始業式から二ヶ月、秋も深まる十一月半ばにそれは起こった。
中間考査も終わり、比較的落ち着いたのを機に
その日は実家に寄ろうと
改札を出た所に
『よう、龍生』
何で…… そこで一つの可能性にいきついた。
_李央翔@りおと_に話したのは母さんだ。
付き合っていた頃、“恋人”とは言えずにいたが“友人”として
実家に連れて行ったことがあったから
俺が帰ると連絡した後、偶然会ったのかして
母さんが話したんだろう。
『何の用だ?』
不可抗力とはいえ、こいつと二人きりというのは非常にまずい。
あの夏休み終盤に再会した時ですら二度と会いたくない
と思ったのに何で二回も会うなんて最悪だ。
『用がないならどけ。
そうだ、お前が開けたピアスだが
今は一つも付いてねぇから』
大翔のおかげだ。
そうして、始業式の二日後の週末に約束通りに
大翔はピンキーリングをプレゼントしてくれた。
『あの恋人に話したのか。
なら、もう一度開けてやるよ』
捕まれた腕を振り払った。
『俺はもう、お前の恋人でも
都合のいいおもちゃでもねぇんだよ。
そもそも、一年前、浮気相手が妊娠したからって
電話一本で別れを一方的に告げてきたのはお前だろう!!』
こいつの身勝手さには呆れる。
『孤独にさせて自分に依存させておきながら
俺を捨て世間体と女を選んだのはお前だろ!!
今更、俺に関わってくんな!!』
大翔に会いたい……
『一年前は悪かった、赦してほしい……』
薄っぺらな謝罪はいらない。
『今更謝られても俺は赦す気はねぇよ。
お前には怒りや嫌悪しか感じないし新しい恋人もいる。
大翔は年下だがお前みたいに自分勝手じゃないし
優しい上に俺の気持ちを汲んでくれるいい恋人だ。
金輪際、俺に関わるのはやめてくれ』
ピンキーリンクをくれた日、
俺に二度と痛い思いをさせたくないから
これが“束縛の証”だと大翔は言った。
いい加減にここを離れたいが、
俺が移動すればこいつもついてくるだろう……
どうしようか考えていたら改札口から焦った様子で
私服姿の大翔が近付いてきた。
『龍生、大丈夫か!?
悪い、龍生に内緒でスマホにGPSのアプリを入れた……』
そういうことか(笑)
『謝んなくていい、俺のこと心配して
GPSアプリ入れたんだろう?
大翔になら束縛されてもいいとずっと思っていたんだ』
『まぁ……絶対にどっかで接触を図ってくると思ってたんだよ……
どうも今晩、お久しぶりですね、
あなたの元浮気相手で現在奥さんになった方は_外戸口@けとぐち_ホールディングスの
傘下の子会社、
婚約者だったんですよね?』
え、待って、
『俺のこと、調べたのか。
確かに俺は
彼女が婚約者だったというのも合ってるな』
待て、待ってくれ、
俺の知らない話が出てきて頭が追い付かない……
『付き合っている期間、
龍生には一切何も話さなかったんですよね?
家の重圧や名前だけで近付いてくる連中に辟易していたから何も知らなかった龍生にはあえて話さなかったんでしょうけど
別れる時くらいは本当のことを
言うべきだったと思いますよ。
独占欲の証と心に傷を残しておいて
婚約者が妊娠したからと真実を伝えず
電話一本で別れを告げるとは人として最低です』
口を閉ざしたままの
無表情で淡々と話す大翔。
沈黙が続く中、突如、第三者の声がした。
「大翔君か?」
どうやら、大翔の知り合いらしい。
『
両親と兄がお世話になっております』
「そんなに畏まらなくていいんだよ、そもそも、大翔くんは
君は子供の頃から経営とか無関心だったが(笑)
それで、隣にいる男性は恋人かい?」
大翔まで老舗和菓子屋の息子とかキャパオーバー過ぎる……
だが、大翔がヤングケアラーだ
と言っていた意味がわかった気がした。
そりゃ、老舗の和菓子屋なら年中忙しいだろう。
『そうですよ、
好きになれないことを昔から知られてましたね(苦笑)』
「思春期になっても大翔君は女性やその手の雑誌とか
興味なさそうだったから、異性に興味がないんだなと思ってね」
大翔を昔から知ってるらしい。
「そっちにいるのは
雰囲気からして修羅場かな?」
『修羅場というほどではないですが
一年前、俺の隣にいる彼に不義理を働いたにもかかわらず
何もなかったような顔で会いにきたんですよ……』
大翔は無表情のままだが声色は呆れるが入っていた。
「おやおや、それは……
一人息子だからといって甘やかし過ぎだんだな」
自己中心的で自分勝手で傲慢な_李央翔@りおと_も
さすがに、居たたまれなくなったのか
何か言いたそうな表情@《かお》をしながらも
そそくさと改札の方へ歩いて行った。
『やっと行ったな。
「私は大したことはしていないよ。
まったく、
私もそろそろ行くよ、大翔君、またね」
『いつでも、お待ちしております』
星ヶ
『帰るのか?』
思わず、大翔の服の端を掴んだ。
『龍生は本来、実家に帰る予定だったんだろう?
だったら俺は帰るさ』
それはそうなんだが……
『なら、マンションで待っててくれ。
合鍵、持ってるだろう?』
夏休み中に大翔に合鍵を渡していた。
『わかった、マンションで夕飯作って待ってるから
早めに帰ってこいよ』
大翔の手作り!?
『八時には帰る』
楽しみができた。
『いってらっしゃい』
同棲はしてないけど、大翔が“いってらっしゃい”と
言ってくれたことが嬉しかった。
『いってきます』
大翔とわかれて星ヶ
庵谷@
《いおりや》大学方面に向かって歩き実家に向かった。