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第25話 到着と災難

何とか無事俺たちは市場の近くのレストランへとたどり着いた。

思ったより順調で今は11時を少し過ぎたところだ。


ここから今日会議を行う市場までは車で5分。

後で合流する農連の職員は直接市場で待ち合わせをしている。


「ここで食事にしましょう。お金は会社が持つから遠慮しなくていいからね」

「おー、いいね。……ちなみにいくらくらいまで良いのかな?」

「一応決まりでは1食2500円までは問題ないわね。まあ野菜関係は青天井なのでうちも問題ないわよ?文句言ったら私が黙らせるわ」


はは、君島代理、怖い顔していますよ?


「ふーん、お勤めの人は大変だ。でもまあお昼でしょ?そんなに食べないよね」

「まあそうよね。でも好きなもの選んで頂戴。忙しい時期に2日も拘束するんだからせめてこのくらいはね」


この時期農家さんは忙しい。

邦夫さんは奥さんが全部できるからだけど、直樹さんは一人だ。


影響がないわけがない。


「大丈夫だよ。問題なくこの2日間は開けるよう調整しているからね。まあ帰ったらバイトさんたちと大忙しだけどさ」


直樹さんは3人のバイトを使っている。


本当にありがたい話だ。

職員だけだと正直市場に舐められる場合がある。

昨年の騒動みたいなね。

まあ、あれは向こうが馬鹿過ぎたんだけど。


普通は生産者の同行は意外と市場にとってプレッシャーになる。


「まあ何はともあれ入りましょ。もうすぐお昼になると混んじゃうからね」



※※※※※



ふー、美味しかった。

体が変わったせいか普段頼まない様な物がやけに美味しそうに見えて食べてみたけど。


何よりもニーナさんが喜んでくれた。


『美味しいね♡』


うう、なんか最近ニーナさんの声がやけに可愛く聞こえる。

コホン。


……今は食後のコーヒーを楽しんでいるところだ。


「女の子ってそれっぽっちで足りるの?まこちゃん、痩せちゃうぞ?」


邦夫さんがガチで心配してくれた。

確かにね。

なんだかお洒落な貝が乗っかっている少ない量のパスタを頂いたけど。

お腹いっぱいになったんだよね。


きっと前ならこれ前菜だけど。


「ええ、美味しかったですよ。お腹いっぱいです」

「ふーん。……さゆりちゃんはがっつり食ったな」


あ、邦夫さん、そういうこと言わない方が良いですよ?

ほら君島代理、変なオーラ纏っていますし。


「まったくこの男は。そういうこと言うから、一美ちゃんがもらってくれなかったらあんたなんか誰も結婚しないんだからね」

「うぐっ、ひ、酷いな」

「ふん。自業自得でしょ」


邦夫さんは助けを求めるように直樹さんに視線を向ける。

あっ、直樹さんいきなり携帯見始めた。


まあ、ね。

うん。

邦夫さんが悪いよね。


仲良き中にも礼儀あり、だね。

人生すべからくこれ勉強、か。



※※※※※



市場に到着し時間のあった俺たちは場内で花を販売している仲卸さんの店を見て回った。


一応今日訪れた市場は取扱額日本一の市場。

日本はおろか世界中の花がその美しさを競うように展示されていた。


『キレイ…あっ、この花…異世界にもあったよ』


へえ。

うん?シンビジウムか。


暖かい国の花だよね。

うちはどちらかと言えば切り花が主だ。

鉢物は管理が大変なんだよね。


なにはともあれ、ニーナさんが喜んでくれてよかった。

出張でなかなか彼女と話せない。

ちょっと物足りない気持ちが湧いてしまう。


『まこと、これから会議でしょ?』


うん。


『頑張ってね』


何よりも強力なエール。

俺は気合を入れ直した。



※※※※※



俺たちは場内の花などを見学してから会議室へと向かった。


「君島代理」

「山岸君、お世話になるわね」


農連の山岸考査役が挨拶しながらこちらへやってくる。

もう40過ぎのベテランだ。


「こんにちは山岸考査役。今日はよろしくお願いします」

「ああ、うん、よろしくね。木崎さん。……相変わらず可愛いね♡」

「またまた。そんなことないですよ」


純朴な田舎民でもやっぱり都会に毒されるのだろうか。

俺の胸を凝視する目つきがいやらしい。


なんか嫌な感じがする。


そして悪夢が再び幕を開けた。

ダメな2代目が突然走ってきて、何故かいきなり俺の手を取る。


「おお、可愛いね。ねえ、会議なんてどうでも良いからさ、俺と遊び行こうぜ。奢ってやるからさ」


そして肩を抱こうとする。

気持ち悪いな!

農家さんが居るのになんだこの失礼極まりない男は!?


俺はすっと体を躱す。


派手に転ぶ2代目。

ざまあ!


そして降り注ぐ絶対零度の君島代理の視線。

山岸考査役の顔はすでに青を通り越して真っ白だ。


「くそっ、このアマ!調子に乗りやがって。お前らの花なんか俺が言って取引中止にしてやるからな」


そして権力を振りかざそうとする本当にダメな2代目。

慌てて出てきた当代の社長がいきなり2代目を殴り倒した。

吹き飛ぶ2代目。

そして流れるような土下座をする社長様。


この間僅かに数秒。

逆に固まる俺たち。


うわあ、人ってあんなに吹っ飛ぶものなのか?

驚きだ。


ていうかこれどうすんの?


やっぱりカオスに包まれたのだった。



※※※※※



「本当に申し訳ありません」


警備員まで出る騒ぎになったが、今は会議室で社長の謝罪が炸裂しているところだ。

実は2代目、あまりの出来の悪さと評判から平社員に降格されていたらしい。


それなのにああいう態度が全く変わらずに、社長さん頭を抱えていたそうだ。


「うちの愚息がとんだご無礼を。落とし前は必ず。どうか会議を行わせてください」


うーん。

大丈夫かな?

「落とし前」とか言っちゃってるし。


君島代理が大きくため息をつき、いまだ頭を下げている社長に声をかけた。


「頭を上げてください。今日私たちはしっかり段取りを組み、事前にご連絡して商談に来ています。忙しい時期なのに生産者まで同行して。もちろん会議は行いますが、いい加減にしてください。昨年のこと忘れたわけではないでしょうに」


昨年もあの阿呆のおかげで大混乱だった。

絶対に顔を出さないように厳重に申し入れていたはずだ。


何故か農連の山岸さんが挙動不審だが?

まさか!?


「すみません。信じられないでしょうが私ども、今日の事は誰もあれには伝えていないのです。わざわざ休ませたはずなのに」


そしてちらと山岸さんを見る社長。

何故かびくつく山岸考査役。


……こいつか。


女の感を舐めちゃいけませんよ皆さん。

こういうやり取りは君島代理の十八番だ。


突然立ち上がり山岸考査役の胸ぐらをつかみ睨み付ける君島代理。


「吐け」


うわっ、こわっ!!

あーあ、山岸考査役涙目だ。


「す、すみません、で、でも、まさか、こんなことになるとは…」



※※※※※



結果的に今回の勝者は君島代理でした。

昨年の3倍の量の契約を単価20円アップで勝ち取りました。

農連が責任を持って対応するそうです。

これには邦夫さんも直樹さんもホックホクです。


「まことのおかげね。これからもお願いね」


意味わかんないんですけど?


どうやら俺が行く事を事前に山岸考査役があの阿呆に伝えたらしい。

二人なんか色々やらかしていたそうだ。


後日君島代理が農連東京事務所の所長に直談判したので間違いないそうです。

何でも他の組織の女の子が毒牙にかかったらしい。

酔わされて……


うん。

クズは滅べばいいと思う。

何気にコイツら犯罪者だしね。


後日分かったことだけど余罪がたんまり出てきてガチで警察に連行されました。

まさか市場対策でこんなことになるとは。


菊野原次長?

ワクワクではなくドキドキでしたよ?

嫌な意味ですけどね。


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