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スゴロクの謎。そして……幼女+1

第18話・僕、なにかやっちゃいました? 

 ぼやけた視界が段々とハッキリとしてきた。ボロボロの壁、カビの生えた天井、四人の影。間違いなく、あの部屋に帰って来たんだ。


「みんな、たっだいま~~~!!」


 いろいろと大変ではあったものの、冒険の楽しさを満喫し、最高の達成感を得た僕は、今までになくテンションが高かった。


「あ、うん……どうしたの……いや、おかえり」


 しかし、僕の高揚した気分とは裏腹に、あおいさんはキョトンとしている。いつもの彼女らしくない、歯切れの悪い返事だ。


「えっと、ミナミナさぁ……なんでそんなにテンション高いの?」

「なんでって……あ、ねえ、聞いて聞いて! 僕が行った異世界、なんとあの、【バイキング・オブ・カリビアン】の世界だったんだよ!」

「……えっと、ミナミナ?」

「マジで凄くない? 銘無ななしのジャックやアン王女にリアルで逢って来たんだよ? それでね、それでね……」


 ……


 ……


 ……あれ? なんか反応がないんだけど。


「もしかしてみんな未視聴だった?」


 なぜか颯太そうた鈴姫べるさんまでも、引いているように見えるし。


 ……僕、なにかやっちゃいました? 


「いや、そうじゃなくて。ちょっと意外だったと言うかさ……」

水音みなとくんって、そんなに感情を表にだすタイプに見えなかったから……ちょっと驚いちゃって」 


 相変わらずなのはかなめだけだった。彼の挨拶『うぇ~い』につき合わされたけど、今は彼の人懐っこい明るさが妙に嬉しい。


 でも、コッソリと彼から聞かされたんだけど、この時の僕は異常なくらい浮かれて満面の笑みを振りまいていたらしく、実は要も引いていたらしい。


 いつもハイテンションの彼ですら引いていたとは……ちょっと反省。


「あ、食べ物と水、ちゃんと持ってきたよ」

「このデカい箱っスか? 洗濯機が二つくらい入っていそうっスね」


 と、手際よく、愛用のナイフを木箱の隙間に差し込むかなめ。厳重に釘が打たれていて、なかなか開かずに苦戦していた。


 それにしても、なんて例えなんだよ。洗濯機が二つって……結構的確じゃないか。


「海賊船で一番大切に扱われていた箱だから、かなりの高級品が入っているはずなんだ」

「……なにそれ。アヤシイなんてもんじゃないわね」

「葵さ~ん、そんな事言わないでよ。ギリギリだったんだから」


 ギギギギギ……と箱にわずかなすき間ができた。間髪入れず、僕もナイフを刺し入れた。


「水音っち、なんか高そうなナイフっスね」

「あ、聞いてよ! あのね、これね……」

「もう、またテンションがヤバいっスよ!」


 ……反省。


 このナイフは、僕がブラック・サファイアの船長キャプテンになった時、糸目のカシラが『大将ボスの証やで』とくれたものだ。どうやら、バルバトスの部屋に飾ってあった逸品らしい。


 柄や鞘の装飾が豪華で、色とりどりの宝石がちりばめられている。中でも、鞘の真ん中に燦然と輝く超大粒のブラック・サファイアが、船名の由来だそうだ。


「その宝石、一個でも相当な値段で売れそうっスね」

「ダメだって。バルバトスのナイフなんだよ! 海賊首領の証なんだよ!」

「はいはい……テンションテンション」


 要は、からかいながらも『でも、マジでカッコいいっス』と言ってくれた。異世界での経験や達成した事、二十日間にわたる命がけの冒険が肯定されたみたいで、妙に嬉しかった。


 バキバキッ……と蓋にヒビが入ると、今度は颯太が力任せに引きがしにかかる。半分ほど開いたところで、バキバキバキ……と、けたたましい音を響かせて蓋が真っ二つに割れた。


 ……剥がすというより破壊だった。


 それでも中身が確認できるようにはなった。敷き詰められた、木を細く削った緩衝材を慎重に取り除いていくと、その中からは無数のボトルがでて来た


水音みなっち、これって……」

「ウィスキーしか入ってないね……」

「え、マジ?」


 手書きのラベルが張りつけられた、ハンドメイド・ウィスキーって物らしいけど……ここには二十歳以上の人間がいないし、いても飲んでいる余裕なんてないだろう。


 食料倉庫にあれだけ厳重に固定されていた箱だぞ。その中がウイスキーだなんて。海賊にとってアルコールは食事なのか?


「海賊なんて、海賊なんてぇ~」

「え~と……水音みなっち、少し落ち着こ?」

「そ、そうだよ。怪我した時の消毒にも使えるし……」


 と鈴姫さんまでフォローしてくれたけど、青ポーションの残りがあるから出番はないだろう。


「あ、底の方になんかあるっす」


 上半身を木箱の中に潜り込ませていた要が、なにかを発見したらしい。


「大きいの? ひとりで取りだせそう?」

「大丈夫っス。高校野球部のボストンバッグくらいっスから」


 また微妙な例えを……超的確だけど。


 要が引っ張りだした”ボストンバック“は、なにかの動物の革に包まれていた。厳重に保管されていたウイスキーの中に一緒に入ってるくらいだ、『なにか貴重な物かもしれない』と僕は慎重に包みを開いた。


「ビーフジャーキーとカシューナッツが……」

「どうみても酒のつまみね」


 と言いながらも、ポリポリとかじりだす葵さん。『スパイスが効いていて意外と美味しいじゃない』とまんざらでもない。気がつくと、僕も鈴姫さんもみんなも、つられて口に放り込んでいた。


「水音っち、異世界の方はどうだったんスか?(ポリポリ……)」

「あ、聞いてよ。あのね、(ポリポリ……)」

「ストップ!(ポリポリ……)その話はあと」

「どうしたの? 葵さん(ポリポリ……)」

「さきに、水が入ってないか探そうよ(ポリポリ……)」

「あ、それはまかせて! 水を生成する魔法覚えて来たから(ポリポリ……)」


 ――これは汚名を挽回するチャンスだ。


 魔法で無限にだせる水。精霊が作りだす、雑菌がまったくない水。これで『できる男!』と言わせてやる!


 僕は意気揚々と真水生成呪文を唱え、指先から少しだけ放水してみせた。


「あのさ……どうやって飲めって?」

「え、指先から飲めるでしょ?」


 船上じゃそれが普通だったし、水を溜めておける場所がないんだから、この場は仕方がないと思う。


「もう、誰が水芸覚えてきてって言ったのよ。もう……もぉう!」


 足で僕の背中を小突きながら、不機嫌になる葵さん。鈴姫さんも口に手を当てて後ずさっていた。



 ……僕、なにかやっちゃったみたいです。 

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