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第23話 ミ ナ ミ  フ・タ・タ・ビ


二学期。


昨今の夏休みは、年々温暖化が増して、10月まで余裕で猛暑を噛ましてくる癖に。


夏休みは、8月末まで、なんで休みじゃないなんて、何時も恨み言を言って新学期を迎えて居た。


でも、今年は違う。


始業式は午前中授業だが、氷室さんは何時もの時間に迎えに来るので、結構放課後の時間は長いが、生徒会活動があるので時間潰しには事欠かない。


寧ろ、それの方が授業より愉しみだった。



「随分、機嫌が良いな」


「分かりますか? 久しぶりにみんなに会えるから、嬉しくって」


「⋯⋯そうか。俺には、理解出来ないが」


トモダチ⋯⋯居なかった訳じゃないのに。


前に聞いたが、柚木崎さんのお父さんと、途中編入の菅原先生の宿主の慶太さんと言う人と3人で仲良かった筈なんだ。


「氷室さんは、新学期、憂鬱だったんですか?」


「そんな事無かった。⋯⋯と言いたいとこだが、⋯⋯そうだな。屋敷の前の五月蝿いのの顔を見るのだけは、憂鬱だったな」



相変わらず、ディスるね。


要さんを。





「きゃー、りりあちゃん。久しぶり〜」


「久しぶり、セイレンちゃんっ」



こんなにテンション高いセイレンちゃん初めてだよ。


ハイテンションだわ。




「聞いたよ、お盆、大鏡神社のお祭り、鏡子ちゃんと柚木崎先輩と過ごしたって。 私も行きたかったけど、ママの帰省に付き合わされて、さ。その上、猪肉30キロも貰っちゃったの」


それは、また沢山貰ったな。


大型冷蔵庫でも、冷凍庫スペース破裂せんばかりの量ではないか。



「断ったのに、私、ちゃんと。 わざわざ六封じまで来て、私達の事、助けてくれたし、お礼は不要だって。なのに、なのに、⋯⋯学園宛に送って来たのよ。祠の修繕のお礼って⋯⋯どうしよう」



知らんがな。

とは、言い切れない。


何で、学園に送って来たんだ。


まぁ、3人暮らしの個人宅よりは、まぁ、まだマシな選択だろう。


家庭科室の冷凍庫になら、入るだろうし。



「りりあちゃん。取り敢えず、うちら、また3人揃ったら、生徒指導室何だって」


鏡子ちゃんの言葉に、衝撃に追い打ちがかかって、項垂れた。



何でだよっ!!




「あっ、おはよう。元気にしていた?」


生徒指導室に待ち構えて居たのは、菅原先生だけでなく、隣で申し訳なさそうにこちらを上目遣いで見つめるミナミと言う女子生徒だった。



「菅原先生、その子、この前の」


「今学期から、特別クラスに編入になった篠崎 美波【しのざき みなみ】さんだ。みんな、仲良くしてあげて欲しい」


菅原先生、新学期早々、ぶっ込むわね。


「先日は、みなさんにご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。そ、その、懸 凛々遊【あがた りりあ】さん」



えっ、私の名前を、呼び切った。


「えっ、菅原先生、まさか、その篠崎 美波さん⋯⋯。 私の名前、呼び切りましたけど。 ただのレンズサイドウォーカーじゃないって事ですか?」


私の言葉に菅原先生は、珍しく眉根を細めた。


「懸さん。 その話は後だよ。まずは、篠崎さんの謝罪を最後までちゃんと、聞いてあげて。人に謝るって言う事は、とても、勇気がいることなんだからね」


険しかったのは最初だけで、後は子供を諭すような、優しい言い方に戻っていた。


「すみませんでした。篠崎さんが無事で良かったよ。生きてて良かった」


「ありがとうございます。これからは、問題起こさないよう気を付けます。 宜しくお願いします」



一通り、謝罪と挨拶を終えた後、菅原先生は言った。



「篠崎さんは、変な才能があるけど、残念ながら、特待生には当たらないから、一般の特別クラスの生徒だよ」


「変な才能とは?」


「呪詛がけの才能があるみたいなんだ。この前の虎に見出だされ、大鏡の人柱にされたみたいだけど、君に死ぬなって言われた時に思い付いて、呪詛を自力で解いたんだって、呪詛が解ける人は逆にね、呪詛をかける事が出きるってことだから」



そう言えば、大鏡の水の中で、私は虎の名前を思い出して、虎を追い払ったが、あの大鏡の細工に何も手を加えてはいない。



虎を追い払った事で、大鏡の細工を打ち払ったと、勝手に思い込んで居たなら。


そうなんだろう。



「自分にかけられた呪詛は払えたけど、それに怒って、身体の中に虎が入って来た。そうだよね」


「はい、懸さんを殺そうと言う殺意を感じました。身体が勝手に動いて、私、何ももって無かったのに、いつの間にか、短い刀が身体から出て来て、振り下ろしました。 呪詛ではなく、それが、何なのか……」


戸惑う篠崎さんに、菅原先生は言った。


「カラダを乗っ取られた……。僕はそう思っている。 宇賀神君も、そうだったから」


「えっ、宇賀神先輩も?」


そう言えば、私を突き飛ばして、肩を踏みつけてた時、そんな素振りは確かにあった。



「君を襲った狐憑きのみんなも、殆んど操られていたんだよ。君の事が欲しかったのは、本心だったのに、殺す必要は無かったって」



確かに、殺せってけしかけて来たけど、殺す事への正当性に欠ける要求に思えた。


宇賀神先輩もそれに、困惑していた。


作為だったのか?


私を、虎は、是が非でも殺したがっているようだが。


でも、私を殺したい理由がいまいち、掴めない。


分からない。



ん~。





私には、りゅうとりょうと言う、人外のストーカーがいるだけでも厄介なのに、この上、虎には命を狙われて居るなんて厄介が過ぎる。


氷室さんと柚木崎さんを心配させたくないと、思ったが菅原先生には、【ヒッキーと柚木崎君には、僕から説明しておくね】って、言われてそれを拒絶は出来なかった。



「懸さん、あのね。 本当に、助けてくれてありがとう。【死んじゃ、駄目】って、あの時、私に言ってくれてありがとう。  でもね、私、自分が本当に生きてて良いか、分からない。本当に、ごめん」


篠崎さんは、何故か私に改めて、一緒に向かう特別クラスへの道のりの途中で私に言った。



「生きて良いよ。 あなたの命は、あなたとあなたを大切に思う人の為のものだよ。 気にしないで、あなたがわたしに、攻撃してないのは、分かってた。あなた、もう、私の事、許してるって」


「懸さんは、……柚木崎さんの恋人なんだよね」


「そうだよ。  でも、生徒副会長になったのは、それとは、無関係だから」


「それは、もう、どっちでも良いよ。 良かったよ。 私はね、お母さんとは違うから」


「えっ、篠崎さんのお母さん?」


「うん。 私は、私でいつかちゃんと呪いを解くよ」


おかしいな?


篠崎さんの呪いは、大鏡の水面の中で、全部解けたはずなのに。







放課後、飛んでもない案件が、生徒会に持ち込まれ、私達は非常事態宣言を出したい事態に直面した。



何と、学園長が菅原先生を伴って、生徒会室に突如来訪して来て言った。



「30キロの猪肉が七封じから、冷凍便で届いた件は、もう聞いてるよね。生徒会主導で、10月の三連休の学園祭ではけちゃって欲しいんだ。 さっき追加で精米してない玄米が30キロ追加で届いているから、それも、一緒にね」



何だよ、それぇえ~。



要件を述べて、さっさと生徒会室を後にしていく学園長と菅原先生を見送って、柚木崎さんは苦笑いで、みんなに言った。



「だってさ……かっこわらいだね」



柚木崎さん、だってさ & かっこわらいじゃないよ。



「どうしよう。ママ、猪肉貰った時、大抵、ジンギスカンみたいに焼き肉にしてたけど、地抜きとか、一口サイズにスライスするのたいへんそうで、何年かに一度の事だから、どうにかなるけど、これは無理だよ」


セイレンちゃんはそう言って頭を抱えた。


「私、料理って、目玉焼きかおにぎり位しかしたこと無いよ。料理嫌いじゃないけど」


鏡子ちゃんは、基礎調理力の低さに危機感をもって欲しい。


「俺は、結構、料理する方だ。安心しろ、大豆から揚げも作れるし、お稲荷は秘伝のレシピで」



その宇賀神先輩の特技は、大豆絡みで何かあった時に発揮して貰おう。


今回は、それについては出番無し……かな。



「りりあ、どうする?」


「カレーで良いんじゃないですか? 血抜きして、ぶつ切りにして煮込んで、ご飯も、さばかなきゃ行けないなら、もう……」


私の発言に一同、鳩が豆鉄砲喰らったような顔で静まり返った。






「私さ……前から、お料理クラブがあったら、入部したいって思ってたんだ。 りりあちゃん、一緒にやろう。 やろうよ」


生徒会室から、場所を家庭科室に移し、キャンプの時に貰った野菜を持って帰り忘れていた七封じの人から貰った野菜で、私達の料理力を試すべく、家庭科室にある調理道具と調味料で、調理してみたのだ。


主に、自炊勢の私と柚木崎さんと宇賀神先輩で料理力を発揮した。



「かぼちゃの煮物」


宇賀神先輩の作品。


皮まで綺麗に煮えている。


何だ。


【油揚げ無くても料理できるじゃないか】と感心したそばから、【油揚げ】がないのが残念だとのたまう。


理由を聞くと、いつもならかぼちゃを油揚げに包んで煮るから、加減に苦労したのだそうだ。


その執念について、一抹の不安を残したのが残念だった。


カレーに油揚げはさすがに合わないから。



「人参とピーマンの千切り炒め」


ピーマンと人参の火の通りを計算して、切り方を工夫しており、中々の家事力をうかがい知る事が出来た。


味付けも良かった。



「ゴーヤのマヨネーズサラダとトマトスープ」



私はさすがにじゅくじゅく気味で生食に向かないと判断したトマトをスープにして、ゴーヤの苦味をなるべく抜くべく千切りにしたゴーヤを水で一度煮立てて、水にさらした後、よく水切りして、味の素とマヨネーズで和えて、砂糖と塩で味を整えたサラダに仕立てたものを作った。



「中々の家事力。 特に、りりあちゃん。二品も作ったよ。セイレンちゃん……」


「私達、何にも思い付かなかったもんね」



鏡子ちゃんとセイレンちゃんは、見学していた。



「問題の猪肉ですけど、長期保存させる工程上、どうしても中途半端な状態なので、血抜きが必要なんだけと、やり方ママに聞かなきゃ」


セイレンちゃんの言葉に、私は、言った。



「猪肉の血抜きなら、私が分かるから、大丈夫だよ。この前まで居たところが山の中で、何回も経験あるから」



4年暮らした四国の地て、わりと頻繁にこう言ったお裾分けがあり、私達家族は目の色を変えて喜んだものだ。


焼肉やシチューも良いが、一番ポピュラーだったのが、カレーだ。


うちで作るカレーで、肉の具の比率が最大に上がるのが、この時だったから本当に嬉しかったんだ。


懐かしい……な。





「じゃあ、詳しいイベント準備のスケジュールや資材とかについては、私が計画をまとめるね」


セイレンちゃん、素敵。



「利益率を考えて、最大限の黒字を発揮できるように、計算するから、それは、任せて」



鏡子ちゃんは、いつも何気にちゃっかりしてるから、期待しているよ。



「じゃあ、イベント計画は、君達にお任せするよ。他の生徒会業務は、なるべく僕と宇賀神でやるから。でも、ちょっと手伝って貰える生徒を選抜して貰えると助かるよ」


柚木崎さんの提案に、白羽の矢を立てたのは、同じクラスの一ノ瀬君だった。


「懸の頼みなら、断らない。 協力するよ」


「やったー。宜しくね、一ノ瀬君」


素直に喜ぶ鏡子ちゃん。


「本当、一ノ瀬君なら、私も安心だよ」


セイレンちゃんの言葉に、私は誰なら安心じゃないのか透けて見えるようだと思った。



「ところでさ、りりあちゃん。鏡子ちゃん。そして、一ノ瀬君。 実は、みんなにおりいって、お願いと言うか⋯⋯」


学校の昼休み、一ノ瀬君を招いて、教室でお弁当食べながら、学園祭での生徒会主導のカレー屋台【仮称】の一ノ瀬君の賛同を得た後、セイレンちゃんが切り出したのは、前々から言っていた料理クラブ創設の相談だった。


「俺は、懸が入れって言うなら、断らないが?」


「りりあちゃんは、どう思う? 生徒会活動って毎日じゃないから、それが無い日だけの活動を視野に週2回位で、土日は特別活動は考えてないの」



確かに、生徒会活動が無い時は、基本、教室に残って氷室さんが迎えに来るまでの2時間あまりの時間を持て余して、正直、宿題とか、教科の予習復習では持て余していた。


なら、秀才目指して、猛勉強すれば良いのだろうが、それは、したくなかった。


別に、勉強大好き体質では無いからだ。


料理は好きだ。


みんなでこの前、わいわい言いながら、家庭科室で料理したの楽しかった。


「私は⋯⋯うん。賛成、クラブ作っちゃおう。鏡子ちゃんは?」


「私? 勿論、賛成だよ」



こうして、部員4人を確保して、私達は、放課後生徒会室でクラブ創部条件を確認して、計画を練った。


クラブ創設、及び、同好会の我が学園の創部条件は。


部員5人以上。

顧問1人以上。

学園長の許可。


「まず、部員がもう一人いるね」


と言う話になり、近場でウロウロしている宇賀神先輩を勧誘して、部長がセイレンちゃんである事を告げると何部が説明する前に、入部に応じてくれた。


私が、勧誘したのだが、意図して、まずセイレンちゃんが部長である事を述べた所業は、作為しかなかった。



セイレンちゃんは、その顛末に歯噛みしていたが、よっぽど思い入れがあるらしい。



「背に腹は代えられないね」



そう言って、苦笑いして、項垂れていた


「勿論、僕も、入部だから」


誘うつもりはあったが、柚木崎さんも、誘う前に宇賀神先輩との話を隣で聞くなり、そう言ってくれた。



「顧問は、菅原先生に頼むよね」



流石、柚木崎さん。


察しが良い。


私とセイレンちゃんと鏡子ちゃんの3人で、菅原先生の所に行った。



「どうしたの?」


「はい、私達、先生に頼み事があって来ました」


「何の神頼みかな?」



言い得て妙だ。


うまい事を言う。


菅原先生に事情を話し、二つ返事で快諾して貰え、後は、学園長の許可を貰うばかりだったので、私はそれも、うまく行く。


そう信じて疑わなかったのだが。



そうは行かなかった。





「創部の認可は、私から、条件をつけさせてもらう」


何か、二つ返事でOK貰えるつもりだったのが、甘かったか?


と、冷や冷やするような学園長の持ちかけに、私達は、ちょっと気後れしていた。


「と、言いますと?」


一番やる気のセイレンちゃんが言った。


「君達の活動計画が不明瞭過ぎる。 と言うか⋯、ただ仲の良い者同士が集まって好きなものを作って遊ぶような趣旨に取れる活動に許可は出来ない。 そう思ったんだ。それは、【放課後、帰って家でやれば良い】ってね。菅原先生は、どう思う?」


「ごもっとも、です。 でも、生徒達は、自発的に、生きて行く為に、必要不可欠な、まず、食べる物を作れるようになりたいと言う熱意には、賛同しました」


「そうだね。それは、一理ある。でも、この子達も、もう卒業を期に成人する時になっているのに、いつまでも、子供扱いじゃ駄目だ。君達の言うクラブの部長になるのは、誰かな?」


「私です」


セイレンちゃんが言った。


「松永 清廉さんか。⋯⋯2つ条件を付ける。良く聞いて。 君の言う部活動創部にあたって、1つは料理クラブと言う名前では無く、君が料理について向き合う理念を固めて、それをその部活の名前にする事。もう一つは、活動方針で私を創部に値する部活動だと私が納得出来る内容にまとめて、創部の暁には必ずやり遂げることだ。出来るかい?」


「やります」



「そうか。じゃあ、まとまったら、また来て。待ってるから」



創部は、敢え無く保留となり、その日は、そこまでとなった。


何故って? 


もうタイムリミット。


氷室さんのお迎えの時間だった為である。


私は、帰りの車の中で、学園長の出した条件について、考えていた。



「りりあ。⋯⋯不安か?」


氷室さんが家に着いて、私が車を降りた後で、氷室さんも車を降りて、私にそう声をかけて来た。


不安、確かに。


不安だ。


学園長とは、入学の時や、生徒会副会長立候補のおり、寄付の事で話をした他は、面と向かって対話したことが無いので、いまいちまだひととなりが掴めて居ない。


そんな学園長を唸らせる、部活の活動理念や方針をみんなで定める事が出来るか自信がないからだ。


でも、にしても。




「何で、氷室さん⋯⋯なぜ、私の悩みをご存知なのですか?」


「今日、菅原から話は聞いた。虎の事は心配するな」


「違いますっ」


はっ、しまった。


つい、力っ一杯氷室さんに突っ込みいれちゃった。


そうだ、虎の件を案じていると思ったか。


「⋯⋯どういう事だ?」


【なぜ、違う】と顔に満面に書いているような顔の氷室さんにおずおず私は事情を話してげんなりされた。



「お前、自分のイノチより、部活動の事で、今日そんな神妙な顔していたのか?」


「はい。だって、うまく行くと思っていたのに。最後の最後でうまくいかなくて」


「心配した俺が馬鹿だった。 お前は、結局、りりあそのものだな。お前は、そう言う馬鹿だった」


結局、私が、私そのもので。


そう言う馬鹿だったって。


何よ、その言い方。


「ひっど。⋯⋯氷室さんの馬鹿」


「馬鹿はお前だ。どれだけの者が、お前の事を心配してると思っているっ」


言われてみれば、そりゃそうだっ。


みんな、私を心配してくれて、今までだってみんなに良くわからないけど。


色々して貰って、自分は記憶が無くて、誰かも分からない人に、無事を喜んでもらってここにいる。


至極まっとう過ぎて、恥ずかしいばかりだ。


怒って、氷室さんは車に戻るでもなく、颯爽と玄関の鍵を開けて、家に入って行った。


私は、夕食の支度をして、限りなく、声をかけにくかったが、意を決して書斎のドアをノックした。


「⋯⋯何だ?」



いつもの氷室さんの声のトーン。


感情を関知不能。



「さっきは、すみませんでした。 許して⋯⋯ください」


「⋯⋯要件はそれだけか?」



引き続き、いつもの口調。



「ご飯、一緒に⋯⋯食べて欲しいです」


「……ふぅっ。……分かった」



何か、溜め息付いたよ。


声に、抑揚がないが、溜め息付いたの、初めてだな。


何の溜め息なのだか、私は兎に角、許しが出たので、リビングに踵を返して、台所で二膳のご飯をよそった。





翌日の放課後、生徒会室で、クラブ創設の作戦会議をしようと、生徒会活動は無かったが生徒会室に向かう途中、私は意外な人物を見つけて立ち止まった。



「どうしたの?りりあちゃん」


セイレンちゃんに、尋ねられ私は答えた。


「知っている人なの。 ちょっと、行ってくる」


「えっ、楽しそう。私も行きたい」


鏡子ちゃんが言った。


「良いよ」


私はそう答えて、駆け出した。


セイレンちゃんも一緒に付いて来た。



「竹中さんっ」


「氷室さんとこの嬢ちゃんじゃねぇか。 この前は、世話になったな」


「いいえ、何もしてませんよ」


「そうか? 嬢ちゃんの世話になったって、俺は思ってるぜ。 あの柿の木な。あそこのばあちゃんが、生きてる頃は、ばあちゃんが枝を折るときも、実をもぐときも、木に話しかけてやると、不思議と怪我しなかったんだ。無断でやって、怪我しなかったのはセイだけだった。嬢ちゃんが木に話しかけているみたいに、俺はあの時見えたんだけど、違うのか」


すっげ。


竹中さん、力無いのに、自分の感覚でそこまで悟っていたなんて。


「さぁ?」


「まぁ、良いけどよ。そうか、ここの生徒だったんだな」


「はい、竹中さんはどうして、ここに?」


「何か、ここの学園長から、柿と栗の手入れを頼まれてな。 嬢ちゃん、居るか? ここのは、半分は渋柿で」


「要ります。干し柿します。手伝いますっ」


「そうらこなくちゃな。 着いてきな。 いつも、食べきれねぇから、殆んどくれるから、遠慮すんな」


「はいっ」



その日は、竹中さんの仕事をみんなで手伝って、沢山の栗と甘柿と渋柿を貰った。


竹中さんは、他にも、行く先々で貰えるものだからと、かなりの分け前を私達にくれた。


そして、作業の、合間に学園に育つ、季節折々の木の実について、教えてくれた。


春の木は、梅、杏。


初夏にビワ。


夏の終わりにザクロ。


秋には栗と柿。


冬は金柑。




四季折々の木が植えられているんだな。


あんまり校内を散策した事がなかったので気づかなかった。



「昔、食糧難だった頃に沢山植えて、それで重宝していた頃もあったんだけど、今は、手間のかかる食い物は余る時代になって、だぁれも忙しなくなったって20年くらい前から、俺がやってら」


20年か⋯⋯。



「前は、生徒がしてたんですか?」


「あぁ、確か。園芸部みたいのがやってたらしいが今は、廃部になったって聞いたな」


「竹中さん、今教えてくれた以外に、他に収穫できる樹木ってありますか?」


「あぁ、あっちの隅の銀杏ぐれぇだ」


「銀杏か⋯。分かりました」


「ありがとうございます。今日⋯竹中さんに会えて良かった」


「あぁ、俺も予定の半分の時間で仕事が終わって、こっちこそ、助かったぜ」



笑顔で竹中さんと別れ、私と鏡子ちゃんはセイレンチャンと三人で生徒会室へと向かった。



「エッと、かなりの道草くっている……そう思ってはいたけど、何か凄いもの持って来るね」


「道草喰わずに全部拾って来たって事か?」



放課後から2時間ばかり過ぎていて、今日は学校側の事情による短縮授業で3時前には授業終わっていたので、二人はかなり私達を待っていたと言うことになる。



「どうしたのその食材。まさか、部活の許可は貰えてないのに、食材だけはどんどん貰えるね?」


「あはは、放課後、私の知り合いの植木屋さんにあって、一緒に学校の庭木を手入れをしていて、で、お裾分けで……いただきました」


「今度は、純粋に君絡みのものか」


「はい」


私の返事に、柚木崎さんは苦笑いした。


「そんな事してて、君達本当に、クラブ創部を成就出来るのかな? 僕と宇賀神は来年の一学期までしか、在部出来ないんだから、真面目にやってよね……まあ、一応、怒ってないって意思表示も含めて、かっこわらいってつけとくよ」



いや、柚木崎さん、珍しく、控えめで、非常にソフトだが、これは、お小言だったと、私は受け取って息を飲んだ。



「それにしても、学校ってこうしてみると色々食べられるものが一年中、なるんだね」


セイレンちゃんが言った。


「栗とか、柿とか、今ある分だけじゃなくて、一年中、何か収穫出来るのに、今は手付かずなんて、勿体ない」


鏡子ちゃんが言った。



「私なら、全部、残さず収穫して食べるけどね」



前は本当に、ご近所さんからもらえる食べ物は、喜んでいただいていた。


いや、食い繋いでいた。


お陰で我が家の僅かな事業収入で占めるエンゲル係数はとても低かった。


主に、米(貰い物でもやっぱ買わないと駄目だった)と調味料だった。


おやつも、果物を加工して賄っていた。



「えっ、りりあちゃん。これ全部、食べられるの?甘柿は、ともかく、栗とか渋柿は、そのままじゃ食べられないよ。甘柿だって、結構な量で食べ切れるか……」


そう言葉を濁すセイレンちゃんに私は笑った。


「ええっ、栗は甘露煮にして、栗ご飯とか栗きんとんにして、渋柿は漏れなく干し柿にして、甘柿は実のかたいやつを生酢に和えにしたり、サラダにしたり、色々あるじゃん」


「えっ、私、思い付いたよっ。此れだっ。ねえ、りりあちゃん、鏡子ちゃん、私、思い付いたよっ」


セイレンちゃんが、何か、創部の突破口になる考えを閃いたようだった。






「お前は正気か?」


「はい、正気じゃなかった事に、覚えがないのて、正気だと思いますが?」


「はっ、だったら、片腹痛い。 お前に、尋ねた俺がどうかしていたな」



辛辣が過ぎる。



「でしたら、遊園地にでも……連れて行ってくださるんですか? 私も、土日に友だちと遊んだりも、したいですって。……って。……回りくどい、交渉は卑怯なので、今のナシです」


「どういう意味だ」


私は、話を引き上げようと思った。



「大きな無理難題を言って、本題の無理を通そうと思い付いたんです。 魔が差しました」


いや、交渉は熾烈を極めることは想定していた。


「遊園地は虚偽か?」


「……はい」


「小賢しい。……で、お前は、何故、躊躇った」


「言ってすぐ、さっきも言いましたけど、卑怯だと思って嫌になったんです」


私がそう言って俯くと氷室さんは溜め息をついた。


「平日に家庭科室で済ませられんのか?」


「仕込みの関係上、前の夜から、料理を始めたいんです。」



 全部の工程は無理でも、肝心なところは、ちゃんと3人で取り組んで、学園長の所で、創部を願うとき、ちゃんと3人で考えてそれをやり遂げたって実感できるようにしたいと熱弁した。



「お願いです。日曜日の午後、セイレンちゃんと鏡子ちゃんを家に呼んで、一緒にお料理させて下さい」


「……分かった。俺は、書斎に居る。何かあったら、必ず呼べ。間違っても、二人のうち、どちらかが倒れた時、早まって119番するな」


「えっ、氷室さん、私達が家で遊ぶ為だけに、当日、家に居てくださるんですか?」


「当たり前だ。家に監督者が居ないのに、子供だけで遊ばせる訳には行かないだろう」



飛んだ子供扱いだが、向かい合って話す氷室さんに、世に言う父親の背中を見た気がした。


氷室さんのお父さん、お母さん。


お姉さんのかえさん。


私、氷室さんにちゃんと親代わりして貰って、子供のように面倒見て貰ってます。


と、感動の念を抱いた。




















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