で場が大盛り上がり。


「(大会というのは、こうも盛り上がるものなのだな。民のここまでの声は戦国でもなかったの……)」


 戦国で人が出す声といえば、横暴な代官・大名により課せられた重税などに苦しめられた末に起こした一揆や、戦乱に巻き込まれ悲痛な叫び痛みに悶える苦しみばかりだった。

あるいは大将首の名乗りや、赤い血を流してあげる悲鳴ばかり。

少なくとも、何か一つでこれ程楽しむ民の声なんて何一つなかった。

楽しんでいたのなんて身分の高いもの、それも戦働きで身を立てるものばかりだ。


「(色々と考えさせられるものよな……)」


 そう感傷に浸りながら白熱するバトルを大画面で見続ける。

ここからの戦いはどう転ぶのだろうか?

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