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第三章

第20話 スーツ侍、ログイン!

「ふぁ〜今日も俺、頑張った! お疲れ!」と独り言を呟きながら自宅に帰って来た豊臣。冷蔵庫からビールを取り出そうとしたところ、スマホが鳴った。

「え? 足立か? すげえ久しぶりじゃん!」


 電話の相手は足立という豊臣の元部下。天下トーイツ・カンパニーで開発製造部に所属の後に営業部に異動、その後独立してアプリ開発会社を立ち上げた。設立からまだ3年だがバトルゲームや箱庭ゲーム、乙女ゲームなど様々なゲームがスマホで楽しめると評判のベンチャー企業である。


 豊臣とは息が合い、たまに電話や居酒屋に行くこともあるが今日の彼は元気がなさそうだ。

「豊臣さん、おかげ様で我が社『笛吹きのフルートランド』はゲームアプリのダウンロード数も増加しておりまして、順調だったのですが……」


 聞くところによれば従業員がいきなり3人退職していったとのこと。アプリ開発だけでなくその後のアップデートやバグ対策もあって残業が多く、その影響かもしれないと足立は考えている。


「従業員数って20人ぐらいだっけ? そこで3人辞められるのはきついね……最近ローンチされたタイトル多いんだっけ?」

「いえ……既存タイトルのメンテナンスが増えたのです。SNSも荒れてしまいました。急に画面が固まる現象が起きていて」

「うわぁ、ユーザも多いならSNSで叩かれるのはキツイよな」


 豊臣はブラック企業団の関与を予感する。足立との電話を切った後、あることを閃いた。



 ※※※



 翌日の夕方、会議室にて。

「……で? これが足立の会社『笛吹きのフルートランド』の美少女育成ゲームか」と武田がスマホを見ながら言う。

「そう! これで俺だけを好きになってくれる可愛い女の子に出会うんだ! ついでに怪しいところがないかチェックする!」

「豊臣……目的を見失っているぞ。今のところ画面は固まっていないけどな」と徳川が呆れながら言う。


「それより……3人とも美少女育成ゲームをインストールするとは。フルートランドには他にもアプリがあるだろう?」と上杉。

「一番人気なのがこれだし、俺たちのモチベーションも上がるだろう? お? いい感じの女の子できたー♪」

 豊臣が任務そっちのけでゲームに夢中になっている。


「そうか……私は別のゲームを見ているが」

 上杉がスマホの画面を見て微笑む。普段から穏やかな上杉だがあんな微笑み方をするとは……そおっと3人は上杉のスマホ画面を覗き込む。


「「「……!」」」

「何を驚いておる。最近ではBLも流行りがあるのだぞ?」

「お前……そういう趣味だっけ?」と豊臣。

「ジェンダー平等。男女問わず義の心有する者、我に」

「ジェンダー平等とソレはまた別のような」と徳川。

「だからお前はずっと一人なんだって……」と武田にも言われる。


 そこに織田と黒田が入って来た。

「どうだ、アプリの様子は」

「社長! 俺の女の子なかなか可愛いでしょ?」

「豊臣ぃ! そういうことではない! 何か闇の力や不合理な点はないかと言っておるのだ!」

「ひえぇぇー! ないでーす! 多分」と徳川の後ろに隠れる豊臣。


「私もバトルゲームをインストールしましたが、今のところは変化ございません」と黒田。

「どれ……他のアプリは……ってお前たち! 3人同じアプリを入れてどうする!」と織田の怒号。

 黒田含め6人で6つのアプリを見れば効率的であったものの……豊臣、武田、徳川が同じ美少女育成ゲームをプレイしており織田はため息をつく。


「社長の方はいかがです? 私のBLゲームでも異常はなさそうなのです」と上杉が尋ねる。

「……俺の方も異常はない」

 織田の声が少し小さい。こういう時の織田は何かを隠していることを豊臣はわかっている。


「社長? どんなアプリをインストールしたのですか?」

 豊臣が今日一番の笑顔スマイルですり寄ってくる。

「……」



 織田のスマホには……美少女育成ゲーム。



「……っ! 社長も同じやつ入れてるし! え? しかもこの女の子……超超超レアキャラで今までに出した人ほとんどいないって……」と豊臣。

「相当時間を使って丁寧に対応しないとこのキャラは出せないはずだ」と徳川。

「二次元女性の扱いが天下一だ」と武田も感心している。

「まさか社長……今日一日これを……?」と上杉。



 それに対する織田の一言。

「これが本当のルールブレイク戦法だ」


「「「「本業やってくださいよー!」」」」



 その時であった。全員のゲームアプリが停止する。

「皆さん! 気をつけてください」と黒田。

 1分後に画面が復旧したものの、データは初期化されていた。

「な……これはひどいよ! ユーザが怒るのも無理はない」と豊臣。

「待ってください……この画面……」と黒田が見つめる。



『トイアワセはコチラまで。トイアワセ頂いたらデータを復旧してミセマショウ』



 今の時間は午後6時過ぎ。この時間にユーザからの問い合わせが一斉に行われた場合、従業員は対応できるのか。

「フルートランドのSNSが炎上し始めた。これは大変だ」と徳川が気づく。


「許せん……魂を込めて誠心誠意取り組んだ成果物を破壊する者……俺の貴重な時間を何だと思っておる! 今すぐ叩き斬る! 行くぞ!」

 織田がいつも以上に鬼の形相である。ほぼ一日中ゲームに没頭して育て上げた超超超レアキャラがいなくなったのだ。無理もない。


「……社長も目的を見失っているような。だが結果的には侍魂が強くなったのだろうか」と徳川が静かに言い、皆についてゆく。



 ※※※



「こういう単純作業にブラック・ザコ団は持ってこいよね」

「お姉様。障害によりあのベンチャー企業は炎上、従業員は疲弊し崩壊するでしょう」


 タイム姉妹が部屋でモニターを見ながらくつろいでいる。今回はブラック・ザコ団達に午後6時に一斉にアプリをダウンさせるよう指示した。ザコ団達は各地域に分散し、ネットワークを利用して通信障害を起こしている。


「SNSが炎上するとあの侍どもに見つかるリスクも高いけどね。だが……散らばったザコ団を全て見つけるのは難しいはず」

「さすがです、お姉様」



 ※※※



「「「「「スーツ侍・改革!」」」」」

 5人がそれぞれの色のスーツに身を包み、風を横切りマントをなびかせ「笛吹きのフルートランド」本社へ急ぐ。


 フルートランド社の従業員達は今日もエラー対応に追われていた。

「なぜだ……なぜ6時に……? 復旧させてもこれが続くなんて」足立も頭を抱えている。従業員たちも日に日に顔色が悪くなっていく。


 するとホワイトボードに映る5つの影。

「我ら、ユーザを代表し申す。美少女育成はもう少し難易度を上げた方が良い。いくさは困難であるほど革新的な手法が見つかり心が燃え上がる」

「(ノブナガ……今はその話ではないって!)」


「おっと失礼。18時……わざわざ就業時間直後に襲う不具合は、成長率の高いベンチャー企業を狙った悪党どもの仕業だ。俺たちは……」


「黒の統括戦士、ノブナガ!」「金の営業戦士、ヒデヨシ!」「紅の技術戦士、シンゲン!」「蒼の経理戦士、イエヤス!」「白の人事戦士、ケンシン!」


「「「「「スーツ侍! ここに見参!」」」」」


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