色々あった消防の練習もなんとか終わり、俺たちは今家のリビングで寛いでいた。
時計は午後9時50分。
俺は携帯を取り出し次長の奥さんのさやかさんに電話をかける。
昼間にも会ったんだけど、どうやら俺と真琴、それから新菜と話をしたいようだ。
別れる時言われたんだよね。
「もしもし、誠です。夜分すみません。えっ?は、はい。じゃあ……」
俺は携帯の画面を操作しスピーカーモードにした。
こうすれば全員で話が出来るとさやかさんに言われた。
『あ、あー、聞こえる?』
「「「はい」」」
『……ねえ、そこにくそじじいもいるよね?』
「……にゃあん♡」
気付けば子猫のじいさんが携帯のすぐそばで可愛く鳴いていた。
『このっ、にゃあん、じゃないわよ!まったく、あんたね、はあ、もう。……あのね、あんた速やかにオルガと連絡とってよね。どうしてあの世界のことオルガ知らないのよ!?意味わかんないんだけど?……まさか引継ぎしていないんじゃないでしょうね?』
「にゃ、にゃああん?」
あ、爺さん顔そらした。
やらかしてるなこりゃ。
「あの、さやかさん、今この猫顔そらしました」
『っ!?やっぱり。……おいこらクソジジイ。……俊樹に送らせようかしら?』
「ふにゃん!にゃにゃにゃーん」
慌てて消える子猫。
たぶん行ったのかな?
「あの、今消えましたよ?」
『ふう。じゃああっちは良いかな。コホン。ごめんなさい取り乱したわ』
「「「はあ」」」
※※※※※
取り敢えず要約するとこういう事らしい。
あの爺さん、けじめを取って自分を対価に悪い神を滅ぼして、その時に創造した別の真面目な神に引き継いだらしい。
でもあの爺さんああいう性格で……
大事なこと一つも教えていなかったそうだ。
それでせっかくニーナ姫が救ったあの異世界が、また混乱していて……
勇者として次長が不眠不休でどうにか収めたのだとか。
ああ、だから次長疲れていたんだね。
それで本題。
どうやらその悪い神を封印したときのカギのような物が、ある虚空に放置してあるらしくて……悪い神を信仰していた集団が、見つけたらしい。
もちろん神の力の籠ったもの。
普通の人では手出しができない。
だけど創造神と元運命神であるさやかさんが居なくなった数日の間に、封印というかその神聖?が薄れたようだ。
それで今その悪い連中の目の前にそれがあって。
まあ悪い神は完全に滅んだので大したことにはならないらしいんだけど……
でもなぜかこの世界とつながっていて。
このまま放置すると、災害、いわゆる大地震とか、火山の噴火とかを引き起こしてしまうそうだ。
だからその回収を、俺と真琴、そしてニーナさんに頼みたいとのことだった。
えっ?
俺達、普通なんですけど?
※※※※※
『お願いします。色々な縛りで私も俊樹も手が出せないのよ。あなた達しかいないの』
「えっと、あの、俺たち普通ですけど……出来ることなら協力したいけど……」
ニーナさんは確かにあの世界の住人だったし、真琴も転生経験がある。
でも俺は……憑依しただけだ。
力なんてない。
『あー、あのね、誠君、実は貴方あのジジイのお気に入りなのよね。うーん、実際にやった方が早いよね……誠くん『アプセクト』って言ってみてくれる?』
「えっ?……アプセクト……うわああっ」
突然俺の頭の中に膨大な記憶というか数式のような物が入ってきた。
吐き気がする。
「うぷっ、グッ………えっ……」
そして展開する膨大な記憶の波。
色々な情報がどんどん認識されていく。
「はあ。……これ、やるしかなくないですか?さやかさん。酷いですよね。これ」
『あ、うん。……ごめんなさい』
アプセクト……いわゆる受託だ。
うう、騙されたみたいだよねこれ。
「あの、危なくはないんですよね」
『ええ、それは大丈夫よ。オルガ、えっと新しい神も協力するから。危険はないわ』
「……10日後くらいですかね」
『そうね。……凄いわ、全部認識できたのかしら』
「まあ。……これもともと俺用ですよね。指示書」
『っ!?……あの性悪ジジイ……ほんとごめんなさい。むかつくわ。封印しちゃおうかしら』
「はは、は。でもこれで終わりみたいですよ。……やります」
しょうがないよねこれ。
だって俺用にセッティングしてあるし。
まったく。
なにが
「少しは信用せい」
だよ。
まあ、あの爺さんらしいかな。
手伝ってやりますか。
だってこれ……ニーナさんの案件だもんな。
まあ、本人次第だけどね。
戻りたいのかなニーナさん。
※※※※※
取り敢えず電話は終わりやることの確認もできた。
俺は今一人で自室にいる。
3人での共有も済んだ。
後は10日後。
絶対に成功させよう。
俺は髪の毛を乾かしながら、一人思いにふけっていた。