「「「「「スーツ侍! ここに見参!」」」」」
アプリ開発会社、「笛吹きのフルートランド」を襲う謎のデータ抹消とエラー。就業時間後に対応に追われる従業員達の前に5人のスーツ侍が風のように参上した。夕陽が差し込み幻想的に映る5つの影。フルートランド社の社長、足立には彼らが天から舞い降りた救世主のように見えた。
「助けてください……! データの復旧が……」
足立が今にも泣きそうな表情をしている。それを見たヒデヨシは優しく声をかける。
「そなた達のゲームアプリは働く皆に笑顔を与えてくれる。束の間のサラリーマン達のオアシス、俺たちが守ってやるからさ!」
「ヒデヨシさん……!」
シンゲンが風林火山の盾を掲げる。
「まずは俺がデータを解析して見せよう。風林火山・
風が止み、林の中に消えたデータを火のように素早く山のように積み上げる……! 少しずつであるがデータの復旧ができそうだ。
イエヤスが「では今のうちに」と言い瞳をカッと光らせる。
「家紋レンズ!」と叫び、社内のあらゆる場所を分析にかける。まずは開発用のPCやサーバ、クラウドの中までレンズが発動するが……
「ここでデータが削除された形跡がない」
「何だと? データは残っているのか?」とノブナガも驚く。
「データが残っているのにユーザ側では見えないということか? それなら……風林火山・
シンゲンが己の技術力を発揮すると驚く事実が判明する。
「なんてこった……全てのデータのタイムスタンプが未来に書き換えられてる!」
「そういうことか。通常のバックアップ検索では出てこない……存在しないと誤認する仕掛けだ」とイエヤスが納得する。
「つまりデータは封じられており、従業員達を混乱させた。許せん……こんなにも疲弊している彼らを……私がこの手で救おう! 心頭滅却!
ケンシンの「義の心」が従業員一人ひとりの心と共鳴するかのように、パワーが注ぎ込まれる。今は休んでも良いと背中を撫でられる感覚と、また開発が出来るという勇気を与える。
「はぁ……何だか落ち着く……」と足立が言い他のメンバーも浄化されたようにスッキリした表情となった。
「データがユーザに届かない仕掛け……ネットワーク障害……外だ!」とヒデヨシ。
「なるほど。では俺とヒデヨシ、イエヤスで外に向かう。シンゲンとケンシンはオフィス内を頼む」とノブナガが指示をする。そして3人はマントを翻し、窓から風に乗って飛び立つ。
「「承知!」」
※※※
ビルの屋上をシュタッと飛び乗りながらイエヤスが家紋レンズを発動している。
「……っ! ここだ」
あるビルの上でイエヤスが止まる。
「基地局……そうか。よしっ! ここは俺が!」とヒデヨシが金の扇を取り出す。
「突然自分の二次元美少女がいなくなった人の気持ちを考えろよな!
金粉が基地局を囲むように舞い上がり、アプリで楽しんでいた人たちの気持ちを呼び起こす。そのパワーに耐えられなくなったのか、基地局から暗黒の煙が出てくる。
『ゴホッ ゴホッ キサマら! よくも!』
「お前は……ブラック・ザコ団だな? 基地局に張り付いていたとは」とイエヤスがレンズを解除しながら言う。
『18時にポチッとやるだけなんで〜楽々のジョブだったのに!』
このブラック・ザコ団、基地局に侵入したなら更に悪さができそうであるが、そこまでのやる気は無かったようだ。
「許せん……今やネットワーク障害で日本経済が停滞することもあろうという時に、基地局に住み着き我の魂の入ったアプリの成果物を……!」
ノブナガの周りに怒りの炎が燃え上がる。超超超レア美少女を奪った罪は、重い。
「
炎の刀をザコ団に振り下ろし、あっという間にザコ団は断末魔とともに消滅した。
「他の基地局にも潜んでおるかもしれぬ……だが一体どこまでやれば良いのか」とイエヤスがため息をつく。
「まずは東京周辺を出来る限りあたるのだ」
「「承知!」」
※※※
時刻は20時。シンゲンが復旧ロジックを再構築し未来データの抽出作業ができるようにした。足立以外の従業員は既に帰宅している。
「通信障害は仕掛けを発動させるためのトリガーだった。この時間を操る感じは……タイム姉妹か」
シンゲンが呟くが何故かこの仕掛けには感心してしまう。ふとタイム姉妹の妹、タイムバルカーの姿が頭をよぎる。彼女は自身が想いを寄せる時田なのだ。
「ありがとうございます……! これで障害が起こっても復旧できそうです。実は毎日終電ギリギリまで作業していたものですから」
「それは大変だ。残業時間が増えているであろう」とケンシン。
「はい……ですがケンシンさんのおかげで従業員達も回復しました」
その時、ヒデヨシが窓からシュタッとオフィスに戻って来た。
「あちこちの基地局にあのザコ団がいた。少しずつになるが退治していくしかない」
「そうか。ザコ団の仕業だったか。こちらは完了だ。復旧ロジックも組んでおいた」とシンゲン。
「そうか……(俺の美少女復活ー♪)」
「ヒデヨシ、顔に出ておるぞ」とケンシン。
「え? ハハ……さて。足立社長。そなたのゲームアプリ、これからも己の息抜きに楽しむ者が増えるであろう! 健闘を祈っておる!」
「本当にありがとうございます! あの……ヒデヨシさんて……」
「では! 我々も参ろうか!」
3人は窓からシュタッと飛び立つ。風に乗ってマントを翻し夜空に消えていく。
「……豊臣さんみたいな人だったな」
足立がクスッと笑う。
※※※
「あら、ザコ団が3体やられてる! アイツらめ!」
「お姉様、本当?」
「まぁいいわ、残りはまだまだいる」
「実はお姉様……わたしの未来データの仕掛けが解かれたみたいです」
「はっ?!」
その未来データをシンゲンが復旧させているところも見ていた。
「スーツ侍・シンゲン……よくもわたしの仕掛けを……でも……あの侍ならやってくれると思った」
そのシンゲンは彼女が想いを寄せる武田なのだ。何故だろうか。タイムバルカーは悔しさもあるがシンゲンには敵わないような気がしているのだ。
「バルカー?! 何言ってんのよ! スーツ侍は敵! 次のベンチャー企業、いくわよ。見てなさい……侍どもめ」
姉に言われてモニターを見つめ、次の作戦を計画する。
※※※
天下トーイツ・カンパニー会議室にて。
「基地局も多いですが……ある規則に基づいてザコ団がばら撒かれているようですね」と黒田がタブレットで分析をしている。
「それなら一度そこを集中的に確認するとしよう。お前の家紋レンズを発動し続けるのも大変だからな」と織田が徳川に言う。
「はい、明日からその場所に向かいます。ザコ団であれば一人で十分。日中の業務の合間に5人で向かえば数日で終わるだろう」
そこに豊臣、武田、上杉も入って来た。各自本日の報告と明日からの任務を確認し、その後は……
「よっしゃ! 俺の美少女ちゃん復活ー♪ これで明日から安心だー♪」と豊臣が早速遊んでいる。
「ほほう、さすが武田だ。これでダウンしてもデータ復旧が早まるのだな」と織田も感心している。
「社長の超超超レア美少女もご無事かと」
「ふむ……おっとこちらも復旧しておるな」
こちらも……? 4人が織田のスマホをそおっと覗き込む。そこに映っていたのは。
BLゲームの超超超レア美少年……
「社長! まさかっBLの方まで手をつけていたとは! 是非! やり方をご教示いただきたい!」と上杉が前のめりになっている。
「ふん……俺の手にかかればどのような物だって手に入るのだ」
「社長ぉー!」
ワイワイと騒ぐ4人を静観する徳川。
「やれやれ……社長は次元が違うな」
推しを守る。それは、誰かの努力の証を守るということ。スーツ侍は次なる出陣へ……