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第34話 神と勇者のけじめ

「おいこら、このくそじじい」

「うぐっ、酷いの。なんじゃその言い方は」

「じゃあうんこジジイ」

「もっと酷いじゃろ!?」


さやかはまるで目つきで人を殺せるような視線をじいさんに向けていた。


「あんたね!?なんなのあの茶番は!?……こんなに性格悪いとは私も思わなかったわ。……先にあんた滅ぼした方が良いのかも」


そして全身からガチの殺気を纏い、爺さんを睨み付ける。

流石にやり過ぎと思っていた爺さんは素直に謝ることにした。


「すまんかった」


そしてジャンピング土下座を披露する。

何気におちょくられた感じがするさやか。

コイツはこういうのが大得意だ。

ペースに巻き込まれると非常に厄介になる。


「ふう―――――――――。まったく。分かったわよ。私と俊樹で何とかするから。……あの子たちは解放しなさい」


「ダメじゃ」

「なっ!?……あのね、マジで怒るわよ」


「わしはこの世界を失いたくない」

「っ!?」


じいさん、いや創造神であり、今は運命神の力まで宿す絶対者が泣いていた。

そして今までのふざけた雰囲気が消え、かつてすべての神が憧れた威風堂々としたオーラを漲らせる。


「分かっていた」

「……」

「あれはすべてわしのエゴが産んだものじゃ。責任はわしにある」


そして遠い優しい目をする創造神。


「ふふっ、わしは久しぶりにわくわくしたんじゃよ。あの若い二人の心の想いにな」

「この世界も捨てた物じゃない」


おもむろに杖を構え力を籠める。

目の前に封印していた遊戯の神が現れた。


「くっ、このじじい、放せ、この束縛を解除しろっ!今すぐだ!!」


顕れると同時に喚き散らす遊戯の神。

それを冷めた目で見つめる創造神。


「お主……我が息子よ。もうよかろうが。……因果に戻れ」

「なっ!?いやだ、いやだ。なんだよ、このくそじじい。いつもみたいに冗談だろ?なあ、俺はお前の可愛い息子だぞ?なあ、早く放してくれよ」


遊戯の神の訴えを無視し、創造神はさやかに頭を下げる。


「すまないな、さやかよ。いま一度だけ勇者の力を貸してほしい」

「えっ?……でも……!?まさか……だって対価が……」

「わしはな…もう沢山じゃ。……諦めておった。わしは失敗したとな」

「……」

「じゃがの……希望がいたのじゃよ。…何の力もないものの、心の力、人を想うその強さじゃ」


杖を掲げる創造神。

別の世界が映し出される。


そこには……

若い男女が見つめ合っている風景が見えた。


「ふふっ、わしの最後のわがままじゃ。見せてみろ。お前さんの強い想いを」



※※※※※



ああ、あああ、真琴がいる。

俺の大好きな真琴が……


あああ、真琴……


俺は涙を止める事が出来なかった。

ずっと感じていた。

恐くて確認できずにいた。

でも、やっぱりニーナさんは……真琴だった。


「……誠、久しぶり……じゃないか」

「……うん」


真琴はなぜか寂しそうに微笑んでいる。

儚いさまに俺は突然恐怖に包まれた。


「なっ、真琴?おまえ、体が……」


徐々に薄くなる真琴。

俺は叫んでいた。


「イヤだ、消えないで、なあ、真琴、ああっ、ダメだ、行くな真琴、あああっ」


抱きしめたいのに俺は体を動かす事が出来ない。

消えていく真琴が何かをつぶやく。


「……!……!?………」


あああ、消える……いなくなってしまう……うああ、いやだよ、せっかく会えたのに…


そして消える直前、俺の頭の中にあの爺さんの言葉が届く。


『このヘタレめっ!大好きなおなごに、言う事があるじゃろうが!?このくそ童貞がっ!!』

「っ!?言う事……そうだ、俺、まだ伝えてない」


俺はまさに消える真琴に大声で俺の想いを始めて俺の口から伝えた。


「真琴、大好きだ!!誰よりも、心の底から愛してる!!だから、お願いだよ……俺と一緒にいてくれよっ!!!!」


光が弾けた。


気付けば俺は大好きな愛おしい真琴を抱きしめていた。

大好きな香りに包まれる。


「……ばか……もう、遅いよ?ぐすっ……誠……うあ、誠…大好きだよ」

「真琴、俺も大好きだ。愛してる、もう離さない」


二人の抱擁を祝福するかのように七色の光の奔流があふれ出す。

そして激しい光の奔流が俺の視界を奪っていく。


声が聞こえる……


「まこと?……ありがとう。真琴を選んでくれて……楽しかったよ?さようなら…まこと…」


ニーナさんが、消えていく。

ああ、俺も君が好きだったよ?でもごめんね。……俺は真琴が良いんだ。ニーナさん、ありがとう。さようなら……


もしかしたらニーナさんの中にもう一人いたのかもしれない。

正解は分からない。

だけど俺は何となくそんな気がしていたんだ。


ニーナさん、君に会えてよかった。



※※※※※



「嘘だっ、こんなのっ、あるわけがない!!くそっ、じじい、でたらめだ、人間は愚かなんだよ!絶対に最後は滅びるだけだ!!じじいだってそう言ってただろ!?おいっ、うあ、か、体が、ううう、力が……ぐああああああああーーーーーー!!!!」


真琴と誠が再会を果たした。

そしてカウンターとして仕込んでいたニーナにまで気づき、ちゃんと別れの挨拶までこなした。

100点満点だった。


その純愛が、心の想いが、今すべての世界を混乱に落としていた遊戯の神のすべての結界を解除していた。


真琴と誠のお互いを想う心からの想いが。


「さやかよ、呼んでくれ。対価はわしじゃ。早く呼べっ!」

「っ!?くっ、『召還の秘術、発動!!勇者顕現!!!』もう、どうしてこんなっ、あなたねっ!?」


遊戯の神の目の前の空間が音を立ててひび割れていく。

凄まじい光の奔流があふれ出す。


勇者が顕現する。


「っ!?さやか?……ぐうっ、この力……そうか、俺は……」

「おい、勇者よ、話はあとじゃ。遊戯の神を滅してくれ」

「……わかりました『聖魔剣召喚』はあああああああああああっ!!!!!!」


勇者の目の前の空間が裂ける。

悍ましい力を纏い、白銀に煌めく異形の大きな剣がずるりと出現する。

禍々しいそれは怨嗟の力を噴き出し始めた。


「おおおおっ、聖魔転換!!目覚めろ、聖剣・極剣」


怨嗟の力は一瞬で反転し煌めく黄金の光が奔流となり空間を包み込む。

音もなく振り下ろされる聖剣。


「ぐ、ぐぎゃああああああああああああーーーーーー!!!!!!」


聖剣は遊戯の神を切り裂き、その体を黄金のオーラが焼き尽くしながら蹂躙する。


「いやだ、嫌だああああああああ―――――――――!!!――――    」


この世界を創造しおよそ5千年。

遂に遊戯の神は滅びた。


バランスを取るため必要だった。

良い感情や善なるもののみでは世界は動かない。


創造神は諦めていた。


でも、何の力もない若い二人がそれを覆した。


「ふはは、なんと清々しい事か。ああ、わしは満足だ。……オルガよ」


創造神が名を呼ぶと、先ほど滅んだ遊戯の神がいた場所に一人の男が顕現した。

実はこの男は遊戯の神の半身。


バランスを取る時に創造した『義』の神だった。

オルガは遊戯の神に封印されその力ごと吸収されていた。


しかし勇者の摂理を覆す一撃でその因果が崩れここに今顕現する事が出来た。


「お主が新たな創造神としてこの世界を守れ。反論は認めん」

「……承知しました」


そして存在を薄くしていく創造神は勇者である俊樹に向き合う。

いまだかつてした事のないような優しいまなざしを向けた。


「ありがとう、勇者よ。これでこの世界はまた動き始める。願わくば無垢な魂に安寧を」

「ああ、力の限り務めを果たそう。……もう行くのか?」

「ふふっ、おいぼれは退く。これもまた摂理じゃよ。……さやか、すまなかったの。あの二人を頼んだ」


さやかは複雑な顔をする。

結局このジジイの思惑通り動いたことに腹が立つが……去来するのは寂しさだった。


「まったく。……あんた創造神のくせに不器用過ぎよ。……わかった。二人の事は任せて」

「ふはは、ああ、なんて清々しい気分じゃ。………じゃあの」


創造神は消えていった。

世界は新たなステージへと進んでいくのだった。


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