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第7話・【バイキング・オブ・カリビアン その2】

「えっと、それでミマセミマセ殿。どのような赴きで?」 

「手伝わせて下さい。を」


 それはもちろん、アン王女の救出作戦の事だ。ここまでの経緯を考えると、このミッションを飛ばしてクラーケン討伐にはいけないはず。物語でも、救出してからグラナド国の船で移動するのだから、


 彼らからしてみたら、突然こんな事を言われても『はい、よろしく』とはならない。当然のように身構えて僕を見てきた。『バルバトスのスパイか?』と。


「ちょっと待って下さいって……」


 二人は僕から視線を外さずに、剣の柄に手をかけた。


「僕は丸腰ですよ? それに子供ジャックしかいないし。どうやってお二人を捕まえるって言うのですか」

「……」

「まあ、それもそうか……」 


 これにはさすがにヒヤッとした。現役の騎士相手に、今の僕が相手になるはずがないのだから。


「もお~、兄ちゃん、子供あつかいしないでよ!」


 腕を組みながらプンスカと怒りを表現するジャック。とっさだったとは言え『子供』は失言だった。僕もこのくらいの頃は大人として見られたくて、背伸びばかりしていた記憶がある。

 僕には、そんなジャックの仕草が非常に可愛く見えてしまい、気がつけば頭をくしゃくしゃとなでていた。


「それが子供あつかいなんだよ!」

「ああ、ごめんごめん」


 僕は苦笑しつつ、この国に来た理由、つまり荒海のクラーケンを倒す目的がある事を三人に話した。ただし、物語を知っている世界から転移してきたとは言わずに『未来を予知した』って設定で。


「大丈夫か? ミマセ殿」

「その……休息が必要なら、我らの部屋を貸すぞ?」


 カルロスとミゲルがあわれむような目で僕を見つめてくる。ジャックも少し引いているみたいだが、それでも僕は言葉を止めなかった。


 ——なぜならば、彼等にとってを知っているからだ。


「確実に、アン王女を助けだす方法がありますよ」


 このひと言を皮切りに、この場では彼らしか知らないはずの事を立て続けに話した。大臣の陰謀やアン王女が派遣された経緯、カルロスとミゲルの二人が王族派で、国王から勅命として姫の護衛を任された事などだ。


 ここまで洗いざらい暴露されては、彼らも信じるしかなかったのだろう。『作戦内容を詳しく聞かせてくれないか?』と握手を求めてきた。


 ゲーム的にはアウトなチート行為だけど、そんな事は言っていられない。あおいさんたち、みんなの命がかかっているのだから、使える知識ぶきは全て使い切るつもりでやらなければ。


「あと、僕の名前は水瀬みなせ水音みなとです」


 と、僕は二人の手を握り返しながら、改めて自己紹介をしたのだが……


「それはすまぬ。ミマセミナソ殿」

「ミナセ・ミナトです!」

「ミナ・マセマセ?」


 東洋の発音はそんなに難しいものなのだろうか。ひょっとすると、現実の南米でもこんな感じなのかな?


「ああ、もう。……ミナミナでいいです」

「ミナ・ミナ殿」

「おお、わかりやすい! ミナミナ殿、よろしく頼みますぞ」


 ……う~ん、なんだろう、この敗北感は。





 カルロスとミゲルは、逃げ隠れるために貧民のような恰好をしていた。しかし、なんと言うかもう……ツッコミどころが多すぎる。確かにこのエリアは訳ありの怪しい人が多い。様々な理由から逃げ隠れたり、今からなにかをやらかそうって人ばかりだ。


 ——だけど彼らは、群を抜いて


「そのままだと、城に近づいただけで逮捕されますよ」

「ん? どこからどう見てもこの街の住人だが……なにゆえ不都合なのだろうか」


 服の下から激しく主張している、”ピカピカの鎧“に疑問を抱かない時点でズレていると教えるべきなのだろうか。


「住人っぽいのは服装だけ。無駄にかもしだしている騎士然とした佇まいが最悪です。そもそも、切り揃えられた頭髪や髭が清潔感ありすぎるし、それにその形式張った話し方が不自然ですね」


 僕が、この辺り一帯でと評した理由がこれだった。


「そ、そうなのか?」

「うん、おじちゃんたちメチャクチャ怪しいよ」

「うむむ……」


 ジャックにまでダメだしされて返す言葉のない二人は、髪の毛や髭をさわりながらお互いに顔を見合わせていた。


「まあ、そんな訳ですので。お二人には衛兵に捕まってもらいます」

「……は?」

「……へ?」


 なんとも間の抜けた声が帰って来た。……まあ、当たり前か。物語の流れとは言っても、彼らがそれを知るはずがないのだから。


 僕は、半分目が死んでいる二人に作戦内容を説明しはじめた。





「なるほど」

「それで、我々はどうすればよいのかな?」

「お二人とジャックとで、やってもらいたい事があります。作戦成功のカギは”それ“にかかっていますので」


 僕はこの作戦で最も重要なミッションを伝えた。グラナド騎士の持つ清廉さと財力、魔法。そしてジャックの人脈の広さ。これはこの三人の組み合わせでしか成し得ない一手だ。


「早急に動いて下さい。時間勝負です」

「ミナミナ殿はどうするので?」


 三人は興味津々と聞いてきた。当然だろう、作戦を指示しておきながら、僕だけが別行動をとるのだから。



「僕は……このままバルバトスの居城に乗り込みます」




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