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猫の恩返し-13



「立派な最期だった…。」

あずま ゆうが悲しい目をして言う。


龍二はスマホを見ながら、小さく頷く。

近所の住民がコソコソ撮影していたジョージの加藤殺害シーンがSNSで拡散され世の中の話題となっている。

「おそらく加藤組は解散。一水会最大派閥を潰したことが大きい。

そしてボロボロになってまでも家族を守った。」

ゆうの言葉に反応が薄い龍二。

【なあ優さん。ジョージはなんで猫に生まれ変わったんだろう?

人間時代にもなぶり殺されて、猫でも無残な最期。

そこまでしてアイツがもう一度この世に帰ってきた理由が知りたい。】

ゆっくりと筆を進める龍二の手元を見ながら、優は腕組みして思案のポーズを見せる。

龍二もバカげた質問だと理解しているが、優ならなにかしらの答えをくれそうな気がした。

「冥界の守護神…。」

ゆうつぶやく。

龍二が興味深い目で優を見つめる。

「外敵から身を守り、道案内をする守護神。」

不思議顔の龍二。

「あなたは魂が転生している状態。

だけどジョージくんは新しく生まれた存在。」

優の言葉ひとつに龍二は更に混乱する。

「きっとジョージくんは魂が猫に転生したわけではないと思うの。

リュウさん…本来なら天に召すはずだったジョージくんの魂が、あなたの呼びかけに応えて猫の姿をした守護神になった。」


【俺はジョージを呼んだりしてない

アイツが殺されたことすら知らなかった】

龍二が反論する。


「ええ、そうね。

精神の呼応…とでもいうのかしら。

お互いがお互いの魂に惹かれ合って呼び合った。

そして彼は、そうね…異形の存在となった。」

優が斜め上を見ながら淡々と語る。

【異形の存在?】

とにかく聞き返す龍二。まったく理解ができない。

「だから、リュウさんは死んだ榊原翼という器に入った。

でもジョージくんは器に入ったわけではなく、魂が具現化されて生まれた存在だってこと。」


【残留思念ってことか?】

龍二の頭に真っ先に浮かんだのがDGであった。


「あら、リュウさん、なかなかのワードを出してくるわね。

うん、それも考えられる。残留した思念が形となってこの世に留まる。

その形が猫だったんじゃないかな。」


【なんで猫なんだ?】


「それはわからない。でも冥界の守護神って動物の姿をしたものが多いの。

エジプトならアヌビス神。日本なら…招き猫かしら。」

目元を緩ませて優が言う。

「もちろん本当のところはわからない。

でもねリュウさん。ジョージくんはあなたを守り導くためにこの世に戻ってきた存在だと思うの。

そう、これだけははっきり言える。

ジョージくんはあなたのために命を賭けて戦ったのよ。」

優の言葉に龍二の顔が曇る。

そんな龍二の姿を察して優は席を立って静かに病室を出た。


(ジョージ…てめえ…馬鹿野郎…ばか…やろ…う…寂しすぎんだろ…

すまねぇ…俺のせいなんだな…ジョージ!!)

龍二は大粒の涙を流し嗚咽しながらジョージの死を受け入れた。

そしてもう一度、スマホでジョージの勇姿を見る。

(ジョージ、立派な極道だ。来世でも兄弟の盃を交わそう。

な?兄弟…。)

止まらない涙の中、龍二はスマホを抱きしめた。



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