『あれ、ここはどこだ。』
昨晩、ゲームのキャラクリを終えてそのまま寝落ちしたはず。
『落ち着け、まずは状況を整理して、、ン?』
ふと自分の胸に手を当てると、普段と違う感覚だ。なんか、柔らかいぞ。それにこの痺れるような感覚はなんだ。下の方もやけに肌寒いなぁ。
『うむ、なるほどな。』
俺は数々のラノベというラノベを読みまくったから理解できた。この展開はあれだな。
『異世界召喚だな! って俺の見た目、自作の美少女キャラじゃねーかぁ‼︎』
時間は遡り、召喚前夜。
『待ちに待ったこのゲームを、遂にプレイ出来るぞ!!』
発売日公開から今日まで、約二年間この日を待ち侘びていた。
クエストの調整やら、ゲーム会社のお偉いさんの不倫が発覚したとかで散々発売が遅れたからなぁ。
まあ、この二年間を待つに値する大作ではある。
何を隠そう!このゲームはキャラクリが細かなところまで決められるのだ。
俺はどのゲームでも必ず女の子キャラでプレイする。理由は単純、目の保養!モチベーション!可愛いは正義!と言ったところだ。
そしてお決まりのセットアップは、薄い青髪に夕日のような橙色の瞳。この拘りはどのゲームでも一律である。
『ヨシ!今回も我ながら良い出来だ。いやぁ、それにしてもキャラクリの幅広すぎだろ!キャラクリに四時間掛かったぞ。』
四時間作業の達成感と、仕事の疲れからか眠気がすごいな。
明日は休みだし、このまま寝落ちするのも良いかもな。
にしても、本当にいいキャラが出来た。文句なし理想の美少女キャラだ。
『明日の休みは思う存分、プレイするか...』
そして今、俺はキャラクリで作った理想の美少女キャラで異世界に召喚されました。
にしてもなんで、この見た目で異世界召喚されたんだ?それにこの世界はあのゲームの世界なのか。
『てか、声まで女じゃねぇか!』
というと、頭に声が響く。
《ステータス開示を承認》
《スキルポイント0》
《役職:旅人(トラベラー)》
『な、なんだ!まるでゲームのアシストボイス機能に似てるな。』
とにかく、ここがあのゲームの世界なら俺以外にもプレイヤーが召喚されたかも知れない。
『まずは、情報が欲しいな。近くに村か町があれば良いんだが。』
近くの茂みからから、何かが襲いかかる。
二つの角が生えた黒い兎が現れた。
『か、可愛いじゃ無いか!角生えの兎だとぉ〜。モフモフの毛並みが愛くるしいよぉん。』
て、なんか俺おかしいぞ。普段ならこんな気持ちにはならないはずだ。こんな、まるで夢見る女子みたいな思考!って、そうか今の俺は自作の美少女キャラだ!思考までそっちに引っ張られているのか。
『今はそんな事考えてる場合じゃ無い、どう見てもモンスターだよな。』
次の瞬間、何かが頬を掠める。
痛い、熱い、頬に触れると軽く血が出ている。
どうする、今の俺は戦えるのか。もし負けたら俺は死ぬのか。死んだら元の世界に戻れるのか。そんな不安な気持ちが過ぎる。
いや、違う。この気持ちは恐怖から来る物じゃ無い。
俺は、自分の顔に傷をつけられた事に腹が立っている。そして、それ以上にこの状況を楽しいと感じる。ワクワクして仕方ない!
さっき確認した、ステータス内に《装備品》ってのがあったな。
《装備品:旅人の短剣》今ある手持ちはこの武器だけか。しかし、耐久性は少ないが装備すると俊敏性が上がるのか。
今の装備では、装甲は無いに等しい。ほとんど全裸状態と変わらないな。って、自分のキャラで何考えてるんだよ!
取り敢えず、この装備で戦う他ない。
そんな事を考えていると、追撃が俺を襲う。
『その攻撃はさっき見たからな!もう見切ってるよ!』
《旅人の短剣》の装備効果で俊敏性が上がっているからな、さっきよりも反応できる。
さらなる追撃が俺を襲う。
奴は、周囲の木々などの地形を活かした動きで襲ってくる。しかしだ、その動きは不規則ではない。必ず隙が生まれるはずだ、そしてその瞬間はこちらを仕留めようとする瞬間にこそある。
『今度はこっちの番だ!』
俊敏性上昇により自身を強化し、俺自身に足りない攻撃力を補うため、馬鹿正直に突っ込んで来るコイツの動きを利用すれば、攻撃を避けた先に剣先を置いておくだけで、力が無くともコイツを仕留められる。
『何とかなったぁ〜。最初のモンスターにしては強い気がしたが。ン?』
《スキルを取得しました》
《スキルポイントを3p獲得しました》
[スキル:黒兎月歩]レベル1を獲得しました。
[エクストラスキル:風の権能]を獲得しました。
『おぉ!なんかスキル覚えたぞ!え〜っと、このスキルは、エクストラスキル?《風の権能》か、効果のほどはいかに。』
《風の権能》:自身の俊敏性が常時向上する。風の精霊から与えられる権能で有り、敵の攻撃を見切る事に補正が掛かる。(進化先有)
『なるほどなぁ。戦いの中でスキル習得ができるシステムか。倒したモンスターのスキルもランダムだが習得できるみたいだ。《黒兎月歩》これも使えそうだ。』
するとどこからか、声が聞こえた。
人の声だ。しかしひどく怯えている様子だが。
『気になるな、少し様子を見に行こう。』
茂みを抜けてその先に広がる荒野に目を向けると、そこには4人の軽装備を纏った人の姿があった。
『身なりからして、冒険者なのか? しかし、運がいい!この世界に召喚されて初の交流チャンスだ!』
にしても、何に怯えているんだ?
顔を茂みから出して様子を伺う。
大盾持ちの冒険者が声を荒げる。
『クソ!ギルドの奴ら、こんなのが居るなんて聞いて無いぞ!』
『こんなのがレベル2クエストの訳が無いだろ!こんな、《空の狩人》ワイバーンが出るなんてよ!』
その声をかき消すように空から、奴の《空の狩人》咆哮が響く。
次の瞬間、鋭い眼光が彼らを睨みつける。
他の冒険者は、恐怖で足が動かない者やクエストの連戦で疲れ果てて意識が朦朧としている様子だ。
まずい、このままだと初の交流イベントをあのモンスターのせいで逃してしまう。それは大いに困る。この世界についての情報、近くに人が集まる集落なんかにも案内してもらいたいのに。
『それにしても、あのモンスター。まさにファンタジー世界を代表する飛竜、ワイバーンだよな!』実にファンタジー!これが異世界!
そんな時、そのモンスターは震えて身動きが取れない女冒険者に向けて、出でる火球を放とうとしている。火球の準備をする口内の荒々しい光が彼らを照らす。
足がすくんで動けない《修道女(シスター)》らしき女冒険者が怯えた金切り声で命乞いをする。
『もうダメ、神様お願いです。私たちを。お助けください。お願いします。誰かぁぁぁ‼︎助けて!』
《スキル:黒兎月歩》
《エクストラスキル:風の権能》を発動。
俺の、いいや。私の身体は考える前に彼女らを救いに行っていた。
風をその身に纏い、空を駆ける。その腕には満身創痍の冒険者。火球が当たる既の所で何とか彼女を拾い上げた。
火球を外した飛竜がこちらを睨みつける。
彼女を地上の仲間の元へ降ろす。
そして彼女が何かを言う前に、
『今は、何も言わないで!とにかく仲間を連れて逃げろ!』
一言返事をすると、大盾持ちの冒険者を筆頭にこの場から逃げる。
鋭い眼光がこちらを睨みつける。獲物を仕留め損ねた《空の狩人》の怒りはこちらへ向く。
『これがワイバーン、近くで見ると迫力が桁違いだな。さて、勢いづいて助けに入ったがコイツをどう倒すよ。』
倒せる算段は正直思いつかない。
しかしなぜだろうか。私の口角は上がる一方だ。
『くそぉ、この身の震えは何だ。恐ろしいのに、胸の高鳴りが収まらない!』
これが異世界。これこそ私が夢見た異世界ライフ!
『よく分からず召喚されたけど!この異世界で私は、自由に、好きなように最高の異世界ライフを過ごしてやる!』