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第36.5話 蝮と新九郎

 2人は戦国を生きた武将。

それぞれ美濃の蝮と呼ばれた大名と、戦国最初の大名と呼ばれた武将。

互いに知略に長けており、特に道三は謀をよくやって油売りの商人から身を立てた男。


 一方で早雲はと言われれば、関東に出兵させられた挙句、当時の今川家の威を借りる形で戦い、関東に役職に対し大きすぎる勢力を作り上げたたという経緯を持つ。

何が言いたいかと言われれば、フィジカル最強格と謀略最強格の2人だということ。

そんな2人も、長慶らと同じく自身の死ぬ瞬間にこの現代日本へと転移していた。


 実休のように武具を纏った状態だったこともあり当然警察に捕まった……のだが、道三は、現代日本人が胆力なしとみるや、謀を使って裏をかくという形で見事抜けだし、早雲はと言われれば"某の知る日ノ本はこのようなものではない!"と言い張り続け、逆に警察を困らせすぎたせいで、早雲が教養を付け理解するまでの数ヶ月の間は、面倒を見るという名目で保護という名の刑務所入を経験している。


「某がうつけなどと……! ありえぬわ!」


「ふぅむ、あの信長とやら……。なるほど、帰蝶に託したあれも……使わずじまいじゃったかということか」


 互いに勉学に励む姿勢は変わらないものの、その道中でゲームという概念を2人は知る。

知った経緯的には早雲の方が先で……。


「おいそこの」


「あっ、あぁ俺か。どうした」


「さっきから何をしておるのじゃ」


「ゲームだ。犯罪者でもないあんたのお守りを任されて退屈なもんでサボってるんだ」


 太刀を所有していたという意味では犯罪者なのだが、事情を察した警察が対応したのだろう。

しかし、大名の中では誰よりも早くこの世界に転移しただけに警察の対応も辛辣だった。

なお早雲のいう非違は警察官のことだ。

検非違使と呼ばれることもあり、かなり古い言い方である。


「げぇ、む? そのようなものがあるのか?」


「あぁあるさ。あんたのいた当時にゃないだろうが……戦国から来たっていうあんたなら蹴鞠という遊びがあったのを知っているだろ? あれをこの黒い板の中ひとつで解決させてるようなものだ」


 そう言いながらサボりを自称する男性警察官は、早雲の目の前でスマホをチラつかせながら自身がやっているゲームの画面を見せる。


「なんとも奇怪な……。まっ眩しい」


「はははっ。これはライトっていうんだ。これもこの板の機能の一つだ」


「目くらましとは卑劣な……!」


 画面を見せ終わったかと思えば、興味を示す素振りを見せた早雲に対してイタズラを仕掛ける警察官。

しかし、早雲は自らの知らぬ異文化に次第に興味を持ち始めた。


 一方の道三はと言うと、上手くかいくぐったはいいものの、現代知識が何も無い状態でどうしたものかと考えていた。

転移先としては自らが生まれ育った美濃国こと岐阜県であり、やはり自らが最後に過ごした場所だった。


「ふぅむ……。ここはやはりワシの知る美濃では無いらしいの。じゃが、腑抜けなのは理解した」


「これなら謀でやっていけるわい」


 思い込みなのか確固たる自信なのか、道三は手当たり次第にあたりの人間から情報を抜き取り、時には盗んだりもして金と身の回りの物を仕入れていく。

なお自身の身にまとっていた武具は生活に当てる為に高値で売り飛ばした。

そうすれば当然一生遊んで暮らせるレベルと言っていい大金が舞い込み、道三はその金で館を建てさせた。

一気に元の齋藤家を建て直させたのだ。


「話を聞くに今は大名家の立場はもうないらしいが、今更興味もない。なにか別の目的を得ることとしよう」


 1度息子に殺され自らが夢を断ち切られた経験から、これ以上目立つことを避けた道三は、細々と生きることになる。

そしてその過程でたまたまテレビの広告で目に入った某有名ソシャゲから手をつけるところからゲームの道に入った。


 ではなんでそんなふたりがこんなレトロなゲームに触れたかと言われれば……。

概ね久秀のせいである。

というのも……


「なに? 道三と新九郎らしき存在が日本に?」


「あやつらは放ってはおけんな。こちら側に率いておかねば」


 道三らよりは転移するのが遅かったとはいえ、自らが死に彼らが生活を安泰させるまでの2年間の間に情報を仕入れ動いていたのだ。

なんせ、後の株式会社シノビクサ起業に繋がる資金源が主に彼らだからだ。


「この時代になっても草の者の利用価値は高くて助かるわい」


 こうはいうが、忍者ではなく現代で言う裏社会の連中のことを指す。

彼らに依頼するための金や情報網を貼るための金も自らが蓄えた知恵が、金として転移当時は働いていたからだ。


 そうした経緯から最初は互いを利用し合う関係だったのが、ビジネスパートナーという関係になり今は良き仲間……のはずだが……。


「おのれ! ワシをあまり舐めるでないぞ!」


「……さすが焙烙男ボンバーマン、別格だな」


「ハッ! この程度かお前ら!」


「……久秀……。まぁあやつが楽しんでるのなら良いか……」


 大会の勝ち負けを競うはずが、もはやただの身内会よろしくただただ盛り上がっているだけだった。

それに呆れた長慶はひとつため息を吐く。

実休も正直ついていけなくなりつつあるようで、ただ早くこのマッチが終わらないかと見ている。

久秀の爆弾魔のエピソードも、この2人はここまでと思っていなかったのである。

だって、まだ実休が倒されたと言うだけで決着がつかないからだ。


 さぁー優勝するのは誰だ??


「久秀、何故ああも焙烙と縁深くなったのだ... ...?」

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