目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第15話 生徒会へようこそ


「懸さん、神木さん、松永さん」


学校の昼休み、昼食を終えて、ベランダで三人でお喋りしていた私達に、クラスメイトが声をかけてきた。


「ん、どうしたの?」


「ゆ、柚木崎先輩と、宇賀神先輩が教室の前に来てるの。三人を呼んで来てって。 マジ、カッコいい」



そう言えば、柚木崎さんも宇賀神先輩も、見た目は良いよな。


柚木崎さんは、見た目だけじゃなく、性格も良いが。


宇賀神先輩は、女好きで、変質者紛いのイメージを抱いているので、その点がマイナスだ、激しく。



「えっ、私、パスして良いかな……」



セイレンちゃん、何をパスだと⋯⋯。


そうだ。


宇賀神先輩アレルギーだな。


この前、私を連れ拐いに来ておいて、初対面でセイレンちゃんに一目惚れしたばかりか、彼自身に取り憑いている稲荷の神まで、あろう事かセイレンちゃんの神様のレンに、それも、男の子なのに、けそうを抱いたのがトラウマなのは、無理ない。



「りりあちゃんどうする?」


かたや、そう私に尋ねてきた鏡子ちゃんは、先日の事など気にもかけていないようで、何か楽しそうでさえある。


いや、実際彼女は、何か楽しい事がありそうな予感を感じているのかも知れない。


何かと物事は楽しんで臨む性格なのだ、彼女は。


良くも悪くもだが。



「宇賀神先輩はともかく、柚木崎さんが来ているのに、行かない訳にはいかないよ。二人は無理しないで」


「りりあちゃんをほっとける訳ないじゃん。私、実力も守護もないけどりりあちゃんも護るよ……なんちゃって」


鏡子ちゃんは、そう言って悪戯っぽい笑みでセイレンちゃんを見つめた。


宇賀神先輩達に襲われた時、鏡子ちゃんは意識ないと思っていたが。



「鏡子ちゃん、あの時、本当は起きてたの?」


「目は開けられなかったし、声は出せなかったけど、聞こえてはいたよ」


「やだ、もう。……分かった、行くよ。私も」


こうして、私達は柚木崎さんと宇賀神先輩のところにみんなで向かった。





「りりあ、鏡子、セイレン、君たちに一緒について来て欲しいところがあるんだ」


「セイレン、君は今日も可愛いね。本当に、綺麗だ⋯」


「宇賀神先輩、言うだけ、セイレンちゃんのなけなしの好感度が下がりますよ」


「いや、りりあちゃん。 好感度、マイナスだから、寧ろ上がってるよ。 マイナス値、爆上がりだから。わたし……」


「目の前で、人が口説かれているの初めて見た」


鏡子ちゃんは、きゃっきゃっと楽しそうだ。



「宇賀神、あんまりセイレンをからかって、セイレンのアノ子が出て来て君が選挙期間中停学になったら、本末転倒になるからやめて」


「悪い。つい⋯⋯久し振りに会えて、浮かれた」


根が正直なのか、よっぽど、セイレンちゃんに首ったけなんだろうか?


二人が連れて来たのは、生徒会室だった。


柚木崎さんは、私達三人にある用紙を差し出してきた。


生徒会選挙立候補用紙だった。


数は、3枚。


どれも同じ用紙だが、どれも立候補する項目に付けられたチェック欄だけ、異なっている。


生徒会副会長、生徒会書記、生徒会会計。



「何の罰ゲームですか?」


私は苦笑いで、柚木崎さんに尋ねた。



「特待生の義務だよ」



マジか、聞いてないよ。


私は、義務と言う言葉に怯んだ。


でも、柚木崎さんの言葉に、鏡子ちゃんは首を傾げて言った。


「ママ、生徒会じゃなかったと、思いますけど」


「あぁ、それは、当時の生徒会長が拒絶したんだよ。 慶太も僕も、ちゃんとやったよ」



突然、現れないで菅原先生。



「えっ、当時の生徒会長って……」



要さんと菅原先生の元宿主って言ってた慶太って人と、同い年で、かつ特待生って……。



「えっ、君の親代わりしてくれてる、あの人だよ」



氷室さんか。


生徒会長だったか。


そして、要ちゃんのお母さんの生徒会入りを拒絶したんだ。


何て、失礼な。



「そうです。前に、生徒会会計に立候補しようとしたら、目の前で燃やされたって、話してました」



燃やしたんかい。


本当、いや、いっそ清々しいくらい氷室さんらしいな。



「結局、要はリタイアになって。副会長は定員二人だったんだけど、慶太と特待生じゃなかったけど、ヒッキーと仲の良かった数少ない友人の柚木崎君のお父さんがしてくれたんだ。 本当、助かったよ」


「助かるとは?」


「生徒会長と副会長の1人だった慶太が同時に停学になって、その間、彼が君のお父さんと二人で仕事してくれたんだ。 因みに、懸さんのお父さんは彼等が卒業後、僕が再入学して生徒会に立候補するまで、生徒会長をしてくれたんだ」


「もしかして、うちの父は、特待生じゃないにしても、特別クラスだったんですか?」


「そうだよ」



初耳だ。






「で、生徒会長に立候補する柚木崎君は、三人をどうノミネートしているの?」


菅原先生の言葉に、屈託の無い笑みを浮かべて柚木崎さんは言った。



「りりあは、副会長。 鏡子は、会計。 セイレンは、書紀でお願いしたいかな」



その心は?



「えっ、何で私が副会長何ですか?」


「僕が卒業した後、会長になる人に頼むのが筋だからね。 それに、いきなり、会長やるより、ずっとやりやすいよ。それに、放課後、ずっと一緒に居られるし」



そうか、だが、断る。


理由は簡単だ、嫌だからだっ。


来年の会長まで、決定事項かよ。


でも、正論過ぎて、刃が立たない。



「えっ、何で私が会計何ですか?」


「君、将来は親御さんのフラワーショップを経営する事になるんだろ? 良い経験になるよ。 それに、君のお母さんは会計志望だったって聞いてたから」



もっともらしい理由で初めつつ、何かとお母さんと張り合いたがる鏡子ちゃんの性格を熟知している。


効果覿面らしく、鏡子ちゃんは、まんざらでもなさげだ。




「えっ、じゃぁ、私が書紀なのは?」


「字が綺麗だから」



簡潔かつストレートに誉めたが、セイレンちゃんが静かに嬉しそうなのが分かった。


宇賀神先輩より、よっぽど、柚木崎さんの方が口説き上手だ。


10文字ない言葉で、セイレンちゃんを落としたよ。


宇賀神先輩が、静かに驚愕しているのが、余計に面白かった。


それは、置いといて


「柚木崎さんと宇賀神先輩は、立候補しないんですか? 私達、1年でお二人は2年ですけど」



「僕は生徒会長。宇賀神は、副会長」


そういう事か⋯⋯。



「因みに今、僕は現役の生徒会長」


「えっ、ぶっつけで生徒会長したんですか? それも、1年で⋯⋯」


「うん。 だから、断らないよね、りりあは?」



いや、そう言われましても。


言葉を濁す間もなく、すっかり、柚木崎さんの口車に乗せられ、いそいそと用紙に記入を進める鏡子ちゃんとセイレンちゃんを前に、私も自分用にあてがわれた生徒副会長にチェック済みの用紙に、遅れをとりながらも記入した。





「氷室さん、柚木崎さんに生徒副会長に立候補する用紙を書かされたんです」


「……そうか。 遅くなる時は事前に言えば、迎えはその時間に合わせる」



氷室さん、いつにも増して、素っ気ないな。


そう思ったのも束の間。


氷室さんは言った。



「鏡子もセイレンも、書かされたのか?」


「はい。後、この前のキツネ憑き騒動の先輩も」



氷室さんは、宇賀神先輩の名前を出した時に、僅かに眉を細めた。


何だ。



「あのキツネ憑きは、大丈夫なのか?」


「えっ、と言いますと?」



氷室さんが何を心配しているのか分からず狼狽える。



「キツネ憑きは女好きだ。 だれかれ構わずみさかいなく手を出して無いのか?」


「……確かに、女性に対して強い執着があるみたいですね。 私、確かに、それは、心配です。 他人事とは言え。 セイレンちゃんは、大事な友だちだから」


「は?」



氷室さんに、宇賀神先輩がセイレンちゃんに一目惚れして以降、私を異性と言うより、同性の友人のように接してくれている事を説明した。



「同性の友人か」


「はい。 そう言えば、見せて貰う約束したんです。 菅原先生が当選の暁には、氷室さんが生徒会長の時の生徒会の集合写真を見せてくれるって。  楽しみです」


「見るな。つまらん。やめておけ」


氷室さんは、あから様に取り乱して、珍しく運転が乱れた。


車が揺れる。



「落ち着いて下さい。検討しますので」


「りりあ……」


「氷室さん、でも、やはり。⋯⋯私、やります。 俄然、何かやる気でたんで」


「どういう了見だ」


「はい、純粋な好奇心です。 車の運転乱れてませんか?」


「お前のせいだっ」



何か面白かったが、次からは、こういう話題を運転中にするのはやめようと、学習した。







生徒会選挙は、それぞれ自分なりの所信表明演説を考え望んだ。



今回は、何故か主に生徒会長以外の役席が熾烈を極めた。


何故なら。


恐らくだが、柚木崎さんと宇賀神先輩の人気のせいだろう。


うちの学園の生徒会執行部は、会長が一人、副会長が二人、書記と会計がそれぞれ一人である。


そのうちの会長と副会長候補の二人が、女生徒の絶大な人気を集めていた。


特別クラスの生徒に何故か立候補者はなく、一般クラスの生徒ばかりがそれ以外の立候補に臨んでいた。



「私が当選した暁には、学園の施設拡充に取り組み、必ずや各クラスに電子レンジとお弁当や飲み物保管用の冷蔵庫の設置を約束します」


年々深刻化の一途をたどる温暖化に焦点を当て、かかる電気代については、私が屋上にソーラーパネルを設置する事を条件に許可は得ている。


何でも、歴代特待生は卒業後、例外なく何らかの寄付を学園にしているとの事で、私は生徒会に当選した暁には、ソーラーパネルと冷蔵庫と電子レンジをクラス分、前倒しで寄付する事を直談判した。


と言うか、個人的に毎日弁当持参勢なので、元々、欲していたところ、丁度良かった。


「私が当選した暁には、一円たりとも無駄を許さず、繰り越すべきお金を除いて、有効に全て使いきる事を約束します。 お金は使うべき時にきちんときっちり使うべきです」



要ちゃんの所信表明演説、私は好きだった。



「私が当選した暁には、大事な事を一言一句残さず書き残し、後顧の憂いがないよう取り組みます。 皆さんが生徒会でどのような事が行われ、どのような意図でそれが決まったか、分かりやすく伝えられるよう励みます」



一番まともだと、感心したのが、セイレンちゃんだった。


結果は、完封勝利に終わった。


ソーラーパネルと全クラス分の冷蔵庫の見積もりは、目が飛び出るほどの金額だったが、歴代特待生の寄附金にしては、妥当だと、氷室さんが快諾してくれた。



「因みに、氷室さんは何を寄付したんですか?」


「覚えてないな」



覚えてないんじゃなくて、言いたくない。


と言う風に取れた。






当選までは順風満帆だった私の生徒会入りに、思わぬケチが着いたのは、当選後間もなくの頃からだった。


朝の登校時、教室に向かうまでの道のりは、一般クラスも通る共用エリアの渡り廊下をどうしても通らないと特別クラスのある校舎に入れず、一般クラスの生徒と居合わせる事にもなるのだが。



「ねえ、あの懸って人さ、ズルくない?」


「学園に寄付して、ポイント稼いでさ」


「ってか、学校まで車で送り迎えとか、何処のお嬢様なのって、ねえ」



正直、まあ、言われて見れば、その通りだ。


でもどちらかと言うと、当選のために寄付したのではなく。


寄付する理由に、今回の選挙が渡りに船だった訳で、だったら、相手側もそれか、それに応じた戦略で挑めば良かったのだ。


後、車の登下校は強制で、私が願ったことではない。



今まで耳にしたことなかった自分の醜聞に苦笑いで聞こえない振りをした。


でも、興味本意で、よく耳を澄ませて聞いてみることにした。



「本当、何様よ。特待生って、何なのよ」



まあ、普通、そうなるよね。


私は、勉強も運動もそこそこの実力しかないのだから。



「自分の顔、鏡で見た事あるの?って感じ」



この世に、高校生になるまで自分の顔を鏡で見た事ない人なんていないよ。




「本当、ミナミ可愛いのに全然、票足りないんだもん」 


「ぶっちぎりで、宇賀神先輩より得票稼いで金持ちさまさまって嫌な感じ」


「あっ、でも、私はあの子に入れたよ」


「あっ、実は私も……だってさ、お弁当腐るの嫌じゃん、腐った事ないけどさ。 教室冷房あって、保冷剤ママが入れてくれてても心配になるときあるし……」


「「「「だよね」」」」


「ミナミには、悪いけど、ここだけの話、まぁ、ありがたいよね」


「ミナミには、言えないけどね」


「本人に噛みつきに行かないと良いけど」


「柚木崎先輩ラブだから、案外、本人より、そっちに矛先向かうんじゃない?」



何て話を廊下で立ち聞きした数日後、早速始まった生徒会活動の為に放課後向かった生徒会室で、噂のミナミと呼ばれる女生徒との対面を果たした。


「あの生徒副会長にお話があるんですけど」


放課後の生徒会活動中。


室内の中央の二人がけソファが2つ、1人がけチェア2つの長テーブルの応接室セットで、鏡子ちゃんとセイレンちゃんと書類整理していた。


最奥の生徒会長席では、柚木崎さんと宇賀神先輩が話をしているところだった。


ノックをして、相手の許しも待たず、勢いよく扉を開けたが、折角ノックをして礼儀を持ち出すなら、ちゃんと「どうぞ」と返事を待って入るべきだ、と思った。



何だろう?



私は、無視するわけにも行かず返事をして立ち上がろうとしたが、宇賀神先輩がいつの間にか後ろに立っていて私の両肩を押さえ付けて、立たせなかった。



「何のご用かな?」



宇賀神先輩よ、アナタも私と同じく生徒副会長だけどぉおっ。


呼んだのは、多分、私なのだが。



「えっ、やっ、あ、あの……」


「どうしたの? 何か困ったことでもあるの?」


「は、はい、あの、まぁ、その」


この子、思い付く限りの相槌言葉を言い連ねて、何が言いたいのだろう。


宇賀神先輩のイケメンにたじたじで、狼狽えて言いたいことも言えないとみた。


「宇賀神、僕が話を聞くよ」


「でも、生徒副会長の僕に用があるって言ってるんだけど」


「セイレンの前で、他の女の子と話していて良いの? 軽薄に拍車をかけたくないだろ?」


「……頼もう。俺はセイレン一筋だ」


そう言って、かばっと私の向かい側にすわるセイレンちゃんを見つめて、セイレンちゃんの冷やかな冷笑に、宇賀神先輩は肩を落とした。


それを尻目に、件の女子生徒と柚木崎さんは生徒会室を出て行って、30分位帰って来なかった。



「柚木崎さん、あの子、何の相談だったんですか?」


「ん? あぁ、ちょっとね、気にしないで。僕が話を聞いたから」



何の話し……だったのかな。


私に文句言いに来たんだと思ったんだけどな。




それから数日後、私は朝の渡り廊下で今度は、直接ミナミと言う女子生徒に呼び止められた。


「ちょっと良い?」


「良いかは、ちょっとの内容によりますが?」



本当に、何の用だろうか?



「アナタ、何様なの? お金にモノを言わせて、学校に車で送り迎えして貰って、歩いて来なよ。 学校も歩いて来られない無いぐらいひ弱なの、豚になるわよ」



女生徒の後ろには、この前立ち聞きしたおしゃべり女子達が微妙な顔で並んでいる。


何か、みんな若干引いてる感じで覇気を感じない。



「そうよねみんな」


「……学校には、近い距離なら徒歩で来た方が良い……よね」


「毎日、車で来てる……よね。  迎えも来てるとこ、見た人いるし」



いや、自慢じゃないが、入学してこの方、一度も氷室さんの送り迎えなく、学校を往き来したこともなければ、脱走しない限り、氷室さんが張り付いて一人で出歩いたりしてない。


「確かに車で送り迎えして貰ってますけど。 アナタには関係無いことです。 気に入らないからって、変な嘘言わないで、脅さないでくれますか?」


「嘘なんて、付いてない。アナタ、学校に車で」


「いや……そうじゃない。歩かないと豚になるは、明らにうそでしょう。今時、小学生も騙せないよ、馬鹿にしないで下さい」


何故か、後ろの取り巻きの女子生徒が吹き出した。





「違う、本題はアナタの車の送り迎えについて聞いてるのよ」


「だったら、質問は簡潔にするべきです。 何のための豚だったんですか?」


「いや、お願いだから、豚から離れて」


「えっ、豚いるんですか? 何処に」


「話が通じないっいいいっ」



全力で生真面目に話をはぐらかした結果、後ろの女生徒が笑い過ぎてその場に崩れ落ちた。



「あんたなんかが生徒副会長なんて、絶対おかしいのよ。辞退しなさいよっ。私の方が、よっぽど副会長にふさわしいんだから」



おっ、いきなり、本音を喋ったな。


色々理由つけて、本心はこれか、とおもった。



「所信表明演説でアナタは負けたから、私が副会長です。よって、辞退はしません」


「あんたなんか、寄付がなければ、勝てなかった癖にズルいじゃない」


「はい、ズルいですよ。お金を使いました。でも、包み隠さず、ズルいって思われるって分かっていてもちゃんと、自分の持っているお金で夢を実現するって言いました。 それでも、私に投票してくれる人がいて、私は当選したんです。 辞退しなければいけない、謂れはない」


「…………」



女生徒は無言になり、後ろの取り巻きからも笑いと声が消えた。


さすがに、取り巻かれて話をしていたのが目を引いたのか、柚木崎さんと宇賀神先輩がやって来た。



「りりあ、どうしたの?」


「すみません、ちよっと、色々ありまして」


「あれっ、この前、生徒会室に相談に来た子だよね? みんなでりりあを囲んで、何のつもりかな?」


「……この子が生徒副会長なんて、私、認めない。 こんな子、全然、相応しくない。 みんなそう思うよね?」


取り巻きに助けを求めるように振り替えると、取り巻きたちは神妙な顔で言った。


「ごめん、私は懸さんに投票した。確かに、腹も立ったけど、何か嫌味がなかったんだよね。うまく言えなかったけど、今、わかったよ。 確かに、ちゃんと、ズルいって思われるの覚悟で言ったなら、私は格好良いって思った。 他の人の所信表明演説は全然響かなかったけど、当選した人達の演説はどれも心に残った」


「うん、私も。正直さ、私、ミナミの所信表明演説……一言も思い出せない」


「諦めなよ。私の方が顔が良いとか、成績が良いとか、運動が得意とか言ってたけど、それ生徒会の何の役にも立たないよ」


「そうだよ、この子、ちゃんとやるらしいよ、ソーラーパネルと冷蔵庫、先生言ってたじゃん、6月中に設置するって……」



取り巻きの子達は最後にみんなで【だけど、学校には歩きで来た方が良いよ】って忠告を残して、呼び止めた事を謝罪して帰って行った。


ミナミと言う女生徒を一人残して。


「みんな……手の平返すなんてズルい。味方してくれてたのに、分が悪くなったら逃げてくなんて最低よ」



いや、それは違う。


私は自分の思った正直な感想を言った。



「違うよ。少なくとも、アナタの気持ちを尊重してくれてたんじゃない? 悪口言ってないで、謝っておいでよっ。 裏切ったんじゃないよっ。 愛想尽かされたんだよ。 トモダチ巻き込んで何やってるのさ……。恥ずかしいよ。 そもそも、私が相応しくないのと、アナタが相応しいかは、別問題でしょう?」


「……だったら、何よ。あの子達は私を裏切ったんだ」

「何か裏切ったって言うなら、それはアナタの期待をだよ。自分の意見を肯定してくれるって言う。 だから、アナタの事を裏切ったんじゃない。 現実を履き違えてないで、 謝りに行きなよ。 自分が副会長になりたいって駄々をこねた事を。今、すぐにっ」



私の言葉に、女生徒は取り巻きの子達の方に踵を返して、歩きだした。






「結局、りりあが自分で解決しちゃったね」


「解決……したんでしょうか?」


「してたよ。僕が言い聞かせたつもりだっのに、力及ばずだった。ごめん」


「柚木崎さん、あの子とこの前、何を話してたんですか?」


「うん、彼女の自分が副会長になるべきと言う話を延々と聞いて、やんわり、特に副会長になってやりたい事もろくに無いのに、副会長になっても仕方ないよって説明したんだ。 間違っても、本人に直談判に行かないでって諭したつもりだったんだけど、いっそ、君の説明が彼女に一番響いてた」


「本当に、君は、変わったね」


宇賀神先輩の言葉に私は首をかしげた。


「昔のワタシッテ、どんな子だったんですか?」


「昔はもっと攻撃的で、偉そうで……」


「宇賀神、もう時間だ。 行こう。 りりあ。 渡り廊下の先まで、一緒に」




柚木崎さん、今、宇賀神先輩の話を意図的に遮ったような。


そう言えば、宇賀神先輩とこがねと一悶着あった時、何かと戦って負けた事だけ思い出した。


後、もう少し、遡れれば、核心を付ける気がする。


でも、正直。


思い出してしまうのは、怖いことの始まりだ。


だって、そいつを突き止めたら、りゅうの名を呼び、それを告げる約束をした。


私の記憶に直接触れて、確かめたいと言われたのを、拒否しての取り引きだったが、引換にした約束を違える訳には行かない。


でも、りゅうがもし、それを突き止め、私がそれをりゅうに告げたら。


その時は。


りゅうとりょうとで、 【それら全員を殺してしまう】 と言ったのが。



私はとても、怖かった。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?