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第16話・【バイキング・オブ・カリビアン その11】

大将ボス、海の魔物やで? 水魔法なんて相性最悪ちゃうんか?」


 糸目のカシラが言う通りだ。常識的に考えて、水棲モンスターに水魔法なんて、炎魔法よりも効果が無いと思うだろう。もちろんそれは間違っていない。


 ……ただし、水属性の攻撃魔法なら、だ。


「まかせておけって。現代知識を応用した、スペシャル・チートな魔法を見せてやるよ!」


 僕が使うのは水操作の魔法。攻撃でも防御でもない、単純な操作魔法だからこそ、使える一手がある。


「ほなら、はよ頼むわ。足止めにも限度があるさかいな」


 糸目のカシラは、砲撃と銛撃ちで牽制し、クラーケンを50メートルほどの距離にとどめていた。倒すまではいかなくても、あの巨大な生物の行動を制限をする腕前はかなりのものだと、素人の僕にもわかる。


「兄ちゃん、全員連れて来たよ」


 ジャックが集めてくれた貧民街の住人は総勢で十四人。みんな航海経験者ばかりだ。

 彼らはまず、腰にロープをつけて手すりやマストの支柱に体を固定し始めた。僕なんかよりもずっと経験豊富で、やるべき事がわかっている人たちだ。


「みんな、協力してくれ。真水を生成するチームと、それをこの場にとどめる操作をするチームの二手に別れてほしい」

「それで倒せるの?」


 と、ジャックが心配そうな顔で見てきた。そこにいたみんなも、つられて僕の方を見てくる。

 正直、自分自身でも絶対に成功するとは言い切れない。魔法生物なだけに『それは効果ありません』なんて事もありうるのだから。


 でも、ここはアン王女を見習おう。嘘でもハッタリでも自信がある顔をするんだ。それがみんなの不安を払拭し、鼓舞する事にもなる。


「ああ、間違いなく。圧勝できるぜ!」


 僕は彼らに、できるだけの笑顔とサムズアップで答えた。


「とにかく、大量の水が必要なんだ。どんどん精製して貯めてくれ」


 糸目のカシラにクラーケンを抑えてもらっている間に、真水の生成はプール一杯分位になってた。

 これだけあればなんとかなりそうだ。ただ、倒し切るにはこの倍は必要だろう。


大将ボスやっこさん(クラーケン)来るで!」


 痺れを切らしたクラーケンは、大砲から撃ちだされる砲弾をものともせずに突っ込んで来た。


 ものすごい迫力だ。『思っていた以上に大きい』そんな考えが及ばないほどの威圧感と巨体。頭部や耳(注)には、錆びた銛や折れた矢などが無数に刺ささり、歴戦の跡が見える。


 ……その姿は、武蔵坊弁慶かそれとも悪来典偉か。


 クラーケンは、勢いそのままブラック・サファイア号に体当たりをすると、丸太を何本も束ねたような触腕を振り上げた。


「まずい——」


 ゴオオ……と空気をぶち抜きながら、馬鹿みたいな質量の腕を振り下ろしてくるクラーケン。まともに喰らったら、いかにブラック・サファイア号と言えど真っ二つになってしまう。


魔法障壁マジック・シェル!」


 うしろの方から聞こえた魔法発動の声。同時に僕の足元を光が走り甲板に魔法陣が広がった。直後、平手でなにかを叩いたような”バチンッ“と言う音をたてて、クラーケンの触腕が僕の頭上で止まった。


「え!? ジャック、いつの間にそんな魔法を……」


 振り向くと、ジャックが魔法陣の中心にいた。これは紛れもなく、彼が行使している魔法だ。

 金色を帯びた薄い膜のようなものが、ブラック・サファイア号全体をドーム状に包み込み、クラーケンの攻撃から守ってくれている。


「あの魔法を使いこなすなんて、子供にしてはやりますわね」


 なるほど、ジャックの魔法適応能力を見越して、アン王女が与えていたのか。この二人、いいコンビだ。


 魔法障壁マジック・シェルはその名の通り、魔法に対する防御魔法だった。見た目に反してかなり堅く、そう簡単に破る事はできないらしい。

 また、その効力は魔法だけでなく、クラーケンのような魔法生物の侵入をも阻むと、アン王女が説明していた。


「もう、子供扱いはやめてよ、姫さま。三つしか違わないのに~」


 なに……今なんて言った? 『三つしか違わない』だって? ……ジャックって十三歳だったよな。それで三つ違いって事は、アン王女って十六歳!?


 あおいさんに似たルックスと自信に満ち満ちた態度から、疑いもせずに年上だと思っていたけど……まさか、僕より年下だったなんて。



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