それを嘲笑うかのように別荘に届いた、妹シャリィからの贈り物。お祖母様は届いたものを見て、ため息をひとつ。アオハルとシュシュは目を細め、私は心の中で「またか」とあきれた。
妹から届いたのは――お祖母様が「毒にまみれたドレス」と呼ぶものだった。斬新を通り越して、奇抜なデザイン。
フリルとリボンが幾重にも重なり、カラフルすぎる配色は目に痛いほどだ。今のカサンドラにはサイズも合わない上に、見るからに「解毒」が必要だった。
「はぁ。宝飾品も、ドレスの素材も品は良いのにねぇ……」
お祖母様は困り顔で呟く。
「はい、王都でも名高いデザイナーの作品です。宝飾品も質の良い石が使われておりますが……」
シュシュが慎重にドレスを持ち上げると、ピンク、青、黄色のレースが揺れ、室内の空気が微かに変わった。
(これを着こなせる、令嬢がいるとは思えないわ……リボンとフリルを減らせば、まだ何とかなるかしら?)
そう思いつつも、まずは解毒が先だ。
お祖母様が杖を軽く振ると、ドレスから黒ずんだもやが消え、空気が澄んだように感じられた。
「カサンドラ、シュシュの言う通り、品はいいが……あの子は懲りないねぇ」
お祖母様の声には、苦笑と共に深い疲れが滲んでいた。
⭐︎
妹シャリィからのドレスは、舞踏会に間に合うように、シュシュが直してくれることになった。
カサンドラはその後、何事もなかったかのように日常を過ごしていた。庭に来るスルールの低木にキリリと話しかけたり、魔法の訓練に励んだり、薬草や毒草の勉強を続けたりして。
「早く冒険に出たいわ」
「スライムに会いたいです」
「そうだな」
笑い声が響く日々。皆も、カサンドラがすっかり落ち着いたと安心しているようだった。
けれど――明け方、カサンドラの部屋から悲鳴が上がった。
「いやぁ――――! 私は絶対に、そうならないわ!!!」
隣のシュシュ、さらに隣のアオ君、離れのお祖母様までが飛び起き、寝室の扉の前に集まった。扉を叩くと、少し間を置いて、落ち着いたカサンドラの声が返ってきた。
「お祖母様、シュシュ、アオ君……ごめんなさい。私、少し、寝ぼけてしまったみたい。……ふ、ふわっ、私はまだ寝ますわ。……皆さんもどうぞ、部屋にお戻りください……」
そうカサンドラが言ったが、アオ君の耳がピクリと動く。中から何か聞こえたのだろう。彼は表情を険しくし、ドアノブを掴んだ。
「クソッ、全く気付かなかった……俺はバカだ!」
そう吐き捨てると、扉を力強く開けた。
中では、薄暗い天蓋付きのベッドの上、涙を流しながら震えるカサンドラが、声も出せずに自分の身体を抱きしめていた。