「はい、皆さん! まとめるとこうなります」
夕方の会議室で黒田がスライドを映して説明した。
【ブラック企業団幹部、4名】
①ミスター・KPI (紫マント)
→管理職を利用して企業をブラック化
→KPIグラフ達成理論が、社長の怒号に近い
②ミスター・ハイプレッシャー(橙マント)
→一番大柄、圧力で企業を潰しにかかる
→短気でごり押す。炎の攻撃が社長と被る
③ミス・タイムクラッシャー(青マント)
→残業を強いることで企業をブラック化
→美人だが杖を持つと豹変する、社長のように
④ミスター・コンフリクト(緑マント)
→小柄で人事評価や両立面から企業を潰そうとする
→攻撃力がメンタル破壊、ただし社長を除く
【その他】
⑤ミス・タイムバルカー(赤マント)
→③のタイムクラッシャーと2人でひとつ(双子)
→③と一緒に登場すると攻撃力3〜5倍
⑥ブラック・ザコ団
→幹部たちの下で働く黒い煙のような妖怪(?)
→一体一体の力は弱いものの、神出鬼没
「武田部長、小型カメラの修理もできました。この前の改革の様子は撮影できておりませんでしたが、イエヤスのカメラに映っていた通りですね」
「ああ、すまないな。大事な時に壊れてしまって」
前回、武田扮するスーツ侍・シンゲンはミス・タイムバルカーと接触した。彼女が時田だということ、そして彼女に自分の正体を気づかれていたこと。
本来そのことは皆に共有すべきである。だが彼にはまだそこまでの覚悟ができなかった。よって小型カメラを自ら破壊するに至った。
正体がバレていることを隠したいというよりも、彼女を守りたかった。きっと彼女は他の幹部たちとは違う何かを抱えている。そこから解放させてあげたい。
敵にここまでの感情が湧く自分もどうかしている。これからどのように戦っていけば良いのだろうか。
「ねぇ黒田。いくら社長が好きだからと言って幹部の説明に社長ばっかり書くなんて」と豊臣。
「いやこれは……分析の結果です!」と黒田。
「豊臣、お前も俺ぐらいに活躍するのだ」と社長の織田にも言われる。
「だってぇー社長強いんだもん! 俺だって刀ほしいんだけど! 黒田ぁー! 刀作って♪」と豊臣が黒田にすり寄っていく。
「私も義刀を所持するが、やはり炎の刀の方が見映えが良いのだろうか」と上杉。
「やれやれ。今はブラック企業団の話をしているというのに。なぁ武田」
徳川が武田に言うが、武田は投影されたスライドの一点を見つめたままぼんやりとしている。
やはり武田に何かあったのだろうか。技術面においてこだわりを見せる武田が簡単に小型カメラを故障させるだろうか。
夏休み明けから武田の様子が気がかりであった徳川。ビーチで会った彼女との恋愛だけではないような気がしてくる。
「では、今日は皆さまへ日頃の感謝をこめて社長よりデリバリーが用意されております」
黒田がそう言い腕時計を見ている。
「デリバリー? 社長! 今流行りのデリバリーを?」と豊臣が騒いでいる。
「フフ……俺が見つけたのはこれだ」と織田がスマホを見せる。
『私たちはどのような環境下にあっても 美味しい をお届けしたい。幹事の皆様に ありがとう とお伝えしたい。そこから生まれた我が社、リスペクトレモン。リモート飲み会や社内でのコミュニケーションに是非。定番の和食はもちろん。イタリアン、フレンチ等の洋食から中華、さらにはビーガンの方まで。その道のプロの味を是非』
「なるほど。対面の飲み会とオンライン飲み会のハイブリッド型となっている企業もあるからな」と徳川が頷く。
「リスペクトレモン社か。なかなか興味深い。ビーガンを用意しているとは配慮が高いな」と上杉も納得の様子である。
「それで社長! 何を注文してくださったのですか?」と豊臣が
「まずは一番人気のイタリアンを注文してみた。飲み物もビールや酎ハイなどの詰め合わせだ」
「うわぁー楽しみだっ♪」
皆がワイワイと騒いでいるが、黒田が腕時計を見ながら首を傾げている。
「おい黒田、どうかしたか」と武田が言う。
「……おかしいですね。30分以上経つのにまだ届いていません」
「「「「「え?」」」」」
リスペクトレモン社は数年前に設立されたベンチャー企業。リモートワークが広まるのに合わせて設立された。プロの料理人と提携し、飲み会の前日もしくは当日に配達してくれるデリバリーサービス。
対面の飲み会も人気があるため、業績は右肩上がりとまではいかないものの、安定して収益を生み出す企業である。配達範囲は東京のみならず少しずつ他県にも広がりつつある。
そのようなリスペクトレモン社のデリバリーが飲み会開始から30分以上経過しても届かないといったことは、これまでになかった。
「リスペクトレモン社、原因不明の配達遅延相次ぐ――SNSが炎上しておるぞ!」と徳川がいち早く気づく。
「何だと? 原因不明とは……嫌な予感しかせぬ」と上杉。
そしてようやく配達員が到着し黒田が向かうが、その配達員の顔色が悪い。
「申し訳……ございません……」
「何かあったのでしょうか。我々に話を聞かせていただけますか?」と黒田が尋ねる。
「黒い煙がずっと舞っているのです……車の前に立ちはだかるように。まるで届けるなと言われてるみたいで」
「黒い煙だと?」
織田がスマホを確認したところ、何故か「お客様は不在でした。再配達のみ可能」の文字。
「再配達ということは実質本日中に届かないという仕組み――このシステム自体が乗っ取られているようだ」と織田が呟く。
黒田が部屋に入って来て配達員の黒い煙のことを伝える。
「配達員から回収しました。このようなものが」
黒田が手に持つのは小型のボタン電池のような機器であった。
「こちらを例えば……このタブレットに近づけると」
黒田が機器をタブレットに近づけたところ、タブレットの時間表示が30分戻った。離すと元に戻る。
その「時を操る力」を目にした武田が気づく。
「そうか。まずボタン電池のような機器が従業員に装着され、彼らは30分遅らされていることに気づいていなかった。さらにシステムを乗っ取り不在のメッセージを客に送信。仕上げに現場への配達を黒い煙、つまりザコ団が妨害したということか」
「ひどい……リモート飲み会で新たな繋がりだってできるのに……社員同士のコミュニケーションを台無しにするなんて」と豊臣。
「この時間に30分遅れ、つまり従業員には残業を強いていることとなる。それは断固許し難い」と上杉。
「行くぞ! 働く者たちの楽しみを奪う奴はぶった斬る!」と織田が言い、4人が織田についていく。
※※※
――この時を操るのはタイム姉妹で間違いない。そして30分遅れといった残業を強いる仕掛けは……姉さんの方だろう。君はおそらくシステムを乗っ取ったんだよな? 俺がそれを解除してみせるさ。そして君のことだって。
――貴方にこの仕掛けが解けるかしら? 前みたいに簡単なパスワードは使わないわよ? だってお姉様や他の幹部が見ているんですもの。きちんと仕事をしなくてはね。
だけど気をつけて。信じている。