都内の中堅企業「トヤマン印刷株式会社」。そこの経理部では、見えない闇が漂っていた。
まず、納品書と仕入実績が合わない。
「おかしいなぁ。仕入計上されているのに納品書が見当たらない……」
新人の経理マン小山が頭を抱える。納品書の束を何度も確認しているとすぐに時間が過ぎてしまう。
「今日も終わらない……業務部で納品書探してくれよ……」
泣きそうな声を上げながら小山はふぅと息をつく。
そして金庫内の現金も帳簿と合わない。
「金が消えた? どういうことだ……毎日少しずつ減っている……」
まるで誰かがお金を盗んでいくかのよう。しかし金庫の鍵は経理部長のみが所持している。部長の目を盗んで鍵を取りに行くのは容易ではない。
実はこの経理部長、2週間前から急に着任した者であり彼が来てから奇妙なことが起きるようになった。経理主任もこの状況に気づいているものの部長に歯向かうことができず、やる気をなくしている。
そのような状況下で小山はある日、売上が二重計上されていることを発見した。自分が入力し主任が確認した時にはこのようなことはなかった。最後の経理部長承認の際に何かが起こったのか。
「まさか部長がワザとやってる……?」
部長に相談しようとするも、「見なかったことにしろ」と睨まれる。間違いなくあの経理部長だ。だが新人の自分にはどうすることもできない。
怯えながら退社した夜、ふと視線を感じて後ろを振り返ると、そこにいたのは。
蒼色のスーツにマントを羽織り、和風の佇まいを纏う男が立っていた。
「よいか、帳簿とは、組織の心臓部のようなもの。毒を入れれば、いずれ命を落とす」
「え? どうして僕のことを……」
「蒼の経理戦士、スーツ侍・イエヤス! 数字は嘘をつかぬ。だからこそ、誤魔化す者を許さん」
会計帳簿の闇を見破り企業健全化をモットーとするスーツ侍の登場である。
イエヤスは、小山を連れて「トヤマン印刷」へ行き、決算書の裏を洗い始める。
「家紋レンズ発動!」
彼の目により大量の帳簿を解析し、内部不正の痕跡を拾っていく。
「数字は嘘をつかん。人が嘘をつくのだ」
レンズに映る真実。会社の現金は、経理部長が横領していたのだ。さらに売上の水増しがされていたこともイエヤスは指摘する。
「やっぱり……経理部長は2週間前に来たのです。そこから不自然な点が多くありまして」
小山がそう言った途端、目の前を闇が横切る。
「誰だ?」イエヤスが構える。
そこには経理部長……が闇の煙に変身。空間を漂う妖怪のようである。
『ハッハッハ……バレてしまえば仕方ない。俺はブラックザコ団! お前たちに不正を押し付けて、一生自宅謹慎そして社会に適合できぬように弱らせてやる!』
妖怪が闇の煙を発動するが、イエヤスが扇で煙をまいた。
「おのれ……経理戦士として不正会計は断じて許さぬ! 決算・
イエヤスの必殺技が発動。横領された現金が戻り、粉飾などのあらゆるトリックを真の数字へと変換する。
『ぎゃぁぁぁ! 何を!』
そのザコ団は不正会計が消滅すると途端に力を失ってゆく。
「お前もこの力を受けてみよ!」
『うわぁぁぁ!』
こうして、イエヤスの必殺技により妖怪は退治された。奇妙な帳簿の闇は消され、適切な会計処理ができるようになった。
翌日から元経理部長が復帰し、小山は問題なく業務を続けることができるようになりホッとしていた。経理部は健全な運営を取り戻したのだった。
その様子をビルの陰から眺めていたイエヤス。
「真の安定とは、正しき管理から生まれる。一人の経理が救う命もあるのだ」
※※※
「まさか……管理部門まで目をつけられていたとはな」
ため息をつくミスター・KPI。ブラック・ザコ団を利用してトヤマン印刷の経理部長になりすましてもらい、不正を仕掛けて企業の信頼を失墜させようとした。
「あーあ。ボスがおこってるよぉ?」
知らない間にKPIの隣にひょっこり現れていた小柄なスーツの男。
「ふんっ……そう言うお前はちゃんと働いているのか?」
「僕は今はのんびりしたくってね♪ あ、仕掛けは今のところ完璧」
そう言いながら小柄なスーツの男は部屋を出ていく。
※※※
イエヤスの小型カメラの映像を見て黒田が気づく。
「これは……ブラック企業団自ら人間の姿になっているのか……」
「そのような力もあるのか、奴らは集団との認識だが何体ぐらいおるのだ」織田が尋ねる。
「幹部クラスは数名だと考えられますが、この闇の煙の妖怪……ブラック・ザコ団は一体一体の力は弱いものの、幹部の下についていると思われます。何体いるのかは分かりません。これらが企業に悪影響を与えているとしたら大変です」
「そうか。ではザコどもにも留意せねばならぬということか」と徳川。
「社長に取り憑いたりシステムに取り憑いたり……今度は人間の姿まで見せるとは。侮れん」と武田。
「他にもやり口はありそうだ。少しでも異変を感じれば確認した方が良いな」と上杉。
うーんと皆が考えている隣で豊臣が別のことを考えていた。
「豊臣、今日はおとなしいな」と織田に言われる。
「……なぁ徳川。お前のその家紋レンズでさ……俺だけを好きになってくれそうな女の子、分からないか?」
他のメンバーが硬直する。皆が真剣に考えている時に何を言っているのだ。
「豊臣ぃ! 何を考えておる!」いつもの織田の怒号である。
「おそらくそのような力はなさそうだが、試してみるか」と徳川が変身しようとするが、
「お前も真面目にやろうとするでない!」と織田につっこまれる。
「社長♪ 武器や技の力を把握するのは大切なこと。もしかしたら信じられぬパワーを我々、持っているのかもしれないのです!」と豊臣が笑顔で話す。
「まぁ……ブラック企業団と戦う中で自らの能力が分かることもあるが」と武田。
「義の心を持つ女性が家紋レンズで分かるのなら……」と上杉が小声で呟く。
「お前たち! まず我々がすべき事はブラック企業団の討伐。全ての働く人のために立ち向かうのだ!」
織田の迫力に4人、そして黒田も背筋を伸ばす。
「承知!」
「俺の金の扇、合コンでのトークに使えるかも」
「こらっ! 豊臣!」