ここは、天下トーイツ・カンパニー。
主にAI戦略シミュレーション、セキュリティ技術システムなどのあらゆるシステムの開発と製造をしている。社員数約1000人で成長率も高い注目の企業である。
今日は月に一度の役員会議。最上階の会議室に5人が集まる。
「これより役員会を始める。まず豊臣、四半期の営業成績の説明を」と社長の織田が渋い顔で言う。
【社長:織田ノブ】
長身に黒スーツ、鋭い目付きで見た目は怖いが革新性とカリスマ性で組織を率いるトップ。説得力とスピード感のある意思決定で時代を切り開く。常に最先端のプロダクツを追求し何事も諦めない男。
「はい社長! AI戦略シミュレーションシステムの大型受注が取れたことに伴い、予算比で売上が伸びました!」
【営業部長:豊臣ヒデ】
ベージュのスーツでとにかく笑顔が明るい。人心掌握に長け、コミュニケーション力も高い。プレゼン・交渉・販路開拓は彼に任されている。相手の懐に飛び込む才能があり、営業成績を上げるためのトーク術を社員たちに伝授している。
「豊臣よ、利益があまり出せておらん」
「はっ……思ったより先方の注文が多くてですね……時間がかかったといいますか……ね? 武田部長」
「ああ。特注製品でオプションも多く希望されたため、設計と開発に工数が必要でした。引き続き保守にも力を入れて参ります」
【開発製造部長:武田シン】
体格が良く黒スーツに赤系統のネクタイで勇ましい顔つき。戦術の天才で現場を把握し、安定した生産と技術開発の舵取りが得意。彼のおかげでプロダクツの本番稼働のトラブルはゼロに近い。
「そうか、そのプロジェクトは年度予算に組み込んでおったか? 徳川」
「はい、昨年度より受注見込みありで予算に入っております。おそらく上振れするでしょう。利益率はやや低いものの今後継続受注が見込めれば安泰かと。それと社長、前から話のあった債券投資の件、いかがでしょうか」
【経理部長:徳川ヤス】
紺色のスーツでクールな見た目。慎重で堅実。帳簿は1円も誤差を許さないタイプ。財務の安定と中長期的ビジョンを見据えた予算設定や投資判断ができる。会計基準や税制改正のキャッチアップは怠らない。
「うむ。理解した。資金は潤沢にある。3億円の範囲内で投資を許可する。ただし内容については低リスクのものから始めよ」
「承知しました、社長」
「上杉、残業や社員達の様子に問題はないか」
「はい。先日内部通報で1件、人間関係のトラブルが発生しましたが、双方に面談を実施し解決済みです。他はございません」
【人事部長:上杉ケン】
グレーのスーツに身を包む誠実な男性。義に厚く、部下の信頼を集めるリーダー。公正な評価制度と、社員の士気・忠誠心の向上に貢献。メンタルケアも欠かせない。ダイバーシティ、多様な働き方にも力を入れている。
「分かった。ではここで報告。戦略立案、企業買収、海外展開、ロジスティクス改革などを支援するコンサル事業会社『カイカク・コンサル』の買収が決まった」
織田が低い声でしっかりと話す。それだけで重みのある内容に聞こえる。
「さすが社長! 早すぎます……」と豊臣。
「コンサルか。シナジー効果はどれぐらいだろうか」と武田。
「連結子会社化の時期はいつでしょう」と徳川。
「新しい人材を受け入れることになりますね」と上杉。
「詳しいことは添付資料を各自読んでおくように。買収に関しては引き続き手続を進めてゆく。では解散」
皆が会議室から出る。豊臣が早速喋っている。
「さっすがやること早いよなー社長! いつの間に進めていたんだ、コンサル買収の話」
「はぁ……いつも社長はいきなりだから経理処理が追いつかないよ」と徳川。
「そう言ってお前は会計六法が全て頭に入ってるから余裕だろ!」と武田。
「武田だって急に社長からコンサルツール作れって言われるかもしれないぞ?」と徳川。
「げっ……だよなぁ。でもこういうのって豊臣が喋りでコンサルやれって言われそうじゃないか?」と武田が豊臣に向かって仕事を投げようとする言い方をする。
「コンサル? 任せなさーい!」
「相変わらず軽いな。買収先に人事異動だってありうるぞ?」と上杉。
「子会社に左遷か? やだやだ!」と豊臣が焦る。
「何だかんだ社長に頼りにされておるからな、豊臣は。大丈夫なんじゃないか」と徳川。
「だろ? へへっ……そうだ忘れてた! 今日の合コンみんな行くよな?」豊臣が思い出す。
「おう、行くぞ」と武田。
「お前、彼女数人いるだろう?」と上杉。
「上杉……奥手なお前に男のロマンスは分からぬか」と武田。
「何だと? 付き合いというものは義理人情を一番に考えるべきだ、武田」と上杉。
「だからいつまで経っても上杉は一人なんだって! ハハッ」と武田が笑う。
「またこの2人が言い合っとるな」と徳川が呆れる。
「徳川はどうする? 人数合わせだと思って……お願い♪」と豊臣が徳川に頼んでいる。
「やれやれ仕方ないな……ん? 豊臣……後ろ!」と徳川が目を見開く。
豊臣の後ろに社長の織田がギロリと睨んでいるのが見えた。
「ぎゃー! しゃ、社長!」
「豊臣! そんなことをしておる場合か! 戦略を練れ、改革を起こせ……営業は走れ!」
「あ……もしかして織田社長も合コンに……」
「くだらん!」
「ひぃぃ……外回り、行ってきまーす!」
豊臣は慌てて営業先に出かけて行った。
このような感じでカンパニーで働く5人に数日後、メールが届く。
『緊急……役員の皆様。今宵、最上階会議室に集合願う。新事業開発室長 黒田カン』
それは5人が戦場へ向かう始まりの合図であった。