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第26話 迷いは時を超えて

 リスペクトレモン社は“今日”時点ではシステムが復旧した。30分遅れの原因となった機器も全て破壊できた。

 しかしあのタブレットをタイム姉妹が所持している以上、明日以降もこの状況が起こりうる可能性が高く、従業員一同、不安な表情である。


「あとは配達の邪魔をしたブラックザコ団をどうにかしないと……で、外に行けばいいのか?」

 ヒデヨシが思い立つ。

「今から巡回。そして明日以降、リスペクトレモン社の配達員を追跡するのだ。ヒデヨシ、ケンシン。お前たちに頼む」とノブナガが指示する。

「「承知!!」」


「俺の金の扇でザコ団は一撃だ!」とやる気を見せるヒデヨシ。

「毘沙門天の名にかけて、私が斬る」と構えた姿勢のケンシン。


 そして問題は――シンゲンだ。

「通信機が繋がらない。何かあったのか」とイエヤス。

「イエヤス、お前のその力でまず社内を見てきてくれ。まさか外には行っていないかと思うが」とノブナガも懸念している。


「はっ! 家紋レンズと経理侍としての分析力で必ずシンゲンを」と瞳をカッと光らせるイエヤス。

 イエヤスも気になっていた。今のシンゲンはどこか冷静さを欠いているような気がする。おそらくあのタブレットの仕掛けを解除するキーマンになるのは……シンゲンだ。その彼が行方不明となれば、リスペクトレモン社の危機である。


 それだけではない。スーツ侍のメンバーの危機が迫っているのだとしたら。侍たるものいくさで打ち勝つしか方法はない。



 ※※※



 物置倉庫にて。

 シンゲンはタイム姉妹の姉、タイムクラッシャーの罠にまんまとはまり、「タイムバリケード」で身体を覆われ横たわっている。暗く冷たい倉庫。さらにこのバリケードのせいか、どんどん空間が歪んでいくような気がする。徐々に頭痛もしていき息苦しさが彼を追い込む。


 自分はスーツ侍の他のメンバーに迷惑をかけた。だがそれ以上に、あの時田を……自身が想いを寄せるタイムバルカーだと思い込んで正当な判断ができなかったことが悔やまれる。


「俺は結局……今だってこれまでだって……女性に真剣に向き合ってこなかった」

 彼女複数人が当たり前だった彼にとって、1人の女性だけに夢中になれたことは……この上ない喜びだったのに。



 その時だった。

 僅かだが外に同じ“侍”の気配を感じた。

「シンゲン! いるか!……何だこれは。外から開けられない仕組みになっておる」イエヤスの声だ。

「俺に任せろ。ここにあの姉妹の邪悪な時間の歪みを感じる……今ここでぶった斬る!」ノブナガである。


「第六天魔・煉獄れんごく!」

 ノブナガの炎が扉の前で燃え上がり、じわじわとタイムキーを破ってゆく。


「ノブナガ、嫌な予感がする。この仕掛けはまさか……!」



 ボォォォォーーーン



ウォーターフィールド防護プロテクション!」

 イエヤスが扇から大きな水のバリアを放出し、ノブナガと自身を爆破から防御した。頑丈だった扉は木端微塵となりあちこちに破片が散らばっている。


「……ノブナガ、大丈夫か?」

「……ああ、これはやられたな。時限爆弾か」

「炎で爆発する仕組み……読まれていたか。ここにノブナガが来ると。いつも『ぶった斬る!』とか言うから」

「おい、何か言ったか」

「……独り言だ。それよりここにシンゲンがいるはず」


 2人は中に入るが――


「……いない? どういうことだ!?」

 中を探しても人の気配がない。イエヤスの家紋レンズで反応があったにも関わらず。


「……家紋レンズ発動!」

 再びイエヤスが分析に倉庫をかけるが、シンゲンの反応は消えていた。

「シンゲンが消えただと……? 何故そこまでして奴らはシンゲンを捕らえようとするのだ」と、ノブナガも考えを巡らす。

 技術侍がいれば、リスペクトレモン社のデリバリーシステムを乗っ取ることができない。よって隠そうと考えたのか。


「それにしては煩雑だ。直接シンゲンを攻撃しに来ずここまで……妙に凝ったやり方をするとは」

「だな、ノブナガ。シンゲンのこれまでの様子も何かが引っ掛かる。彼がこんなに簡単に捕まるはずがない」



 ※※※



 その頃、リスペクトレモン社の屋上にはスーツに赤いマントをなびかせた女性、そして紅のスーツ侍。この“赤い2人”が夜風に吹かれて佇んでいた。


「……ありがとな。また……君が助けてくれた」

「……こんなつもりじゃなかったのに」


 都会の空の星は見えにくい。夏に別荘を出て一緒に見た星空を思い出す赤いマントの女性……タイムバルカーであった。


 ――話は少し前に戻る。


 今回のリスペクトレモン社のシステム構築はバルカー、30分遅れの機器の仕掛けは姉のクラッシャーが担当したが現場に入ったのは姉だけであった。


「あとは幹部のあたしに任せて。目が疲れているでしょう? あんたは休暇取っていいわよ」


 その言葉を聞いたバルカーは姉に感謝し、少しの間休暇を取る。ただしそれがブラック企業団にとっては“おかしいこと”に気づく。これまであの組織でそういったことなんて一度もなかった。


「お姉様のことを信じたいけど、どうして胸騒ぎがするの? それに……そうよ! スーツ侍・シンゲンを……彼が来るなら……わたしが相手にならないと……今度こそ……」


 今度こそどうするのか、はバルカーにもわからなかったがとにかく身体が勝手に動いた。ワープを使いリスペクトレモン社に侵入する姉をこっそりと眺めていた。


「お姉様、さすがね。確かに機器さえつけたらあとはタブレットの操作だけ。現場に2人も必要ないわ」


 そう思っていたバルカーだったがある場所で時間の歪みが激しいことに気づく。物置倉庫の近くである。


「ここはサーバールームでもない。どうしてお姉様はここで術を」


 タイム姉妹は2人でひとつ。姉はここで何をしていたのか。妹であれば杖の力で分かるはず。

 バルカーが杖を扉にかざす。


「ここでお姉様が何をしたか……教えて」


 杖の反応を確認し、予感する。誰かを捕らえたのか。神経を過去に集中させ、“倉庫内で何が起こったのか”を探ろうとした時にある声が聞こえてきた。



『俺は……何を見ていたんだ……』

『俺は結局……今だってこれまでだって……女性に真剣に向き合ってこなかった』



 バルカーは杖を降ろす。あの彼の声が聞こえた。

 これまで、杖は姉の言葉しか拾ってこなかった。

 初めて……姉以外の声がしたのだ。


「どうして……どうして捕まってるのよ! しかも何だかその……変なこと喋っちゃってるじゃないの。もう、仕方ないわね」


 ひょっとしたらすでに倒されたかもしれない。だけどここに彼が、シンゲンがまだいるのなら――


「タイムキー解除」

 しかし動かない。すると誰かが走ってくる音が聞こえた。ノブナガとイエヤスだ。

 バルカーが隠れて様子を見るとノブナガがいつも通り「ぶった斬る!」と言いながら炎の攻撃をしようとしている。


 まずい。あれは時限装置。姉がどのぐらいの威力にしたのか分からないが、彼らが来たということはここにシンゲンがいることは確実。

 もう迷いはなかった。さらに集中させてワープを試みる。


「……お願い」

 思いが通じたのかバルカーは倉庫内へのワープに成功。姉の時を歪める空間をどうにか自分の力で突破した。


 シンゲンは姉の術でぐったりと倒れており、彼女は彼を抱えて唱え続けた。

「タイム・アンロック……! アンロック……!」


 外でノブナガの炎の攻撃が聞こえる。火がついてしまえばここは爆発するだろう。しかも扉だけの爆発で済むかどうかが分からない。それまでに早く……!


「うぅっ……君は……バルカー……?」

「時間がない、わたしに捕まって!」

 そう言って最後の力を振り絞って屋上へのワープに成功。彼女は息を切らしてシンゲンを見つめていた。


 そして彼に言われたのだ。

「……ありがとな。また……君が助けてくれた」

「……こんなつもりじゃなかったのに。こんなつもりじゃ……! わたしはっ……何を……」


 屋上から見える夜空。思い出すのはどうしてあの時に彼と一緒に過ごしたことなのか。

 そして力を使い果たしたバルカーはもはや何も考えられない状態であった。


 そんな彼女にシンゲンが声をかける。

「君は俺を2回助けてくれた。その気持ちは本物だと信じている。だから……」

「……」


「このまま逃げよう、バルカー。君がいるべき場所はブラック企業団あの組織ではない」

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