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第16話 リゼットからの手紙

 ユーグと街で出会って数日後。私の元にリゼットから手紙が届いた。可愛らしい花の模様の封筒に書かれた小さな丸い文字は、リゼットが書いたものだろうか。字まで可愛いとかずるい!


「手紙を送ってくるなんて、何かあったのかな?」


 私は、推しからもらった大事な手紙が破れないように、ゆっくりとペーパーナイフを使って手紙を取り出した。封筒と同じ柄の便箋に書かれた文字も小さくて可憐だ。どきどきしながら一文字一文字を目で追っていく。


「えっ? 嘘。忘れてた……」


 手紙には、二週間後にアルベールの誕生日があると書かれている。キャラの誕生日は全て覚えていたはずなのに!

リゼットによると、アルベールのために誕生日ケーキを自分で作りたいが、一人では不安なので私にも一緒に作って欲しいという。それでこの間、ユーグがバニラビーンズを探していたのね。リゼットは、アルベールのためにケーキ作りに励んでいるようだ。


『二人がそれぞれ作ったケーキをアルベール殿下にプレゼントしたいです♡』


 くはっ! このセリフを言っているリゼットの顔と声が脳内再生されてしまった。推し、恐るべし……。推したちの恋のためにも、私が人肌脱ぐしかあるまい。私は、すぐに承諾した旨の手紙を書いてリゼットに送った。


***


 リゼットの屋敷に到着すると、伯爵家の使用人たちが緊張した面持ちで私を迎えた。公爵家のほうが立場は上だし、さらに私の悪役令嬢っぷりが知れ渡っているからだろう。絶対に粗相をしてはいけない、という空気が屋敷の至る所に流れている。そんな中、リゼットが嬉しそうに私に駆け寄ってきた。


「クリスティーナ様! 来てくださって本当にありがとうございます。嬉しい!」


「こちらこそ、お招きいただいて光栄ですわ。ケーキをうまく作れるかわからないけれど、殿下に喜んでもらうために頑張りましょうね」


「はい!」


 可愛いなあ。リゼットの満面の笑顔に私の頬が緩むと、それを見ていた周りの使用人たちが顔を見合わせている。自分たちが思っていたのと私のイメージが随分違っていたらしい。安心したのか、少し緊張感が解けた気がする。


「こら、お前たち。クリスティーナ様に失礼ですよ。それぞれ持ち場に戻りなさい」


 その時、執事服を着た年配の男性が使用人たちの前に現れ、皆に指示を出し始めた。彼はこの屋敷の執事なのだろう。使用人たちは、素早くそれぞれの持ち場に戻っていった。


「クリスティーナ様。使用人たちのご無礼をお許しください。本日はうちのお嬢様のわがままのために御足労いただき誠にありがとうございます。わたくし、この屋敷で執事をしておりますジョセフと申します」


 ジョセフはそう言うと、私に颯爽とお辞儀をした。礼儀正しくて古き良き時代の執事さんって感じだな。そういえば、ジョセフはユーグのお父さんなんだよね。ユーグとは全く雰囲気が違う……。今日はユーグはいないのかな? 


「ちょっとジョセフ! 誰がわがままですって? そんなことより、早く厨房にクリスティーナ様をご案内しなさい」


「かしこまりました。クリスティーナ様、こちらでございます」


 ジョセフは、きっとリゼットが小さな子供の頃からこの屋敷に仕えているのだろう。不満そうなリゼットを軽くかわすと、私を厨房に案内するために先頭に立って歩きだした。


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