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第32話 神たちの会話

ぼんやりとした不思議な世界。

神である爺さんが久しぶりに会う女性と話をしていた。


「ふん、勝手に人間についていきおって。お前さんのせいでわしがいつまでも隠居できんではないか」


美しい女性はにっこりとほほ笑む。

そして突然雰囲気を変え爺さんを睨み付けた。


「まだこんなことをしているのね。呆れるわ。……あの人で最後って言わなかったかしら」

「ふん、お前さんには関係あるまい。わしだって好きでこうしたわけではない」


女性はさらに圧をかける。

爺さんは涼しい顔だ。


「もしかして、あの子たちに回収させるつもりじゃないでしょうね?……確かに強い魂だわ。でも、あれは私たちのミスよ。……もう開放してあげて」


爺さんはさすがに一瞬ビクッとしてしまう。

女性の纏う圧はちょっとシャレにならないレベルだった。


「のう、運命神よ、お前さん戻る気はないか」

「今の私は『さやか』よ。それ以上でも以下でもないわ……まったく、引き継いだあなたが一番わかっているでしょうに」


爺さんはため息をつき杖をいじり始める。

こうなると長いのをかつて運命神として一緒に行動していた女性は知っていた。


「もしかして遊戯の神、復活するんじゃないでしょうね」

「ふう。……まだ、可能性の段階じゃ。あの娘があの国の滅亡を防いでくれたからの」

「っ!?ならっ……」

「ダメじゃ」


唇をかみしめ悔しそうな表情をする女性。

爺さんがおもむろに口を開く。


「勘違いするな。お主のせいではない。……ああしなければ確実に世界自体が崩壊してしまったじゃろう。あの勇者は見事だったよ」



※※※※※



かつて転生し、ある世界を救った勇者。


しかし救った国に裏切られ騙し討ちに会い、命を落とす直前、運命を司る神であったこの女性が、勇者の記憶と神の立場を代償に、地球へと転生していた。


実はあの時、誰も勇者には敵わなかった。

おそらく最強の勇者、あの時の危機のみならず、全世界を遊び場と勘違いし我が物顔でただ暴れていた遊戯の神、自らを「真の魔王であり裏ボス」とかほざいて暴走していた奴まで封印していたのだった。


これには神たちも驚いた。


神同士での争いはこの世界において摂理に反してしまう。

だから苦肉の策でやらかした後にフォローすることしかできていなかった。

そして結果彼ら神々が創造した世界は守られた。


だが因果なことだ。

救われた国の民があまりにも強すぎる勇者を恐れそして排除しようとした。


勇者は諦めていた。

自身の過去を、罪を、償いたかった。


彼は結果的にその国に住む人々の感情を受け入れた。

弱い人の心に、そしてその行動に同意し、それこそが自身の贖罪になると信じていた。


「強すぎるものは排除される。それもまた自然の事だ」

「俺はもう未練はない。地球でさんざん人を殺し、死んだ俺はもう望みはないんだ」


しかし一人の神が禁忌を犯す。

運命の神だった彼女がその勇者生きざまに惚れてしまっていた。

そしてあまりにも非道なその運命に怒りを覚えた。


勇者、菊野原俊樹はかつて極道だった。

そして抗争で多くの人をその手で殺し、銃で撃たれ亡くなっていた。

女性を食い物にする非道な組織を一人で滅ぼし、そして死んだ。


どの世界でも殺人は酷い因果が刻まれる。

だが彼は一度たりとも自身の欲望のために人を手に掛けたことはなかった。


「私は自分が恥ずかしい。あなたを運命の呪縛から解き放ちましょう。たとえ私が消えるとしても」

「なっ、ダメだ、君は悪くない。俺を導いてくれた……俺など何の価値もないんだ、君は生きてくれ」


運命神は勇者にキスをした。

決意のキスだ。


「ふふっ、ダメよ?私あなたに惚れたの。もうあなたなしでは生きる意味ないのよ。責任取って、ううん、けじめをつけて?」

「っ!?」


運命神の覚悟に勇者は心惹かれる。

そしてすべてをなくしてもこの女性を守り抜くと決意した。


封印を司る運命神の心の力と勇者の勇気の心が共鳴し奇跡を起こす。


二人は地球へと消えていった。

封印のカギを虚空へ置き去りにして。



※※※※※



「貴方が継いでくれたのでしょう?なぜ今になって」

「因果じゃよ。あの勇者、今はお主の男じゃな。記憶をなくしたというのにどうしても惹かれ合ってしまうのじゃな」

「っ!?まさか……まこと君!?」

「うむ。わしも驚いたよ。まさか遊戯の神の一部が、あの男と女にまぎれていたとはな」

「そんな……私戻る」

「まて」


慌てて戻ろうとする女性をじいさんが止める。

そしてニヤリといやらしい笑みを浮かべた。


「どうやらミッションクリアしそうじゃ。その顛末を見届けてからでよかろう」

「望む結果となれば……奴の幾重もの結界が消えるじゃろう。何せあ奴が一番信じていない『人の純愛』を体現するのじゃからな。まあ失敗したらその時は……この世界が滅ぶ。それだけじゃ」


「それだけって……ねえ、変な仕掛けしていないでしょうね?あなた性格悪いんだけど?」

「ふん、ちょーっとばかし悪戯しただけじゃ。……見くびるなよ?お主が一番わかっているだろうに。人の絆の力を……信じてもいいじゃろうて」


「さあ、お前たちの答えをわしらに見せてくれ」



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