「
糸目のカシラが言う通りだ。常識的に考えて、水棲モンスターに水魔法なんて、炎魔法よりも効果が無いと思うだろう。もちろんそれは間違っていない。
……ただし、水属性の攻撃魔法なら、だ。
「まかせておけって。現代知識を応用した、スペシャル・チートな魔法を見せてやるよ!」
僕が使うのは水操作の魔法。攻撃でも防御でもない、単純な操作魔法だからこそ、使える一手がある。
「ほなら、はよ頼むわ。足止めにも限度があるさかいな」
糸目のカシラは、砲撃と銛撃ちで牽制し、クラーケンを50メートルほどの距離にとどめていた。倒すまではいかなくても、あの巨大な生物の行動を制限をする腕前はかなりのものだと、素人の僕にもわかる。
「兄ちゃん、全員連れて来たよ」
ジャックが集めてくれた貧民街の住人は総勢で十四人。みんな航海経験者ばかりだ。
彼らはまず、腰にロープをつけて手すりやマストの支柱に体を固定し始めた。僕なんかよりもずっと経験豊富で、やるべき事がわかっている人たちだ。
「みんな、協力してくれ。真水を生成するチームと、それをこの場にとどめる操作をするチームの二手に別れてほしい」
「それで倒せるの?」
と、ジャックが心配そうな顔で見てきた。そこにいたみんなも、つられて僕の方を見てくる。
正直、自分自身でも絶対に成功するとは言い切れない。魔法生物なだけに『それは効果ありません』なんて事もありうるのだから。
でも、ここはアン王女を見習おう。嘘でもハッタリでも自信がある顔をするんだ。それがみんなの不安を払拭し、鼓舞する事にもなる。
「ああ、間違いなく。圧勝できるぜ!」
僕は彼らに、できるだけの笑顔とサムズアップで答えた。
「とにかく、大量の水が必要なんだ。どんどん精製して貯めてくれ」
糸目のカシラにクラーケンを抑えてもらっている間に、真水の生成はプール一杯分位になってた。
これだけあればなんとかなりそうだ。ただ、倒し切るにはこの倍は必要だろう。
「
痺れを切らしたクラーケンは、大砲から撃ちだされる砲弾をものともせずに突っ込んで来た。
ものすごい迫力だ。『思っていた以上に大きい』そんな考えが及ばないほどの威圧感と巨体。
……その姿は、武蔵坊弁慶かそれとも悪来典偉か。
クラーケンは、勢いそのままブラック・サファイア号に体当たりをすると、丸太を何本も束ねたような触腕を振り上げた。
「まずい——」
ゴオオ……と空気をぶち抜きながら、馬鹿みたいな質量の腕を振り下ろしてくるクラーケン。まともに喰らったら、いかにブラック・サファイア号と言えど真っ二つになってしまう。
「
うしろの方から聞こえた魔法発動の声。同時に僕の足元を光が走り甲板に魔法陣が広がった。直後、平手でなにかを叩いたような”バチンッ“と言う音をたてて、クラーケンの触腕が僕の頭上で止まった。
「え!? ジャック、いつの間にそんな魔法を……」
振り向くと、ジャックが魔法陣の中心にいた。これは紛れもなく、彼が行使している魔法だ。
金色を帯びた薄い膜のようなものが、ブラック・サファイア号全体をドーム状に包み込み、クラーケンの攻撃から守ってくれている。
「あの魔法を使いこなすなんて、子供にしてはやりますわね」
なるほど、ジャックの魔法適応能力を見越して、アン王女が与えていたのか。この二人、
また、その効力は魔法だけでなく、クラーケンのような魔法生物の侵入をも阻むと、アン王女が説明していた。
「もう、子供扱いはやめてよ、姫さま。三つしか違わないのに~」
なに……今なんて言った? 『三つしか違わない』だって? ……ジャックって十三歳だったよな。それで三つ違いって事は、アン王女って十六歳!?