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第3話 燃えよ改革の炎

 とある老舗大企業「ミヤシタ商事」は、半年ほど前から年功序列・ハラスメント・非効率の三重苦に沈み、多くの社員が心を病んでいた。


 ある日の会議室で部長が部下に怒鳴る。

「こんなプレゼン資料で先方が納得すると思うか? 君にはやる気というものが感じられないんだよ……ったく、今の若い世代ってのは熱意が足りん!」


 そして意味があるのか分からない会議が1時間半。ああでもない、こうでもない……ではどうするか。また考えましょうか。君、よろしくねと上司に言われる。この1時間半でアジェンダが全て決まらないのは何故なのだろうか。


「これ、明日の午前中までに調べてまとめておいて」と上司に言われて本日も残業を押し付けられる部下たち。

「20代のうちはどんどん働けよ! 体力のあるうちにな!」

 しかし残業したところでその実績は評価されず、上司に手柄を奪われる。

「俺たちの頃はもっと大変だったんだぞ? それに比べたらお前たちは甘々なんだよ」

 そして手柄を奪う代わりに失敗は押しつけられ、社員のモチベーションは下がる一方であった。


 ある夕方、新人社員の田中が自席でつぶやいた。

「こんな会社、焼き払ってやりたい……」



 その瞬間……雷鳴が轟き、天井が割れた。そこから赤いラインの入った黒のスーツを着てマントをなびかせた男が、炎をまとって降り立つ。



「その言葉、しかと聞き届けた!」

 何だ何だとオフィスがざわつく。



「黒の統括戦士、スーツ侍・ノブナガ! 古き制度は燃やし尽くす。働く全ての者に、明日と希望を見せるために」

 戦国のカリスマが現代企業にスーツ侍として参上したのだ。



「えっ……ノブナガってあのノブナガ?」

 田中が驚きを隠せない。しかしノブナガへの期待の眼差しを向ける。


 ノブナガは、社員たちの前でこう宣言する。

「貴様らの伝統とやら、すでに腐っておるわ! 会議は15分で十分、資料は1枚で足りよう!」


 まず彼がしたのは、役員会議を打ち砕くこと。2時間程度の無意味な会議に、烈火のごとき怒声が響く。

「決断なき会議は、ただの馴れ合い! メリハリをつけてスピード勝負ぞ!」

 役員たちが反発しようとするが、最恐武将のオーラを纏った長身のスーツ侍・ノブナガがギロリと睨む。


業火ごうか旋風斬り!」

 役員たちの膨大な資料が斬り裂かれ、コンパクトに1枚になった。

「確かにこれだけで十分だ……何故今まで気づかなかったんだ」と常務が言う。


 そして社員たちのいるフロアに戻り、ホワイトボードが燃え上がる。

 ノブナガの必殺技が発動する。

覇王はおう雑務オーバーロード無効キャンセル!」


 炎の刀を振り下ろし一面が真っ赤に染まったフロア。企業全体を改革するパワーが込められており、険しかった従業員たちの表情が和らいでゆく。

「何だか頭がスッキリした……あれ? どうしてこんな作業を……?」

 管理職達が明らかに多かった業務量に違和感を感じ始める。


 そして様子を見に来ていた社長の宮下氏から黒い煙が出てきてそのまま倒れてしまった。経営トップの社長がブラック企業団の魂に乗っ取られていたため、あのような社員にとって苦しい組織体制となっていたのだ。

「社長?」社員たちが宮下氏のところへ向かう。

「ん……おや? 君たちどうした……こんな遅い時間まで」

「えっ……? 残業しないと終わらなくて」

「何だと? 身体が資本なのだから無理をするでない」


「社長……! 良かった! 元の社長に戻って下さった!」常務が感嘆の声を上げる。

「あのノブナガ様が……社長を助けてくれたんだ……!」

 こうしてミヤシタ商事の古い体制はその場で崩壊した。田中は間もなく定時で帰れるようになり、心の余裕を取り戻していく。



 ノブナガはビルの屋上で言う。

「社員一人ひとりの生を尊重できぬ企業など、戦場にも立つ資格なし! 働く者が笑える世こそ、真の天下である!」



 ※※※



「私の術が破られている? 何だ……あのスーツ侍とやらは?」

 モニターで一部始終を見ていた一人の男が呟く。彼の名はミスター・KPI。ミヤシタ商事の社長を操り、部下を尊重しない悪の管理職を生み出したのであった。



【ミスター・KPI】

 眼鏡をかけており険しい顔つき、黒スーツに紫色のマントをなびかせる。管理職を名乗るが実は一切の責任を取らない考えを尊重。決して褒めず、部下の手柄をすべて横取りし、人望ゼロ、部下のメンタル破壊率100%の管理職を創出する。



「甘いんだよお前は。ボスがお怒りだぞ?」

 クスクスと笑い声が聞こえ、KPIが振り返るとニタニタした顔つきの大柄のスーツの男が、小馬鹿にしたような目つきで立っている。

「社長さえ洗脳してしまえば組織全体を崩すことができるはずだったのだが」

「俺なら先に現場を崩しに行く。圧力をかけることこそ全てさ。フッ……」

 そう言って大柄の男が姿を消した。



 ※※※



 天下トーイツ・カンパニーに戻った織田は早速残りの4人と黒田を会議室に呼ぶ。スーツ侍たちは胸に小型カメラが設置されており、後で改革の様子を見ることができる。

「これは……ミヤシタ商事の宮下社長にブラック企業団の魂と思われるものが乗り移っていたのです」と黒田が説明する。


「ブラック企業団……何て卑怯だ。企業のトップを操るとは」と織田が憤りの表情を見せる。

「彼らはどのような手を使ってくるかわかりませんからね……」と黒田。


「それにしてもさすがです、社長! 我々も気を引き締めていきましょう! ということでまずは社長の初任務に祝杯といきますかぁー!」と豊臣。

「行きたい者だけで行くのだ。無駄な時間はキャンセルするぞ? 豊臣」と睨みつける織田。

「ひゃー! ですね! ですね!」


「よし、俺が付き合ってやるから!」と武田。

「サンキュー! 武田! 徳川はどうする……?」と豊臣。

「……分かった。今日は行ってやる。上杉はどうするんだ?」

「人の心、祝杯にて和らぐ。行かせていただこう」と上杉。

「私はこの映像から調査を進めます」と黒田。


「フフ、結局いつものメンバーだな!」

 そう、織田は滅多に飲み会には顔を出さない。孤高のカリスマと呼ばれたかつての戦国武将は、この時代に転生してもなかなか心の内を見せないのだろうか。


 居酒屋へ向かう途中に営業マンらしき男とすれ違う。

「ノルマが……ノルマが……」

 苦しそうな表情のサラリーマンに豊臣が勘付く。

「次は……俺の出番かな?」


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