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第2話 戦いの始まり

『緊急……役員の皆様。今宵、最上階会議室に集合願う。新事業開発室長 黒田カン』

 このメールを見た5人が夜に会議室に集合した。暗い中で月明かりが差し込む会議室。そこには新事業開発室長、黒田カンが立っている……が、真っ黒なスーツ姿にフード付きのマントを羽織り独特のオーラを放つ。


「黒田、お前ここで何をしておる」と織田。


「働け……壊れるまで。それが社会だ」

 黒田が言う。5人は意味の分からない顔をしている。


「私はこの言葉に呼ばれるように現れた者。ある日、東京の一角で時空の歪み、激しい稲妻があったのです。その時に私はこの時代に降り立った。そして……貴方たちを転生させた」

 一体この時代に何が起こっているのだろうか。


「その日以降、無数の叫びが聞こえるようになったのです。『働く意味が、わからない……』といったもの」

 黒田の言葉に上杉が即座に反応する。

「鬱症状ですね……現代社会においては増加傾向です」


「この時空の歪みから生まれたと考えられるブラック企業団たるものが出現したのです……彼らがいる限り日本の未来が危ない。だが……私には彼らを成敗する力まではない」

 5人が静かに聞いている。闇から現れしブラック企業団……無理な残業を強いて個人の尊厳を壊し、社員を駒のように扱うという。


「貴方達5人は選ばれし戦士。そのためにこの時代に転生する必要があった」

「俺たち5人が……?」織田はまだ黒田を信用していないようだ。

「世の中に改革を起こす。そう、改革の戦士たちよ……!さぁ、この刀型のネクタイピンをつけるのだ!」

 黒の宝石が入ったネクタイピン

 金の宝石が入ったネクタイピン

 紅の宝石が入ったネクタイピン

 蒼の宝石が入ったネクタイピン

 白の宝石が入ったネクタイピン


 これらが織田、豊臣、武田、徳川、上杉の胸元で光る。

「何だこれは……? 力がみなぎってくる……そうか。俺たちはこの世の中を変えるために生まれてきた……!」と織田。

「うまく営業先で話せない……プレッシャーに押し潰される人の声が聞こえる……」と豊臣。

「プロセスが組み立てられずに品質管理と納期の間で揺れる人が見える……」と武田。

「数字の罠に苦しみ、適切な経理処理をできない者がおる……」と徳川。

「心身を病み、明日を不安に思う人。評価制度の闇が見える……」と上杉。



「叫ぶのだ! 『スーツ侍・改革!』と!」と黒田。


「「「「「スーツ侍・改革!」」」」」



 5人の周りを光が囲み、新たなスーツが装着されマントが翻る。一瞬で5人は……選ばれし戦士である「スーツ侍」に変身したのだった。

「5人のスーツ侍よ……これからは世のため人のため……闇のブラック企業団を成敗し更生させよ!」

 そう黒田が叫んだ。


「俺たちが……スーツ侍だと……?」

 5人は少しずつ思い出す。戦国時代の侍として生きたあの時を。命懸けで天下を取りに行くために多くのいくさがあったあの時代を。そして今ここに生まれ変わったのは、現代社会の新たないくさにより、心身ともに斬り裂かれる思いをする者たちを救うため。彼らはこの事実を受け入れる覚悟ができたようだ。


 何のために生きるのか……何のために働くのか……

 全ての働く人のために俺たちは動き出す。



「黒の統括戦士、スーツ侍・ノブナガ! 古き制度は燃やし尽くす。働く全ての者に、明日と希望を見せるために」

【黒の統括戦士、スーツ侍・ノブナガ】

 黒地に鮮やかな赤ラインの入ったスーツにマント、炎の刀を所持する。

 ルールブレイク戦法により、因習・悪習・理不尽をぶった斬り、組織に炎のレボリューションを起こす。



「金の営業戦士、スーツ侍・ヒデヨシ! さあ、今日から笑って交渉だ! お前たちの夢、俺が通すからさ!」

【金の営業戦士、スーツ侍・ヒデヨシ】

 黄金色のスーツにマント、金の扇を所持する。

 交渉術・人心掌握・空気変換フィールドにより、スマイルパワーで受注を手助けする。



「紅の技術戦士、スーツ侍・シンゲン! 現場の声を聞き、現場を守れぬ者に、指揮官の資格なし!」

【紅の技術戦士、スーツ侍・シンゲン】

 朱色のスーツにマント、風林火山と書かれた盾を所持する。

 戦術・現場再構築・スーパーオペレーションにより開発、製造ラインの最適化を図る。



「蒼の経理戦士、スーツ侍・イエヤス! 数字は嘘をつかぬ。だからこそ、誤魔化す者を許さん」

【蒼の経理戦士、スーツ侍・イエヤス】

 蒼色のスーツにマント、蒼の扇を所持する。

 不正経理斬り・無駄カット・長期安定能力があり、数字と法令で企業の闇を制する。



「白の人事戦士、スーツ侍・ケンシン! この刃は、声なき者のために振るわれる。義を貫け、個性を尊重せよ」

【白の人事戦士、スーツ侍・ケンシン】

 アイボリーのスーツに「毘」の刺繍入りマント、義の刀を所持する。

 評価制度改革・メンタルケアなどのヒーリングパワーがあり、ハラスメントや社内差別と戦う心の剣士。



 ビル風にマントを揺らし、それぞれ違う歩き方、違う気配を纏う5人が並ぶ。そして屋上に飛び立ち、疲れ切ったサラリーマン達を眺める。


「この現代は、腐っている。心なき組織、魂なき労働。

 だが……まだ戦える者がいるならば、俺たちは斬る。救う。導く」


 スーツの下に侍の誇りを。

 彼らの活躍は如何に……?

 次回以降、その魂を胸に彼らが戦う!

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