龍二はとにかく今すべきことの最優先事項に、この華奢な体をビルドアップして戦闘体型に戻すことを決めた。
それは彼の本能がそれを選択させたといってもいい。
5歳のころ、大阪の非差別地区出身の龍二は金で親に売られ、物心ついた時にはアフガン解放軍の少年兵としてカラシニコフを装備して戦っていた。
生きるために数多の敵兵を撃ち殺してきた龍二は、14才で部隊のリーダーを任されるほどの戦闘能力を手に入れていた。
扱える武器は小型小銃からランチャーまで幅広く、サバイバルナイフ一本で敵の部隊を全滅させたこともある。
そんな龍二が16才の時、日本のNPOに発見、保護され日本へと帰国の機会を得た。
ほとんど記憶のない日本に帰還した特に、一つだけ覚えていることがあった。
それは親の顔と住んでいたバラック小屋。
20才を迎えた年に龍二は保護下の中であらゆるセキュリティーを抜け、アイリン地区に戻り記憶をたどって自分の生まれた家の前に立っていた。
強めのノックのあと記憶にある女が扉を開けた。
母親だった。
「龍二…?」
母親は戸惑い顔で問う。
やはり母は自分の子供に気づくものだ。
静かにうなずく龍二に母の表情が変わる。
「なにしにきた!!お前はもううちの子じゃないんだよ!」
思いもがけない罵声に龍二は腰のベルトに挟んでいたダガーナイフで母親の首を真一文字に切りつけた。
血しぶきが噴水のように噴き出す。
「どうした?」
奥から父親が顔を見せる。
龍二は素早く内部に侵入し、驚く父親に叫び声すら与えずに喉から口腔にナイフを突き上げた。
別に親から抱きしめてほしいとか、謝ってほしいとか淡い期待はなかった。
むしろ両親を殺すことで自分のカルマを断ち切れる気がしていた。
血まみれのナイフをその場に投げ捨て、殺した両親の亡骸を抱きしめる。
そして血で染まる自分の両手を見ながら少し笑みがこぼれる。
もう自分を縛るものは何もない。
龍二はその態勢のまま、駆け付けた警察に連行され、最速の裁判を控訴せず府中刑務所に収監された。