「えっと、それでミマセミマセ殿。どのような赴きで?」
「手伝わせて下さい。
それはもちろん、アン王女の救出作戦の事だ。ここまでの経緯を考えると、このミッションを飛ばしてクラーケン討伐にはいけないはず。物語でも、救出してからグラナド国の船で移動するのだから、
彼らからしてみたら、突然こんな事を言われても『はい、よろしく』とはならない。当然のように身構えて僕を見てきた。『バルバトスのスパイか?』と。
「ちょっと待って下さいって……」
二人は僕から視線を外さずに、剣の柄に手をかけた。
「僕は丸腰ですよ? それに
「……」
「まあ、それもそうか……」
これにはさすがにヒヤッとした。現役の騎士相手に、今の僕が相手になるはずがないのだから。
「もお~、兄ちゃん、子供あつかいしないでよ!」
腕を組みながらプンスカと怒りを表現するジャック。とっさだったとは言え『子供』は失言だった。僕もこのくらいの頃は大人として見られたくて、背伸びばかりしていた記憶がある。
僕には、そんな
「それが子供あつかいなんだよ!」
「ああ、ごめんごめん」
僕は苦笑しつつ、この国に来た理由、つまり荒海のクラーケンを倒す目的がある事を三人に話した。ただし、物語を知っている世界から転移してきたとは言わずに『未来を予知した』って設定で。
「大丈夫か? ミマセ殿」
「その……休息が必要なら、我らの部屋を貸すぞ?」
カルロスとミゲルがあわれむような目で僕を見つめてくる。ジャックも少し引いているみたいだが、それでも僕は言葉を止めなかった。
——なぜならば、彼等にとって
「確実に、アン王女を助けだす方法がありますよ」
このひと言を皮切りに、この場では彼らしか知らないはずの事を立て続けに話した。大臣の陰謀やアン王女が派遣された経緯、カルロスとミゲルの二人が王族派で、国王から勅命として姫の護衛を任された事などだ。
ここまで洗いざらい暴露されては、彼らも信じるしかなかったのだろう。『作戦内容を詳しく聞かせてくれないか?』と握手を求めてきた。
ゲーム的にはアウトなチート行為だけど、そんな事は言っていられない。
「あと、僕の名前は
と、僕は二人の手を握り返しながら、改めて自己紹介をしたのだが……
「それはすまぬ。ミマセミナソ殿」
「ミナセ・ミナトです!」
「ミナ・マセマセ?」
東洋の発音はそんなに難しいものなのだろうか。ひょっとすると、現実の南米でもこんな感じなのかな?
「ああ、もう。……ミナミナでいいです」
「ミナ・ミナ殿」
「おお、わかりやすい! ミナミナ殿、よろしく頼みますぞ」
……う~ん、なんだろう、この敗北感は。
♢
カルロスとミゲルは、逃げ隠れるために貧民のような恰好をしていた。しかし、なんと言うかもう……ツッコミどころが多すぎる。確かにこのエリアは訳ありの怪しい人が多い。様々な理由から逃げ隠れたり、今からなにかをやらかそうって人ばかりだ。
——だけど彼らは、群を抜いて
「そのままだと、城に近づいただけで逮捕されますよ」
「ん? どこからどう見てもこの街の住人だが……なにゆえ不都合なのだろうか」
服の下から激しく主張している、”ピカピカの鎧“に疑問を抱かない時点でズレていると教えるべきなのだろうか。
「住人っぽいのは服装だけ。無駄に
僕が、この辺り一帯で
「そ、そうなのか?」
「うん、おじちゃんたちメチャクチャ怪しいよ」
「うむむ……」
ジャックにまでダメだしされて返す言葉のない二人は、髪の毛や髭をさわりながらお互いに顔を見合わせていた。
「まあ、そんな訳ですので。お二人には衛兵に捕まってもらいます」
「……は?」
「……へ?」
なんとも間の抜けた声が帰って来た。……まあ、当たり前か。物語の流れとは言っても、彼らがそれを知るはずがないのだから。
僕は、半分目が死んでいる二人に作戦内容を説明しはじめた。
♢
「なるほど」
「それで、我々はどうすればよいのかな?」
「お二人とジャックとで、やってもらいたい事があります。作戦成功のカギは”それ“にかかっていますので」
僕はこの作戦で最も重要なミッションを伝えた。グラナド騎士の持つ清廉さと財力、魔法。そしてジャックの人脈の広さ。これはこの三人の組み合わせでしか成し得ない一手だ。
「早急に動いて下さい。時間勝負です」
「ミナミナ殿はどうするので?」
三人は興味津々と聞いてきた。当然だろう、作戦を指示しておきながら、僕だけが別行動をとるのだから。
「僕は……このままバルバトスの居城に乗り込みます」