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第23話 東京へ行こう2

「暑いな……まだ4月の終わりなのに……げっ、31℃!?」


休憩で寄ったサービスエリアでお手洗いを済ませ、見上げた温度計が31℃を表示していた。

一応出張なので今俺はスーツを着ている。

暑い。


ちょっとトイレに入る時躊躇してしまったが仕方がないだろう。

俺は今、間違いなく女の子だけど……やっぱり恥ずかしく思ってしまう。

入ってしまえばなんてことないのだけれどね。


女性のトイレは男と違ってすべて個室だ。

男性と違って女性はいろいろ事情がある場合が多い。

どうしても一人当たりの滞在時間が長い。


『だから混むのよね』


ニーナさんがそんなこと言っていた。

なるほどね。

確かに男ならチャック開ければすぐに用を済ます事が出来る。

改めて女性は大変だ。


そんなことを思いながら手に持ったハンカチで顔を仰いでいたら君島さんが俺に声をかけてきた。


「まこと、上着脱いでいいわよ?その格好じゃ暑いでしょ。はい、アイスコーヒー」

「あっ、すみません。……おいくらですか?」


上着を脱ぎブラウス姿の君島代理がアイスコーヒーを俺に手渡しながら話しかけてきた。

俺は慌てて肩から掛けている先日購入した鞄を手に取る。


「ああ、いいのよ。運転してもらっているしね。わたし会社のワゴン車大きくて運転するの怖いのよね」

「あ、ありがとうございます。いただきます」

「これだと東京も暑いわね。ウチとは大違い。今朝5℃しかなかったのに」


我らの田舎は山に囲まれているので標高が高い。

5月でも朝はマイナスになる日があるくらいだ。


「あはは。そうですね。私まだ部屋着とか裏起毛ですもん」

「そうね。女の子は冷やしちゃだめだからね。赤ちゃん産むとき苦労するわよ?」

「えっ、そうなんですか?」

「まあ、迷信みたいなものだけどね。私もよく母に言われていたわ」


そんなことを話しながら俺と君島代理は止めてあった車のカギを開けて乗り込んだ。

うっ、凄く暑い。


慌ててエンジンをかけてオートエアコンの温度設定を下げる。

暫くしてやっと冷たい風が出始めた。

俺はおもむろに顔を近づける。


『まこと、だめだよ?乾燥しちゃう』

「っ!?」


突然固まる俺に君島さんが笑いながら話しかけてきた。


「ふふっ、あなたとっても可愛いのになんか男の子みたいなことするわよね。まあ、ぶりっことかよりは何倍も良いけど。……これから暑くなるんだから気をつけなさいよ?」


うわー恥ずかしい。

そうだ。

確かにカーエアコンとかメチャクチャ乾燥する。

ん?

暑いと注意する事ってなんだ?


「間違っても薄着で胸元とか仰いだりしたらダメよ?そうでなくてもあなた大きいんだから。この前みたくなっちゃうからね」


にやりと笑う君島さん。


うっ、確かの職場の男性陣、俺の胸かなり見てくる。

大体休んだだけであの状況になったんだもんな。

うん。

気を付けよう。


「あはは、気を付けます」


「それにしての邦ちゃんたち遅いわね。まさか朝ご飯とか食べているのかしら」


最初の市場は13時に行く事になっている。

大体車で4時間あれば余裕だが混雑状況によっては時間がかかってしまうため朝8時に出発してきていた。


俺も去年はラーメンとか食った覚えがある。


「すまんすまん、朝飯食ってた。……二人は良いのか?」


そう言いながら邦夫さんと直樹さんが車に乗り込んできた。

うっ、ラーメンの匂いが充満する。


「まったく。まあ男の人は食欲旺盛だもんね。トイレとか良いのかしら?」

「ああ、いいよ。直樹も大丈夫だよな」

「はい、問題ないです」


うわー、最近いろいろ気を付けていたからな。

だから気付いてしまう。

こんなに匂う物なんだ。


こりゃあ本当に戻れたら色々注意しなくちゃだね。

何はともあれ出発しますか。


俺は車を走らせた。



※※※※※



「そう言えば今年はどういう計画なんだ?出荷規格、結局去年のままなんだろ?」


暫く順調に進んでいたら邦夫さんが君島代理に問いかけた。

今の時代、販売業務は昔と違って戦略が物を言う。


「ええ、契約を増やす予定なの。大分品種も安定してきたでしょ。高値は望めないけどかなり安定するわ。邦ちゃんたちもその方が良いでしょ?」


「まあな。セリとか面白いけど、一応これで飯食ってる立場としては安定してくれることは魅力的だからな」

「ええ、だからちゃんとまことの言いつけ守ってね。……80点でいいわよ。100点を目指し労力を割く必要はないわ。あとは私に任せて」


にやりと笑う君島さん。

流石仕事の鬼。

直樹さんがぶるっと震えたのがバックミラーで確認できた。


「ふう。こりゃ頑張らなくちゃな。直樹も肝に銘じろよ」

「はい。ははっ、確かに頼りになりますね」


「ええ、野菜の連中見返すわよ」


そんなやり取りを見て俺は菊野原次長が言っていたことを思い出していた。


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