「ふうっ、疲れた。……やっぱり慰労会出なくても良かったな」
道普請が終わり区長をはじめ役員から、それはとても強く懇願され、まことは4時からの慰労会に出席していた。
普通慰労会は殆どの人が出ない。
大体役員とあとはお酒が好きな人と、良く知らない新しい区民が請われて出る程度だ。
俺は以前、特に帰ってもやることがなくて出ていたけどね。
ただでご飯にありつけるし。
お酒も飲めるし。
だけど……やっぱり俺はニーナさんの見た目を舐め過ぎていた。
神様パワーで4年前から毎年参加していたことになっていた俺はどうやら完全な客寄せパンダ状態で、公民館に入りきれないほど慰労会は大盛況になっていた。
そして始まる地獄の口説き大会。
独身男性のみならず妻帯者までが「俺、まことちゃんが付き合ってくれるなら離婚する」
とか言いだしてしまい、収拾のつかないカオス状態へ突入。
俺はトイレと言い訳してそそくさと逃げてきた。
『ねえ、勝手に帰っちゃって大丈夫なの?』
「ん?うん、問題ないよ。あれは任意だしね。ていうか怖過ぎでしょ」
『ふふっ、まこと本当にモテモテよね』
「そりゃあさ……ニーナさん、可愛いんだもん」
『うぐっ……もう♡』
うう、さっき俺色々考えちゃったからなんか緊張する。
俺の考えってたぶんニーナさん気付いているはずだ。
でも、ニーナさん何も言わない。
違うのかな……
「っ!?」
突然俺の頭に、あの爺さんの声が聞こえてきた。
『おい、まこと。クリアーじゃよ。おめでとう』
「……はっ?……えっ?……でも……」
『元に戻してやろう。良いな?』
「ま、まって……ニーナさん?……えっ、ニーナさん!?……嘘だ…いなくなってる……」
俺は激しく動揺してしまう。
俺の体が徐々に光に包まれる。
そしてかつての体に戻り始めた。
「ちょ、ちょっと、じいさん、ニーナさんは?」
『ん?ああ、あの娘は失敗じゃな。まあよかろうが。あ主はあの娘の願いを叶えたのじゃ。まああの娘は失敗扱いじゃから消させてもらったがの』
は?
なんて言ったこのじいさん……
ふざけるなよ。
失敗扱い!?
ふざけるなよっ!!!
「おい、じいさん、なんだよそれっ!!ダメだろ!?俺ニーナさんに何も言ってないだろうが!!彼女の望み知らないのに、叶えてなんかないだろっ!!」
『ふん。約束を破ったんじゃ。消えるのは当たり前じゃろうが』
「破ってないだろ!?俺何も聞いてないだろうがっ!!」
俺はなりふり構わず喚き散らす。
絶対に認められない。
ニーナさんが消えた?
許さない、許せない、絶対に認めるもんか!!
『しょうがない奴じゃの。女々しい奴め。良いじゃろうが。お主に何の損もない。ただでいい女に触れたんじゃ。感謝してほしいの。童貞には刺激が強かったようじゃがの』
「こ、こ、このっ、なんで、なんでそんなこと言う?いいわけないだろ!?どうしてわかんないんだよっ!!神様なんだろ!?どうして……嫌だ、ニーナさんに会えないなんて嫌だ」
俺はみっともなく泣き喚いた。
ああ、俺はもうニーナさんの事が……好……
「うぐっ、い、痛、ぐあああああああああああーーーーーー!!!!!!!!」
突然激しい痛みが俺の頭を襲う。
えっ?これ、警告?…うぐ、ぐあああああああああああーーーーーーー!!!」
俺は激しい頭痛で、意識を失った。
※※※※※
「うん?なんだよ210円しかない。おーい真琴、30円持ってる?」
学校帰りに二人で歩いていた俺は自動販売機で飲み物を買おうとポケットを見たら小銭が210円しかなかった。
2本買うには30円足りない。
「ん?持ってるけど……誠210円あるなら買えるじゃん。なんで30円?」
真琴が不思議そうな顔で首を傾げた。
うう、可愛いな
「えっ、だってさ。その、俺真琴に買ってあげたい…から」
うあ、なんだよ俺、顔が赤くなる。
真琴なんかニヤニヤしてるし。
「ふーん。そっか。ふふっ、でも足りないんだ」
「う、うん。……俺かっこ悪いな」
「そんなことないけどね……えっと、はい30円」
なんか最初小さい声で言ったから聞こえなかったな。
なんて言ったんだろ?
「ああ、うん。ありがと。……なあ、何飲む?」
「うーん。どうしよっかな♡……誠が選んで」
うん?俺が選ぶ?うーん、そうだな……おっ、モローイエローあるじゃん。
真琴これ好きだよな。
「よし、じゃあこれ」
俺は迷わずモローイエローのボタンを押す。
ガランと音がして取り出し口に出てきたジュースを真琴に手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。ふふっ、誠よく覚えてるね。私がこれ好きなの」
「そりゃあな。長い付き合いだし……そ、それに……その…うあ」
あう、やばい。
なんか今日の真琴、めっちゃ可愛い。
どうしよう。
ドキドキが止まらない。
「ん?どしたの?……顔赤いよ?えっ、風邪ひいた?」
おもむろに手を俺の額に当てる真琴。
顔が近い。
俺の大好きな真琴のいい匂いがする。
うあ……ああ、可愛い……やばい、俺マジで熱出てるかも……
「えっ?すっごく熱い。大丈夫?あーどうしよう。お母さん呼ぶね」
携帯を取り出し電話をかけようと真琴がボタンを押し始めた。
俺は慌てて真琴の手を取る。
「きゃっ」
「うわっ」
勢いあまって真琴に抱き着く形になってしまった。
そのまま抱き着いた形で倒れる二人。
真琴の鼓動が伝わってくる。
やばいやばいやばい。
早くどかないと……
俺が焦ってどこうとすると何故か真琴が俺の手を握る。
俺は激しく動揺してしまう。
「えっ?あ、ご、ごめん、痛かったか?あ、その、お、俺は、大丈夫だから……」
「ねえ、誠?」
あれ?
なんだ?
目がかすんで……
「お願い……私を選んで………」
※※※※※
「はっ?」
俺はぼんやりと白い空間で目を覚ました。
そしてそこには……何故か分からないけど菊野原次長の奥さん、さやかさんが居た。
「えっ?……さやか…さん?」
さやかさんは思いっきり大きなため息をつき、とても可哀そうなものを見るような目で俺を見つめた。
うぐっ、なんだ?
俺、なんか泣きたくなってきた。
「はあ――――――――――」
そしてもう一度大きなため息。
うう、俺なんかしましたか?
居た堪れない。
そして近づいてくるさやかさん。
彼女の手が俺の頬に触れる。
「ひうっ、えっ?……なに?……うあっ!?」
「ごめんなさいね。……全く性格の悪いジジイめっ!」
視界がぎゅーんと引き延ばされる感覚に俺は思わず吐き気を催す。
そして時間の感覚がない様な不思議な空間に俺はいた。
「なっ……えっ?……まさか……嘘……うああ……あああ…ああ…ああ!?」
俺の目の前に。
大好きな女の子がいた。
諸山真琴。
何故か少し別れた時よりも成長した、美しい真琴が、俺に微笑んでいた。