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——異世界スゴロクへようこそ。
これは、ゴールを目指しながら様々な世界を旅するゲームです。
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「異世界スゴロク……?」
「なによこれ。旅とかゲームとかふざけてんじゃない?」
「えっと、葵さん……ちょっと落ち着きましょう」
——プレイヤーは、マスに書かれた効果とアイテムを持って、異世界に転移します。どこに行くかはルーレット次第!
「あの土魔法とか2000Gってのがそうなのかな?」
「多分……」
——転移先で与えられるミッションをクリアすれば帰還できます。
——手に入れた魔法や武器、アイテムは持ち帰ることができます。
「転移と帰還って、つまり、うぇい馬鹿は消えたんじゃなくて……」
「今、異世界で冒険しているのか」
——カチリッ
その時、なにかスイッチが入ったような音がしてルーレットが回りだした。小さな
それはほんの数分前まで、もう会えないと思っていたツンツン頭の彼だった。
「うぇ〜〜い、ただいまっス!!」
「
「薬師寺くん、無事だったんだね!」
「もちろんっスよ!」
——要が生きていた。生きて帰ってきた。
僕は彼の顔を見た瞬間、思わず抱きしめていた。ちょっと恥ずかしかったけど、嫌な気分じゃない。知り合ったばかりだし決して仲がいい訳じゃないが、目の前で消えた友人が元気に戻ってきた事が本当に嬉しかった。
「え、
「うん、ちょっと……折ったっぽい」
「折ったって……マジっスか~。顔色もヤバいっスよ」
要はなにかを思いだしたように、あわててショルダーバックの中に手を入れた。
「え~っと、青いヤツは……と」
「薬師寺くん?」
「ちょっと待っ……あ、そのストール外しといてっス」
要は、青色の液体が入った小瓶を取りだすと、
「これ、ヒーリングポーションっスよ。本当は飲んだ方が効果高いんスけど……」
当たり前の話だけど、突然正体不明の物をだされても、なかなか口にする事はできない。生きている以上、体の中に直接入れるものは、意識しないでも選別して安全なものを選ぶ。
だから、飲ませずに直接かけたのはそれを理解しての事、彼なりに気を使っているのだな。と、思っていたんだけど……
「激マズなんスよ、このポーション。ニオイもキツイし。なれないと絶対に吐くっス」
「あ、それが理由だったんだ……」
「他になにかあるっスか?」
「いや、ない……と思う」
ヒーリングポーションがじんわりと颯太の腕に広がる。少し粘り気のある液体が、腕全体を包み込んでギプスのような状態になっていった。
少し痛みが和らいだのだろうか、颯太の額からシワが消えていた。……直後、腕周りから臭ってくる異臭に顔をしかめていたけど。
「もう大丈夫っス。マジですぐに治るっスよ!」
颯太の傷の状態をまじまじと見つめる要に、
「よかった……急に消えちゃうんだもん」
「え、鈴姫ちん心配してくれてたんスか⁉」
と、要が鈴姫さんに笑顔を向けたその瞬間、
「あのさ、あんたがルーレット回したせいで、みんなこの部屋に閉じ込められたんだけど?」
「……?」
「なんか言う事ないの?」
目をパチクリさせながら、部屋の中を見渡す要。すぐに出入口がなくなっている事に気づき、『なにがあったんスか?』と彼女に聞いた。もちろんそのひと言に悪気はない。
それでも葵さんは相当な怒りを感じたのだろう。要をにらみつけて、今にもつかみかかりそうな雰囲気だった。
「葵さん、ちょっと落ち着いて」
「——なによ?」
僕は普段、他人の喧嘩に首を突っ込む事はない。だけど今回は間に入るしかなかった。葵さんは怒り心頭で失念しているみたいだけど、扉がなくなったのは要が消えた後。彼が知らなくて当然の話だ。
「要には僕から説明するので。……鎮めて下さい」
葵さんが要を嫌っているのはわかっていた。
その時は、僕も颯太も『そこまで怒る事なのかな?』とは思ったけど、彼女には彼女なりの譲れないものがあるのだと思い、その件には触れないようにしていた。
♢
「……で、その
僕は、この二時間の間に起きた事をできるだけ丁寧に伝えた。
「そうだったんスか……みんな、迷惑かけて申し訳ないっス」
「見た目や感触は木の板なんだけど、叩くとコンクリートや鉄板でも入っているような感じなんだよね」
要はコンコンッと壁を叩くと、『なるほど』とつぶやいて数歩下がった。
「ぶち壊せるか、ちょっと試してみるっスよ!」
要は扉があった場所の正面に立つと、呪文を唱え始めた。普通に日本語で『闇の炎よ〜』とか『我が剣となりて〜』とか厨二病漫画のような言葉を発している。
呪文が終わる頃に、要の手から小石が現れた。それはどんどん大きくなっていき、直径にして約二メートルほどの大岩になった。
「初級の魔法だけど、けっこう威力あるんス」
「これで初級なんだ……」
これがスゴロクのマスに書いてあった【土魔法】なのか。間近で見る魔法は、思っていたよりもずっと迫力があって不思議で……とにかく凄かった。
「行くっスよ! クラッド・ストライク!!」
要の手から放たれた魔法が、壁に向かって飛んでいく。これだけ質量のある大岩だ、例え壁の中がコンクリートだろうと鉄板だろうとひとたまりもないだろう。
——しかし
要が放った魔法は、壁に激突する瞬間、
「やっぱりか~。なんとなく予想はしていたけど」
「え、なんスか……」
「ゴールするまではでられないようにする、修正の力みたいなのが働いたんだと思う」
……きっとこれが『人知を超えた未知の意思』なのだろう。