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第14話 自分の時間を取り戻せ

 時間感覚を歪める「喫茶クロックワークス」。

「いらっしゃいませー♪ やる気の出る時限・ブレンドですね♪」と黒の制服に青いスカーフの姉。

「お待たせしました♪ 今日もお仕事たくさん……頑張ってくださいね♪」と黒の制服に赤いスカーフの妹。

 ショートカットに切れ長の目がクールだが喋ると可愛いくて、サラリーマンの癒しとなっている。ただしそのコーヒーを飲むまでは。


 喫茶店は午前中に閉店。その後双子の姉妹はパッとPCを出して客達をチェックする。カップの底についた小型GPSを利用して勤務先を特定しターゲットのPCにメール爆撃、予定表オールブロックが作動する。

「さすがお姉様のメール爆撃……こんなにたくさん片付くのかしらね」

「あんただって予定表オールブロックで無意味な時間を作り出して、なかなかやるじゃないの」


「あたし達の力があれば社員の洗脳は楽勝よ」

「時間に縛られ、動けなくなるといい……!」

 2人が顔を見合わせてニヤリと微笑み合う。美しさの中に恐ろしさを秘めた笑顔。



 ……その時であった。

 エスプレッソマシンが爆発音を立てる。

「何?」


 入り口のドアがドンッと開く。

 そこに現れる5つの影――


「職場の時間は、お前たちのオモチャではない」


「スーツ侍・ノブナガ!」「ヒデヨシ!」「シンゲン!」「イエヤス!」「ケンシン!」


「貴様らの淹れたのは、労働という名の毒だ」とノブナガ。

「おい、姉ちゃんたち。もうちょい楽しく働くって言葉知らねえのか?」とヒデヨシ。

「時間外労働……そのコスト、正確に払ってもらおう」とイエヤス。


 姉妹は慌ててPCを閉じて身構える。

「現れたわね、スーツ侍……ハッ!」と言いながら2人は宙返りをして一瞬にして黒スーツに青いマント、赤いマントを羽織った姿に変身した。

「あたしの名はミス・タイムクラッシャー。ブラック企業団の幹部。この時間の術で社員は絶対に定時には帰らせない……」

「わたしの名はミス・タイムバルカー。社員の時間はわたし達のもの。 2人で一つ、時を操る姉妹……」



【ミス・タイムバルカー】

 タイムクラッシャーの双子の妹。ショートボブに切れ長の目。黒スーツに赤いマントを羽織るがブラック企業団幹部ではない。普段は姉のサポートを行い、いざという時は姉と登場する。他人の時間強奪、目的のないタスク生成により予定表のブロックを行い無駄な時間を創出する。



「時を狂わせるコーヒーの味はいかがだったかしら?」

「コーヒーはその香りを楽しみながら飲むもの。それを過重労働に利用するとは断固許せん!」とイエヤスが力強く言う。


 タイム姉妹は杖を手に取り「残業オーバータイム正義ジャスティス!」と叫ぶ。杖から出てくる赤と青の光を浴びてしまうと99時間労働した時のダメージとなってしまう。

「風林火山シールド!」とシンゲンが盾を掲げるがシンゲンとその後ろにいたイエヤス以外の3人がふらついている。少しダメージを受けてしまった。


「眠い……俺寝る」ヒデヨシ、そしてケンシンが脱落。

 ノブナガも辛そうだ。隙を見てイエヤスがシンゲンの後ろで家紋レンズを発動させる。するとコーヒーに潜んでいた「洗脳データ」が検出され可視化された。サイフォンの裏にデータが仕込まれている。


「シンゲン! あのサイフォンの裏だ!」

 イエヤスの指示でシンゲンがサッと動き、盾を構える。

「そうはさせない! 無限・タイムループ!」とタイムクラッシャーが叫ぶ。

 青い光の攻撃がシンゲンに向かおうとしていたが、そこでイエヤスが必殺技を繰り出す。


「適正管理・ブックオン!」とイエヤスが2枚の扇で風を起こし、タイムクラッシャーの青い光を打ち消す。彼女の不適切な時間管理を無効化し、適切なタイムチャージを促す術である。

「な……何ですって?」

「よし今だ! 風林火山・データ抹消!」

 シンゲンが盾を構えるとサイフォンが爆発し、黒い煙が舞う。彼女達の洗脳データは綺麗に散った。


「嘘っ……もう! 信じらんない! こうなったらあんた達もまとめて長時間労働の苦痛を味わせてやる!」

 タイムクラッシャーが杖を取るが、すでに目の前にはあの男が鋭い目つきで佇んでいた。


 覇王、ノブナガ。


「え? どうして? 『残業正義』の効果がもう切れたの?」とタイムバルカーが焦って姉の方を見る。


「俺を誰だと思っておる……その昔は長時間、いくさを続けて頂点を目指しておった。甘く見るでない」

 ノブナガの周りを憤りの炎が包み、恐ろしく燃え上がる。タイム姉妹の顔が一気に青ざめる。


「第六天魔・煉獄れんごく!」

 ノブナガの莫大な攻撃。タイム姉妹が「時限ウォール!」と強力なバリアを張るが、じわじわと破られて姉妹はダメージを負う。

「うぅっ……今日のところはここまでよ……」

 2人は宙返りをして消えた。


 やがてヒデヨシとケンシンも回復。喫茶クロックワークは消滅し、時間の狂いは元に戻りつつあった。

「皆さん!」そこに黒田がやって来た。

「あのコーヒーを飲んだ者達は徐々に回復すると思いますが、中には毎日通っていた人もいて影響がかなり大きいのです」

「うむ……こうなったら……」ノブナガが呟く。



 ※※※



「天下トーイツ・カンパニー特製の天下無双・ブレンドはこちらですよー」

 お手製のキッチンカーの前で、朝一から黄金色のエプロンをつけた豊臣がアピールしている。

「はい、お熱いので気をつけてください」とアイボリーのエプロンをつけた上杉がキッチンカーの中からコーヒーを渡す。


 このコーヒーには上杉、つまりケンシンの浄化パワーが入っており、タイム姉妹に洗脳されていた人を解放する力を持つ。これで少しでも浄化を早めて社員達を救うことにしたのだ。

 洗脳されていない人もケンシンの癒しの力により活力が湧いてくるのであっという間に人気となり、タイム姉妹に洗脳された人達も徐々に来てくれるようになった。


「あの戦闘時、ヒデヨシ(豊臣)とケンシン(上杉)はぐっすり眠っていたからな」と社長に言われ、この2人が毎朝コーヒーを振る舞うことになった。

「洗脳が解けてきたようですね」と黒田がコーヒー片手に織田に話す。

「ああ、皆が自分の時間を取り戻していく」

 織田もコーヒーを飲んでオフィスへ向かった。


 すると後ろから「社長ー!」と豊臣と上杉がやってくる。今朝の分を販売し終わったところであった。

「いつまで早朝労働あるの? 社長ぉ……」と豊臣が泣きそうである。

「私達の朝の時間が侵食されているような気が」と上杉も言う。


 そんな2人を見た織田の一言。

「盛況だから続けるか」


「「もう無理ですー!」」

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