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第33話 有象無象 の 無双の 真相

※有象無象【取るに足らないくだらないものの集まり】 




チェリーブロッサムで合流した要さんは、テンさんのワークショップに一人で居た。



それには意味があって、まだ、私たちはやらなければならない事が残っていた。


私が事情の説明を終えた後。


意識の無いテンさんは、氷室さんが呼んだ菅原 慶太さんが迎えに来て、抱いて行った。



【うまく、説明しとくよ。ありがとう】



事情を知らない慶太さんは、そう言い残して去って行ったが、お礼を言われる筋合いは無いのだ。


私だって、それ位は分かる。



「テンちゃんじゃ無かったら死んでた。なんて、言えないね」


「あぁ、だが、こんな事は、これ限りだ。りりあ、良く聞け」




「はい⋯」



「今後、一切、自分の身柄やイノチを、誰とも、やり取りしては、ならない」



男は、【人質のイノチを胸に刻め】と言って、本当に、人質を殺した。


なのに、何でだ。



「見捨てろ。見殺しにしろ⋯⋯と言うことですか?」


私の言葉に、要さんが答えた。



「そうよ。 じゃないと、ここに生きとし生ける総てが、アナタの人質になりうる事になる。 だから、私達は、そう言う事に身を委ねては、いけないの。もしも、それが、例え、私であっても、私の娘のイノチであっても」


要さん、何を言い出すんだ。


「出来ない、ダレカのイノチと引換えに誰かがイノチを落とす位なら、自分なんて要らない」


私の言葉に、氷室さんは静かに言った。


「だったら、覚えておけ。もしも、お前と引換えに救われたイノチがあれば、俺が、それを殺す。 だから、やめておけ」


何だよ。


その無茶苦茶。


「りりあちゃん。 イノチのやり取りは、弱みを見せたら、終わりなの。 りゅう、そうよね?」


要さんは、りゅうの名を呼んだ。


そして、目の前に、りゅうが現れた。


要さんの呼びかけに応じる事に驚く反面、要さんと鏡子ちゃんがりゅうの子孫であればこそ、納得できもした。


「何だ。二人揃って、りりあに説教か?」


能天気なもの言いで、私の前に来て、りゅうは言った。


「りりあ。 お前は、【最愛】だ。災いでは無いだろう?」


「災い?」



「お前と引換えに出来るイノチを作るな。 ここの住人にしてみれば、そっちの方が迷惑だ。 お前は、ここに何人、自分と引換えに出来るイノチを持っている?」



りゅうの言葉に、私は、呆然とした。


ここで出会った全ての誰を引き合いに出されても、私は、誰も死んで欲しくはない。


なのに、その誰もが、いつも何処にでも居るなら。


今日みたいな状況を作るのは、造作も無いことだからだ。


私は、今更、恐ろしさのあまり、両腕を胸に組んだ。


「守りたいものが、多過ぎる」


「今更、だ。 阿呆っ……。 りりあ、この世はそもそも、有象無象のより集まりだ。何処にでも、容易く、イノチを失うか弱きものだらけだ。 お前は、自分のイノチやカラダの使い方を間違うな、惑わされるな」



そんな事言われても。



「どうすれば、良いの?」


私の真面目な問いかけに、りゅうは、自信ありげに私に言った。




「⋯⋯相手の話しに乗るな。 聞き入れるな。 今夜の龍一の判断は正しかった。 人の生き死には、脆く儚い。 昔のお前は、弁えていた。 龍一だけで無く、俺からも言って置こう。りりあ、お前のイノチもカラダも、全て俺のモノだ」


「「そ~れ~は、違うっ!」」


りゅうの言葉に、要さんと氷室さんが声を合わせて、突っ込みを入れた。





「りりあちゃん。スマホ見つけてくれて、ありがとう。 何か、変な奴らだったんだよ。 宇賀神先輩の狐憑きの時みたい。 すっごい嫌な雰囲気が似てたんだ」


「宇賀神先輩とこがねが、学校から大鏡公園まで転移させて来た時みたいだったの」


私の言葉に、シュウっと目の前に黄色の光が放出されて、そこから、こがねがキツネの姿で現れた。


「呼んだか、りりあ」


「えっ、こがね、宇賀神先輩と修学旅行行かなかったの?」


「あぁ、興味ない。留守番していた。 好き好んで、目ぼしい女も連れずに遠出は無い」


「いや、うち、共学じゃん。女の子いっぱい居るじゃんっ!」


「タイプは居らなんだ」


さよか。


「で、何の話をしていた」


「さっき、変な奴らに鏡子ちゃんが襲われた時、こがね達に襲われた時みたいに、鏡子ちゃんが転移させられたの。 あれって、どうやったの?」


私の質問にこがねは、顔をしかめて言った。


「⋯⋯召喚だ。 あの時はお前達の四方を魑魅魍魎で囲って、転移の呪詛を組んで放った。 呪詛の得意なモノじゃないか?」


呪詛が得意。


まぁ、大鏡封じる事の出来る呪詛者が犯人なら、朝飯前だろう。


「気を付けなきゃな⋯⋯」







家に帰ると、時刻は2時を回っていた。


氷室さんの車を降りると、氷室さんも車のエンジンを切って、降りて来た。


「鍵、持ってない」


私の言葉に、氷室さんがため息混じりに言った。


「だろうな」


氷室さんの鍵で中に入ろうとすると、氷室さんがわたしを抱き抱えて家に上がった。


「きゃっ、えっ?」


「騒ぐなっ、ジッとしてろ」


氷室さんは靴を脱いで、ずかずか廊下を進む。


揺れる。


私が氷室さんに落ちまいとすがり付くと、ビクッと氷室さんがカラダを震わせていた。


驚きたいのは、こっちだ。



そして、氷室さんはバスルームまで来ると、洗い場に私を降ろした。



「もう、遅い。足を、洗って。早く寝ろ」



私は素直にバスルームで足を洗った。


おびき寄せられて、裸足で転移して、チェリーブロッサムでサンダルを借りるまで、ずっと裸足だったからだ。


バスルームから、リビングに戻ると氷室さんが、お茶を飲んでいた。


氷室さんの存在にホッとしてしまう。


一緒に居てくれるだけで、安らげる。



「早く寝ろ」


私は氷室さんの言葉に返事をせず、リビングのソファに腰を下ろした。



「りりあ」



氷室さんは、私の前にやって来た。


「氷室さん⋯⋯。ごめんなさい」


謝る私に、怪訝な顔をして、私のもとに来て、尋ねてきた。


「もう、良い。 今日は、眠れ」


私は、氷室さんの服の裾を掴んだ。


「氷室さん⋯⋯」


「何だ?」


いや、眠れ無いんだ。


部屋にもあがれないんだ。


今、一人にされたら、発狂してしまいそうな位、怖いんだ。


「何だ。その手は⋯⋯」


私は服の裾を引いた。


「隣に、座ってくれませんか?」


私の言葉に、氷室さんは隣に素直に座ってくれた。


「言う通りにした。後、どうすれば、お前は寝るんだ?」


隣に並ぶ、氷室さんには、敢えて視線を定めず、まっすぐ前を見たまま言った。


「怖くて⋯⋯眠れません。 私を、一人にしないでください」


私の言葉に、氷室さんは、返答に時間を要した。


「安心しろ。ここに居るうちは、安全だ」


「⋯⋯でも、一人は嫌なんです。 氷室さんのそばに居たい」



つべこべ言わずに早く寝ろ的な。


却下の宣告を待つばかりだが。




「お前は、つくづく俺を、男だとは、思ってないんだな」



氷室さんはそう言って、私の背中を抱きしめて自分の胸に私の背中を寄りかからせた。


抱きしめられる力が強くて、ちょっとだけ苦しいが、心地良かった。



「わたしは、氷室さんが」


私は、柚木崎さんの恋人だ。


私の恋人は柚木崎さんだ。


でも、どうしようもないくらい。


氷室さんの事が好き。



【好きだと】どうしたら、言えるだろう。


もしも、もっと、歳が近ければ。


柚木崎さんと付き合っていなければ。


否、違う。


きっと、もっと、違うナニカが邪魔して、言えやしない。


何か言わなきゃ⋯⋯。


「困らないで済むように、もっと良い子にならないといけませんね。 明日からは、頑張るんで今日は大目に見てください」


氷室さんは、何も答えず。私の登頂部に顔を埋めた。


頭の匂いは嗅がないで欲しいのだが。


ちゃんと、お風呂は夕方入って、髪は勿論洗っているが。


私の額の上の方を、氷室さんの唇が掠めた。



偶然だ。


別にキスして来た訳じゃぁない。



そう自分に言い聞かせた。



そのまま、私は眠りに付いた。


そして、朝、目が覚めると。


私は自分の部屋のベッドで寝ていた。


横向きになって眠っていた。


ベッドの先で、ベッドにより掛かるように座り込んで眠っている氷室さんと、私は手を繋いでいた。






氷室さんは、私が目覚めて間もなく、目を覚まして言った。


「これで良かったのか?」


氷室さん、ベッドの前に寄りかかって、そんな、態勢で寝て。


筋肉痛にならないか?


でも、今更、言っても、仕方ない。


一緒にほんとうに居てくれた。


私は嬉しかった。




「はい⋯⋯。ありがとうございます」


「なら、良い。 シャワーを浴びて来る」



そう言って、氷室さんは、立ち上がり、部屋を出て行った。


私は、朝食を作ってから、バスルームを出た氷室さんと入れ代わりに、洗面スペースで顔を洗って歯を磨いた。


朝食に氷室さんを呼んで朝食を摂った後、、いつも通りの休みの日のルーティンで、料理をしながら、のんびり、掃除をして過ごして、昼食の後、プリンを並べて紅茶を淹れて、氷室さんに声を掛けると、私のデザートに付き合って一緒にプリンを食べる氷室さんは、私に言った。



「入札は18時からだ。 夕食はもう一度、ソウさんのスパイスカレーを食べたい」


えっ、正気か?



「連れて行ってくれるんですか?」


「留守番したいなら、無理強いはしない」


「行きたいですっ。 今日も、夕飯はスパイスカレーが良いです」



昨日あんな事があったのに。



正に、これから向かうチェリーブロッサムで、


チェリーブロッサムの関係者であるセイさんの妹を


私の軽率な行動でイノチの危険に晒したのに


なのに、行っても良いのか?



でも、氷室さんが連れて行ってくれると言うなら、と私は氷室さんの申し出にそのまま甘える事にした。



氷室さんに連れられて、チェリーブロッサムに行くと、昨日と変わらぬ賑わいに少し胸が踊った。



「氷室さん、りりあちゃん」



しばらくチャリティー会場を回っていると、雑踏の中で、そう呼び止められた。


テンさんだった。



「テンさん。具合はもう良いんですか?」


「うん、昨日は、ありがとう。良かった。お礼、言いたかったの」



屈託無く笑うテンさんに、私は泣きそうだった。


だって、違うんだ。


私のせいで死ぬところだったのに。


違うのに。


私は、必死に顔に感情が出るのを堪えた。



「テン、お前、店は良いのか?」


氷室さんの言葉にテンさんは、両手を脇腹に組んで、えっへんのポーズを取った



「在庫完売したんだよ。 今から、私はフィーバータイムだよぉおお!!」



何だ、そのけったいなタイムは。



「りりあちゃん、鏡子ちゃんとセイレンちゃんはもう、先に行ってるの。うちらも、行こうっ! ソウ兄がみんなでケーキ作って良いって言うんだよ。 姉ちゃんが、朝からずっと、ケーキ焼いてんだ。 行こう、特大アイスケーキを作りにっ」



テンさんに手を引かれて、氷室さんから遠ざかる。



「テンっ、りりあを連れて行くなっ」


「じゃあ、氷室さんもおいでよっ。あははっ、顔に似合わず、甘い物好きな癖にっ」



屈託無くても、無邪気でも。


背筋が凍るような大胆発言に私は、呆然とテンさんに連れて行かれるままで。


氷室さんは、かなり、怒りのボルテージを溜めた表情ではあるが、黙って私達の後をついて来るのでホッとした。



「りりあちゃん、良かった」


「氷室さんも一緒だ。安心だね」



テンさんに、連れてこられたのは、チェリーブロッサムの食堂の調理場で、何故かセイさんだけでなく、ララさんがいた。



「りー、久しぶり。 昨日、何か大活躍だったらしいんじゃん。 ありがとね。 ウチラが大暴れしているのに、便乗して、何か要のアネゴの娘さんとテンちゃんが連れ拐われたんでしょ? ごめんねぇ~、マジ、感謝いつか返すよ、この借りはさ。  私ね、ここで平日働いてんの。 私の職場へようこそっ。先月、育休から復帰したばっかだけどね」



まじかっ。


そう言えば、結婚して娘がいる云々学園長が話してた。



「えっ、暴れたんですか?」


「そうよ。スッチーがカミのイカズチかよってレベルの本物の雷を脳天に落として来て、気が付いたら、そこのりーの保護者に地面に押さえつけられてて、正気に戻ったんだよ」


初耳だ。


スッチーって、菅原先生だよね。


だったら、カミのイカズチかよっじゃなくて、正たそれは真正銘の神の雷だ。


よく無事だったな。



「ララさん、何に腹を立てたんですか?」


「何かね。 阿修羅は滅びろって、前に一悶着あった奴らが、親分再起不能にされたお礼参りに来たんだよ。 ここを燃やしてやるって言ってさ。アハハ 」


ヾ(@゜▽゜@)ノ



あはは、じゃないよ。


えっ、菅原先生と氷室さんで止めに入るなんて。


そう言えば、鏡子ちゃんとテンさんが連れ拐われる随分前から、氷室さん出て行ってたけど、最初はこの件での外出だったのか?



ララさんは、シュウさんと並んで、奴らの前で我を失ったのだと言う。


【折角、手に入れた。 大好きな奴らと、そんな大好きな奴らと、ずっと一緒に居られる遊園地付きのここを燃やす? やってみろよ。デ・キ・ル・ナ・ラ? 例え、阿修羅になってでも、お前ら誰も逃がさねえっ】


薄れ行く自我の中で、ララさんは、シュウさんの声を聞き、その意に沿うと思ったのだと言う。



「そいつらさ、みんな地べたでピクピクしてたんだよ。私はシュウとカラダ一つになっててさ。 そんで、取り押さえられて、地べたに抑えつけられてたのに、ところどころ、焦げててさ、ウケるよね? 怒りが落ち着いたら、元に戻って良かったんだけどさ」


いやっ、全く笑う所がないのだが。


「阿修羅にだって、なってでも? 阿修羅は三文字ですよね?」


「あぁ、阿修羅ってさ、子供の頃、夢でシュウと一緒に貰った、誕生日プレゼントだよ。 6歳だったのに7つになるお祝いだってさ。シュウより、1日、誕生日が遅いから、本当は私は次の日だけど、双子だから、一緒にしてやるって、貰ったの。何か神にもしてやるから、階段を登れって言われたんだけど、遊園地行くから、そのまま帰ったんだ」



正気が全く介在しないな、この二人は。


それは、神の洗礼じゃないか?


遊園地を理由に、断ったって……本当にこの人達は。


って、三文字の祝福と言う事なら、昨日、男が話していた滅ぼす奴リストのひとりじゃないかっ。


あんたら、ヤバい奴って言われてたよ。



私がわなわなしながら、氷室さんの所に行くと、氷室さんは私に言った。



「因みに、後二人の二文字の祝福者は、もう一人の俺と柚木崎だ」


何だよ。


何でも、知ってるんだな。


つまり、後の二人は、りゅうとりょうって事か。


何か、色んな意味で、滅ぼしたいという気持ちには賛同出来ないが。


ヤバい奴と言う認識に付いてだけは、激同だ。


私も、もし敵に回したら、そう思うだろう。



「因みに、二人の祝福は、何ですか?」


「それを知る必要はない」



知りたいのに、その答え方は、喰い下がっても無駄な答え方だ。


もう、これ以上は聞かないことにした。



「さあっ、ケーキ作りだよっ、みんな並んで」


長テーブルに縦1メートル、幅2メートルを鉄板の枠を置いて、セイさんはみんなに言った。


「ありったけの予算でお菓子とフルーツを買って、ありったけの時間でケーキとクッキーを焼いたの。 これでアイスケーキを作ります」


アイスケーキって何だ。


ララもテンさんも、鏡子ちゃんもセイレンちゃんも、私もセイさんの話しに耳を傾けた。


甘い匂いが充満していて、幸せだった。



砕いたクッキーや甘いシロップに浸したスポンジケーキ。


酸味の強い杏シロップに浸したガトーショコラ、チーズケーキ。


それを先に敷き詰めて、その上にフルーツやマシュマロやドライフルーツを混ぜ混んだホイップクリームを被せる。


それを冷蔵で冷やして、出来上がり何だそうだ。


アイスクリームケーキではなかったが。


こんな大きな鉄板一杯にケーキを作れるなんて、魔法みたいだった。


「チャリティーバザーの目玉の絵の入札の後で、無料で振る舞うから、楽しみにしててね」




セイさんって、本当に凄い。


これ、今度、家でやってみよう。


凄い簡単だった。



「りりあちゃん、私ね。昨日、実は起きてたんだ。 ちょっとだけだけどね」


テンさんが、ケーキ作りの最中、何でも無さそうな素振りで小声で私に言った。


「えっ、本当ですか?」


「うん。りりあちゃんが、氷室さんと要さんに何があったか説明してるとこで、目が覚めたんだよ。 私ね、氷室さんに、前にイノチを救われてるの。 だから、気にしないで良いよ」


「えっ?」


「私は、目に見えないお化けは怖くないの、時々、悪夢にうなされる事はあるけど、夢は私に危害を加える事は出来ない。 私は、人の愛が怖かったんだ。 愛して欲しい。 愛されたいって、いつも願ってた」


テンさんは、ずっと、ずっと昔、いつも仕事が忙しい親に、もっと愛されたくて、無理に頑張って、我慢して、本当の自分でいることを諦めていた。


けど、それが、ある日、嫌になってしまって、死のうと思ったのだそうだ。


そうして、ある日、手当たり次第の薬を飲んで、大鏡公園の片隅で倒れていたところ、氷室さんが見つけてくれたのだと言う。



【愛されたい】


もっと、愛されたい。


でも、これ以上は、頑張れない。



氷室さんにそれを伝えたら、氷室さんはテンさんに言ったと言う。




【愛さなければ良い】


自分を殺してしまう様な愛は、諦めてしまえ。


もう、これ以上、無理をするな。





氷室さん、身も蓋もない事、言うなぁ……。


私の感想は上記の通りだが、テンさんはその言葉に、吹っ切れたのだと言う。




「私、もう怖いものは、無い。 昨日だって、お姉ちゃんと氷室さんが助けてくれたしね」


「えっ?」


「ハシビロコウのぎょぎょんちゃんは、お姉ちゃん。 ハリネズミのハリボーは、氷室さん。 マジ、私の無敵のお守りだよ」


(*゚∀゚)=3  はぁああああ



自分のお姉さんはどんな精神的ストレスも災難にも無敵で


どんな相手にも、どんな困難にもめげずに


最後は、乗り越える最強メンタルの持ち主なのだそうだ。


ハシビロコウの様に、いつも、一貫して、気だるそうに世の中を静観してる、変人何だ、と。


誉めているのか、貶しているのか?


実の姉だろ? とも、思うが。


でも、【お姉さんの事、好きなんだ】と思えた。



氷室さんは、どんな状況でも、唯我独尊で


いつも、どんな状況下でも、孤独を孤独とも思わず


1人で自分の好きに生きている自分の理想とする人物なのだそうだ。


孤独を孤独とも思わないハリネズミみたいなのだ、と。


今まで、龍とばかり、氷室さんの事をそう思い描いていたが


言われてみると、確かにハリネズミは


氷室さんの人柄によく当てはまる。


よく氷室さんを見ている。


私は、感心した。




時刻は、18時。


11月に入ると、もう外はすっかり夜だった。


「では、今回のチャリティーバザーの絵の入札発表を始めます。 まずは……」


チャリティーバザーの会場のステージで、ソウさんの司会で、絵の製作者の遥さんが引きつった表情を浮かべていた。


夕方の情報番組福岡キラキラマップの収録が行われているのも、あってかなりの人だかりの中、絵の落札発表が行われていた。



「美咲、マリアンヌ。俺を撮るなよ」


「分かりました。氷室先生、私達も仕事です。だったら、映らないでください」


「だから、撮すなと……」



何か、氷室さん、キラキラマップのリポーターさんと仲良くないか?


と、疑問を浮かべつつ、私は、絵の落札の模様に耳を傾けていた。


「では、続いては、今回のチャリティーバザーの目的でもある、大鏡公園のチンチン電車の遊具を描いた。 【大鏡の白昼夢】 落札は氷室 龍一税理士事務所、氷室 龍一。 落札額は……50万、ワァオ……俺が負けた」


ソウさんも、名前書いてたもんね。


つてか、50万なんて、良いのか? 氷室さん。


私がわなわなして、傍らを見ると、氷室さんもわなわなしていた。


冗談だったか、50万。


だったら、私が払う。


そう思ったが、違った。


「会場に向けるカメラを下ろさせろ。 良いか、俺が絵を受け取るところを撮すな」



絵を取りに行きたいが、カメラに撮られるのが嫌なのが、わなわなの理由か。


気持ちは分かる。



「無理言わないで下さい。……うまく編集しますから、早くステージにあがってください」


キラキラマップのリポーターさんは、そう言って、氷室さんの凄みにあくまで、動じなかった。


この人、只者じゃ、無い気がする。



「続いて、これが最後の作品になります。 このチェリーブロッサムの遊園地前のイメージ画です。題名は【桜木町の夢、遊園地】落札者は、何と桜木町出身のラジオDJ サクラ、落札額は1000万。⋯⋯ばっ、おまっ、正気かよっ」


ソウさん、驚くの分かるけど、素が出てるよ。


夕方の情報番組に取り上げられるだけの話題性と金額だ。


本気か?



「くっそ、サクラのやつ、エグい金額出しやがって」


「もう、ユウジのへそくり根こそぎつぎ込んだのに全然勝ち目無いじゃん」



不意に隣で聞こえた声に、視線を移すと、ララさんと、子供を抱っこした男の人に目が釘付けだった。


あの絵に、二人だけ、誰かわからない男の子がいたが、その一人の男の子の特徴によく似ていたからだ。


そして、絵を落札した人物は、今や東京でタレントとしても活動していると言う件のラジオDJ サクラと言うらしいが。


中性的な見かけの男の人で、何と、最後に残った絵のモチーフ不明の男の子に似ていたんだ。


全員、遥さん、知ってて書いたのか。


シュウさんとララさんのトモダチ全員。


晴れ晴れとした顔で、満面の笑みを浮かべた壇上の落札者は、透き通った声で言葉を紡いだ。


「シュウ、俺とみんなの夢を叶えてくれて、ありがとう。もう戻れない、思い出を実現してくれて、ありがとう。 今度は、俺がお前の夢を叶える手伝いをさせてくれ。子供の頃は、辛いことがあっても、悲しくても、楽しい事も、嬉しいことも、全部引っくるめて、【泣いても笑ってもキラキラ光る】良い思い出だ。 これからも、ここで大人になるみんなに光り輝く夢を作ってくれ」




余談だが、後日、オンエアされた番組収録に氷室さんはテレビ局に直でクレームを入れていた。


絵の落札の折り、うまく編集すると言ったリポーターさんは、その通りにVTRを巧みに編集して、あろうことか氷室さんにモザイク処理を施してオンエアしたのだ。


悪いが、私は悶絶するほど笑い転げた。


翌日なんて、教室で鏡子ちゃんとセイレンちゃんとも、漏れなくオンエアを観ていたので、もう思い出し笑いが止まらず。


次いで、教室に入って来るなり菅原 先生まで、昨夜、オンエアを見てしこたま笑ったんだよ、と言いつつ。


私達の笑いように、一緒になって思い出し笑いが止まらなかった。



「美咲をだせっ」


「何処の世界に撮すなと言って、頼んだものを、モザイクして欲しい奴がいる? 俺は、犯罪者か?  はっ、セイさんが前に、撮すなと言って、頼んで来たことがあるから、そっちかと思っただと? 誰が、そんなバカな事を頼むかっ」


何か、クレーム入れてる時の会話も、面白かったんだ。


何か、前にセイさんに、偶然出会って、取材を頼み込んだら、撮さないで欲しい。 『モザイクとか、かけられるか?』 と言われたんだそうだ。


その時は、セイさんの旦那さんがセイさんを止めて、顔出しでオンエアになったと聞いて、それを是非見たいと思った。


結局、何だかんだと言いくるめられたようで、氷室さんは仕方なく、電話を終えた。


色々、聞きたかったが、電話を終えた後も、ずっとガルガルしてる氷室さんには、聞けなかった。








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