じいさんさ。
あんたマジで性格悪過ぎでしょ?
実はすべての事柄はもうすでにケリがついていた。
そしてなぜか世界の命運のすべてが俺の最後の選択に賭けられていたのだった。
※※※※※
「ねえ、くそじじい。あんた何考えてるのかな?頭にウジが湧いているんじゃないでしょうね!?」
ぼんやりとした空間でかつて運命の神だったさやかは、何故か子猫に擬態してオルガをデレデレにさせている元創造神に詰め寄っていた。
つい先ほど方法は分からないがキーとなるカギを回収したところだ。
ガチで疲弊した勇者である俊樹を、さやかは心の底から心配していたのだが……どうやらジジイとの密約があったようで。
後でたっぷりと言い訳を聞こうと心に決めた直後のことだった。
「ていうか、何でこの世界のすべてを誠君にのせるかな?馬鹿なの?あの子確かに魂強いけど、普通の子よ?あり得ないでしょうが」
子猫は光を放ち元の太々しい姿に戻り、杖をいじりながらいやらしい目をさやかに向け言い放つ。
何故かがっくりしているオルガ。
「ふん。その方が面白かろう?」
「なっ!?……あんたねえ、……で?勝算あるんでしょうね?あの子の選択ひとつでこの世界が滅ぶのだけれど?」
「さあの。奴がエロくてクズなら滅ぶんじゃろうがの。美女二人とかあ奴には荷が重いじゃろうて。カカッ」
実は選択肢は、そのままこの世界の運命とリンクしていた。
つまり神側から用意した選択肢はどれも不正解。
否定し誠が愛を貫いた時のみ新たな道が開かれることになっていた。
分の悪い賭けはリターンが多い。
成功率の殆どない賭けの報酬は、全てを覆し、望む未来が紡がれる唯一の道だった。
それこそ創造神が紡いできたこの5000年のすべての感情を凌駕するまさに奇蹟の方法だった。
「なーに。奴は間違えんよ。何よりここにわしがいることが全ての証明じゃろうて」
「……そうよ、なんであんたここに普通にいるのよ?まだ業は終わっていないんでしょうが」
「ん?決まっとるじゃろ?誠が許してくれたからじゃ。あいつ馬鹿じゃが、良い奴じゃ。わしの力になりたいと心から思ってくれおったわい」
誠は普通の人間だ。
もちろん力なんてない。
でも創造神は理解していた。
だからこそ、全てを覆しうると。
人を想う心からの想い。
5000年の長い時間で創造神もまたたどり着いていた。
「さーて、最後の答えを聞こうかの。わしはもう後悔はせん。間違えた時にはもう一度やり直せばいいだけじゃ。そうであろう」
「ふう。………確かにね。でもあんた、覚えておきなさいよ?絶対にいつかぎゃふんといわせるわ」
「ふぉふぉ、楽しみに待つとしよう」
そして紡がれた唯一の正解に。
誠はたどり着いた。
誠は最後まで、真琴だけを愛すると宣言した。
遊戯の神が滅び救われていたように見えていたが危ないバランスの上でかろうじて動いていた世界は。
誠の選択により賭けに勝った元創造神の仕組んだ、在り得ないようなリターンにより、完全に救われたのだった。
※※※※※
あれから2年の月日が流れた。
俺と真琴の間には、可愛い男の子『祐也』が生まれていた。
祐也は今1歳とちょっと。
目を離すとすぐにどこかに行ってしまうため俺も真琴もひやりとすることが多くなっていた。
まあ、無茶苦茶可愛いので、結局デレデレの二人なのだが。
子供が出来たとはいえ俺達の愛はますます盛り上がっている。
可愛い真琴に俺はいつまでもメロメロ状態だ。
愛おしくてたまらない。
えっと、多分もう次もお腹にいると思います。
うん、毎日ですから。
はい。
相変わらず新菜は一緒に暮らしている。
今度沙紀先輩と東京のライブに行くとか盛り上がっているし。
もちろん俺とそういう事にはなっていない。
さんざん誘惑してくるが俺はもうスキンシップとして受け止めており、ドキドキさせられるものの、愛する真琴がいる状況では俺の心は揺るがない。
まあ実は東京の市場の担当の一人が、ガチで口説いているようだ。
新菜もまんざらではないようでもしかしたらそういう事になるのかもしれない。
実際新菜は無茶苦茶モテまくっている。
農家さんも何人かが暴走しかけたが、君島代理、今は昇進して課長になりました。課長がフォローしてくれており問題にはなっていないが。
まあ可愛すぎる新菜は実は非常に有能で、すでに君島課長の後継者としての片鱗を見せ始めていた。
最近では俺まで新菜に怒られることが増えてきた。
うん。
浮かれている場合ではないのだろう。
一応俺も主任に昇進したのだから、これからも家族のため頑張るつもりだ。
※※※※※
「ねえ誠?」
「ん?」
「新菜と本当にエッチしなくていいの?」
「う、うん…なに?突然」
「うん。この前新菜に言われたんだよね」
俺達は寝室で事後話をしている。
横のベビーベッドでは祐也が静かに寝息を立てていた。
「私も気持ちよくなりたいって」
「ぐはっ」
何言ってんのかな新菜さん?
真琴はなぜか真剣な目で俺を見つめてきた。
「わたし、良いよ?その、誠が新菜にエッチすること」
「ひうっ、な、何言って……」
「だってさ、新菜可哀そうだよ。誠、新菜いっぱい触ったくせにさ。あのね、今だから言うけど……あの時誠お風呂で、その、触ったじゃん」
「う、うん」
「あの時の快感、私まだ到達してないんだよね」
「えっ?」
「だからさ、私はもういっぱい誠が愛してくれるからそれはもういいんだけどさ、新菜はあの感覚しか知らないのよね。それってたぶんあの子結婚とかできないと思う」
あの時今ならわかるけど実は重なった快感は3人分だった。
しかもお互い大好きだった。
だからきっともうそこには到達できないのだろう。
『おなごの方がスケベじゃ』
突然爺さんの言葉がよぎる。
ああ、そうかもしれない。
今ならわかる。
でもそうじゃないってことも分かるんだ。
想いがなくてはあそこには絶対にたどり着く事はないんだ。
『誰でもというわけではないがの』
そうだ。
爺さん言っていた。
嫌な話だけど、たぶん男は相手が誰でもそれなりに気持ちよくなれる。
本能的なもので柔らかい体に興奮できるし、いわゆる種付けだからだ。
でも女性は違うのだろう。
愛する相手に思いやられ優しく時間をかけて愛されなければ、そしてそもそも体の相性が良くなければ……たどり着けないのだろう。
改めて女性は大変だ。
「もう、聞いてるの誠。私だってこんな話したくないよ?でも新菜はさ、私達しかいないじゃん、助けてあげることできるのって」
いかん。
考えに耽(ふけ)ってしまっていた。
「うん。でもさ、俺抱けないよ?新菜の事大好きだよ。でもそれだけは無理。俺は真琴じゃなくちゃいやだ」
「うぐっ、嬉しい……って、じゃあどうするの」
「うん。じゃあさ、挿れないってのはどうかな。その、あの時ってさ、触っただけだよね」
「確かに……で、でもさ、そんな途中で……男の人って止まれるの?」
「無理くさい。だから真琴も協力して」
「……まさか……うあ、ねえ、本気?」
「ああ、新菜が良いって言うならね」
※※※※※
そして最終最後のミッションがスタートする。
あほらしいよね普通。
でも俺たちは真剣だったんだよ。
だって俺たち一緒の体にいたんだからさ。
責任は取りたいと思う。
※※※※※
数日後、祐也を寝かせ俺たちは家で一番広い客間に大きめな布団を敷いて3人ほぼ下着の状態で見つめ合っていた。
責任を取るためだ。
「ね、ねえ、本当にするの?そ、その、嬉しいけど……でもなんで3人?しかも誠触るだけって……マジ?」
「うん。俺新菜を気持ちよくしてあげたい。多分あの時以上は無理だと思う。今思えばあの時3人重なっていたからだと思うし。でもさ、俺やっぱり新菜を抱くことはできない。すごく魅力的だしきっと本能ではめちゃくちゃ抱きたいって思う」
「う、うん……そっか。私、魅力的ではあるんだね」
「当たり前でしょ?もし真琴に会えなかったら俺絶対夢中になるもん」
「むう。誠、ちょっとその言い方酷い」
当然事前に説明はした。
一応新菜も承諾済みだ。
「よし、じゃあ行くよ?……真琴もお願い」
「う、うん」
「俺、新菜を絶対気持ち良くしたいから、本気で好きな気持ちで今から触る。……真琴、もしやばそうなら止めて。俺我を忘れて本当に襲っちゃうかもだから」
俺は優しく新菜にキスをする。
うあ、新菜の唇凄く気持ちいい。
いい匂いにつつまれる。
「ん♡……ああ、誠……嬉しい♡」
「ああ、新菜……可愛いよ……んん」
※※※※※
やばい。
もちろん最初の予定どおり俺は新菜には最後まではしていない。
というか真琴にもしなかった。
それどころじゃなかったんだ。
もしかしたら爺さんのサプライズかもしれないけど。
俺たち3人、快感を共有したんだよね。
俺も一応短い間だったけど女の子の体だった。
だから耐えられるかと思ったんだけどさ……
新菜やっぱりすごくて。
イヤらしい言い方になっちゃうけど、めっちゃ気持ちいい体しててさ。
柔らかいのに張りがあって肌は本当に吸い付く。
体がもう何とも言えない香りで、気が狂うような快感に襲われたんだ。
もちろん俺は精一杯愛する気持ちで新菜に触れ続けた。
じっくり時間をかけて。
そしたら何故かめっちゃ真琴が興奮し始めて3人絡み合って……
ある瞬間、俺たち3人に感覚が混ざった。
もうね、マジで脳が溶けるかと思った。
それにどうやら異世界でニーナ姫は百合っ気があったようで。
真琴とガチに絡んだんだよね。
うん。
これはマジでヤバイ。
俺達は朝が来るまで狂ったように絡み合って……
そして果てました。
ミッションクリア?なのかな。
※※※※※
一応俺は責任を果たした?
まあ、あれ以来そういう事はしていない。
どうやら新菜も満足してくれたみたいであれから俺に絡んでくることも無くなった。
ちょっと、いやかなり寂しいのは内緒だ。
※※※※※
あれからさらに2年が過ぎた。
真琴は女の子を出産して、俺は係長に昇進した。
新菜は何と、東京の市場担当者、事(こと)森(もり)大地(だいち)と正式にお付き合いをはじめ、会社を退社し、今は東京で同棲している。
君島課長が泣いて悲しんだのには驚いた。
この秋ゴールイン。
結婚することになった。
「本当は私、今でも誠の事が好きなんだけどさ。……大地もすごく優しいから。可哀そうだから結婚してあげることにしたんだよね」
とか言っていたけど、この前会ったとき新菜凄く幸せそうにしていた。
俺も真琴も心から嬉しかったのを覚えている。
※※※※※
俺はあの時バイク事故で死んだ。
真琴も高校2年生の時事故で死んでいた。
ニーナさんも異世界で苦しみ殺された。
そんな俺達だけど、何故か運命の悪戯に巻き込まれて、あの太々しい創造神の爺さんにおちょくられながらも、どうにか生きてこられた。
そして未来を掴むことが出来た。
俺は真琴と、長男の裕也、長女の瑞樹と4人で暮らしている。
新菜もどうやら懐妊したようだ。
色々な運命に翻弄されたけど、俺は心から嬉しく思う。
真琴、君に会えたことが、俺の幸せのすべてだった。
愛してる。
これからも俺とともに生きていってほしい。
「もう、誠。当たり前でしょ?……貴方は来年には3児のパパになるんだから」
「えっ?まじで!?」
「うん……3か月だって」
俺は思わず嬉しくて泣いちゃったよ。
ああ、俺達はこれからも楽しく暮らしていく。
~FIN~