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第12話・【バイキング・オブ・カリビアン その7】

 なぜ僕の名前を知っているのか、どこから情報が漏れたのか。そんな事を考えて頭の中がグルグルし始めた時、細目の男のうしろから、ヒョコッとその答えが


「——兄ちゃん、無事?」


「え、ジャック!? なんでここに」


 僕がバルバトスの居城に潜り込んでからの三日間、ジャックと二人の騎士にやってもらったのは”貧民街の扇動“だった。


 圧政と差別に苦しんでいる貧民街の住人は、多額の報酬と生活の安定を条件に味方についた。もちろん口約束にしか過ぎないが、そこで信頼度を爆上げするのが、グラナド騎士の存在。


 品行方正な王国騎士が嘘をつくはずがない。貧民たちのそんな先入観を利用させてもらった。


 さらには、この国の海賊からも離反・協力する者が現れた。離反の情報は秘密裏に伝染し、かなりの海賊たちがこちら側についたらしい。今ここにいる糸目の男もその一人だそうだ。


「カシラさんに連れてきてもらったんだ」

「このボンは、ほんま根性座っとるで。ワイらをあごで使いおる」

「えへへ……」


 バルバトスは、税金の名目で略奪したモノの半分を国に納めさせてきた。そもそもが略奪自体違法行為なので支持はしないが、それでも労力の半分をピンハネされてきたのだから、不満が溜まって当然なのだろう。


 ……バルバトスはやりすぎた。


 荒くればかりの国でそんな事を続けたら、反乱が起きるのは必然。つまり、僕らはたまたま、爆発するきっかけを作ったにすぎなかったんだ。


 処刑の途中で、タイミングよく城門を爆破してくれたのはジャックたち貧民街の協力者、そして時を同じくして港を爆破したのは、彼ら元バルバトスの配下だった。


 続けざまに起きた爆発で、城内の手下がほとんど出払ったのだから、彼らがバルバトス討伐の立役者MVPって事になる。


「ほな、みんなちゃっちゃと仕度しいや。港の連中が待っとるで」


 反旗を翻した海賊たちのおかげもあって、僕らは無事に城から脱出し、バルバトスが自慢していたキャラック船、ブラック・サファイア号に乗り込んだ。


 ちなみに、アン王女たちが乗って来たグラナド国の船は、他の海賊船と一緒に間違って爆破されたそうだ。彼女は最初、相当ご立腹だったが、ブラック・サファイア号のスピードに感動し、すぐに上機嫌になっていた。


「ところでミナミナはん、相当な色男やなぁ」


 糸目のカシラと数人の配下が話しかけてきた。色男……って僕の事?


「昨夜は激しかったようやねぇ」

「その首の歯形はどこの娼館っすか?」

「へ……」

「まて、言うな。俺が当ててやる。その歯形は……桃色兎館ピンク・バニー・ハウスのキャシーだ、そうだろ!」

「いやいや、違うぞ。よく見ろ、八重歯があるじゃないか。これは艶融館セクシー・メルティー・シアターの……」


 と、まあ、みなさんで勝手に盛り上がってますが……『この歯形はアン王女です』なんて口が裂けても言えない。


「そんでな、ミナミナ船長キャプテン。このあとどうすんのや?」

「え? なんで僕が船長なの」

「バルバトスを倒してこの船を奪ったのはアンタやないか。そやからこれは、アンタの船やで、大将ボス!」 


 その理論なら、アン王女かカルロスたちの船って事だけど、これはむしろ、いや、まさしくだ。……このまま僕の船って事にしてしまおう。


「本当に僕が決めていいの?」

「当たり前やって。大将ボスはアンタやさかいな」

「本当に本当だね? 僕がキャプテンでみんな従うんだね?」

「くどいっすよ、ダンナ。みんな地の果てまでついて行くつもりっすから」


「じゃあさ……」


 今こそ、ミッションクリアのチャンス! 僕は拳を振り上げ、みんなを鼓舞しながら初めての命令を下した。


「荒海のクラーケンを倒しにいくぞ!!」


 ……


 ……


 ……


「「「「「「はあぁぁ???」」」」」」


 それまでは友好的に、大人しく話を聞いていた彼らは、とたんにヤサグレた態度に豹変した。


「アホかいな、アンタわ」

「期待してバカみたっす」

「これだからいいとこのボンボンはよぉ」

「常識ってもん考えろや、ドアホ!」


 ……海賊に常識を問われる日が来るとは思わなかった。


「キャ、キャプテン命令なんだから、みんな地の果てまでついて来るんだろ?」

「よう行かへん、あの海域は相当おっかないで」

「そうっすよ。船乗りはまず近づかねぇっす」

「ワイらは海賊や。コンパスが使えれば、陸でも山でも地獄ですらも進んでみせるで。そやけどな、あの海域、バミューダ・トライアングルだけはアカンのや」


 なるほど、荒海って有名なバミューダ・トライアングルの事なのか。船舶や航空機が行方不明になると言われる魔の三角地帯だ。


「それは、コンパスが使えないって事?」

「ああ、そうや。そんでな、迷い込んだ船を喰らうのが、大将ボスのゆう、荒海のクラーケンやで」


 メチャクチャ難易度高いじゃないか。これって、6番目ミッションの”千年紀財宝の発見“よりも大変なんじゃない?


「ねえ、方向がわかれば、バミューダなんとかってとこも進めるの?」


 興味本位からだろうか、アン王女が横から話に入って来た。


「姫さん、ゆうたやろ? コンパスがあれば地獄でも平気やって」

「ならば問題ないわ。我ら魔法王国・グラナドの力を見せてさしあげましょう!!」


 ……え、待って。王女さんまで行く気なのですか?


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