柚木崎さんが、修学旅行から帰って来た日の翌日、土曜日だったのだが、私は、氷室さんに大鏡神社に車で連れて来られた。
「夕方、事務所で待ってる。 よく話しをして来い。⋯⋯あまり、羽目を外すなよ」
「羽目を外すとは?」
よく分からなかったので、尋ねたのだが、氷室さんはため息をついて、そのまま、車で走り去ってしまった。
土曜日の朝食の時に、柚木崎さんが私と1日一緒に過ごしたいと言っているが、どうする? と尋ねられ、二つ返事で快諾したが、何か氷室さんは複雑そうな様子が解せなかった。
私は、元自宅だった今は柚木崎さんの家を尋ねて、中に招き入れられた。
「りりあ、会いたかったよ」
「私も、柚木崎さんに会えて、ホッとしてます」
色んな意味で本心だった。
色々、あったんだ。
柚木崎さんが居ない間、本当に色々。
「あがって、お茶を淹れるよ。やっと、寒くなって来たね」
「今年の夏は、暑かったですもんね」
他愛ない話をしながら、リビングに行き、紅茶とクッキーを出され、柚木崎さんの修学旅行の思い出話しを聞けるものだと思っていた。
だが、違った。
紅茶とお菓子を、二つ並べて私の隣に座って、言ったのは。
「昨日ね、氷室さんから、電話でね、全部聞いたよ。僕が居ない間に、君に何があったのか。氷室さんが、その時、君をおびき寄せて連れ去った奴と、どんなやり取りをしたか。ヒッキーが要求を断った結末も、聞いた」
柚木崎さんは、隣に座る私に視線を向けた。
私は、石になってしまいそうだった。
「……柚木崎さん、私」
自分が取った行動で、とんでもない事態を引き起こして。
危うく、人のイノチが失われてしまうところだった。
柚木崎さんのお母さんのイノチを引き合いに出されても、私は、お母さんを取り返すどころか、自分のイノチを渡すとも言え無かった。
言ってはいけないって、分かっていても、もしあの時、氷室さんが私の口を塞がなかったら……。
「りりあ。何も言わないで、僕の話しを最後まで聞いて。 ヒッキーは、間違ってない。 僕も、ダレの命でも、例え、僕の母さんだってでも、キミを、それと引き換えになんてしない。出来ないよ。 なのに、 もう、何で、謝るかな、ヒッキーも。 自分が一番分かってるだろうに。 謝るなって、話しだよ」
自分もそうしただって?
だから、謝罪不要って。
そんなの無いよ。
「ヒッキー、謝ったんですか、柚木崎さんに?」
「そうなんだよ。別に、気を遣ってくれなくて、良いんだよ。 僕だって、覚悟してるさ。 母さんがイノチを失くして、返って来たとき、いつ、奪われた先で、母さんのイノチを殺されてもおかしくない。 だから、相手の言いなりには、ならないって。 じゃないと、漬け込まれたら、もう、生き地獄の奴隷になるしかない。 この世の全てに逆らえなくなる」
柚木崎さんも、納得出来るのか。
私は、氷室さんにも、要さんにも、りょうにも、説得されたが、理解は出来たが。
氷室さんが先週、本当に、やってのけた事を、自分が出来る気がしない。
人質に取られているのに、絶対、相手に屈しない、要求は飲まないなんて、出来ない。
拒絶なんて、出来ない。
「何てね。 ごめん、嘘ついた。 本当は……今更、怖いよ。君に会うまでだったら、悪魔に魂、売ってたかもってね⋯⋯。りりあ。ごめん、まだ、言ってなかった事があるんだ」
柚木崎さんは、私を抱き締めた。
私の頬に、柚木崎さんは唇と頬を寄せる。
「僕、本当は……最初、君が好きじゃなかった」
柚木崎さん、何を言い出すんだ。
「キミに会うまでの4年。 僕は、キミを、母さんが、居なくなった、元凶だとさえ、思ってた」
そ、それは、そう思われても、仕方ない。
いや、と言うか、そうなのだ。
言いがかりでも、こじつけでもなく。
正に、私のせいだ。
私の巻き添えなんだから。
「だから、僕は、君がここに戻ってくるのが怖かったんだ。 心のどこかで、どうしても、キミが許せなくて。 戻って来たら、裏切るかもしれない、とも思ったんだ」
「多分、りょうには見透かされてた。 りりあが居なくなってすぐ。 りょうは生身の人間から、生きるのに必要な、自分じゃ補う事の出来ない力を得る方法を僕に教えた。 生身に直接触れて相手の力を定期的に得れば、りょうがもし、滅びても寿命を全う出来るとね」
「そして、僕がそれを出来るようになったら、りょうは力を閉ざしたんだ。 だから、僕は、君が戻るまでの4年間、人から力を奪って生きてきた。 りょうは、もし、その時が来たら、キミの為なら、滅ぶつもりだったんだ。でも、その時、僕は、りょうが死ぬのが嫌で、君を迎えに行く事を選んだ」
最初の夜、りょうが【滅んでも良い】と言ったのは、柚木崎さんの安全が担保されていてこそだったのか。
あの時、本当に、滅びるつもりだったのか。
だったら、滅びなくて本当に良かった。
「【最愛】なんて、言葉だけの飾りに過ぎない……ただ力が強いだけの威張りん坊だと、思ってた。 でも、違った。人間の君に、最初に会った日から。今日までもこれからも、君は僕の最愛だ。今なら、絶対、裏切らないっ」
そう言ってやっと、柚木崎さんは私の唇に口付けをして、更に激しく私と唇を重ねた。
※
折角のお茶がすっかり冷めてしまったが、何とかお茶を飲んでクッキーも食べた。
柚木崎さんは、何か言いにくそうな素振りを見せて、でも、言った。
「りりあ。 ヒッキーとあれから、キスした?」
何を、言い出すかと思えば、何の話題をまたぶっ込むんだ。
「してないですよ。 する訳無いじゃないですか?」
「好きなのに、キスしないの?」
確かに、氷室さんの事を好きだと自覚したことを、私は柚木崎さんに認めた。
「しませんよ。だって、ヒッキーが私の事好きじゃないのに、そんな事したら、おかしいじゃないですか?」
「ヒッキーが、キミを拒絶してないし、おかわりでキスして来たのに、そうかな?」
おかわりで、確かに、キスされたのは、事実だ。
でも、あれは、何か嫌がってたし、力が欲しかったからだろう?
心臓止まる位、目が見えなくなるくらい。
生きる力を欲してやった、不可抗力だ。
「柚木崎さんは、私がヒッキーとナニしても良いんですか?」
私は、柚木崎さんの恋人なのに。
「良いよ。 キミが、もし、僕より、ヒッキーを愛していても良い。 僕も、愛してくれれば、僕はそれでも、構わない」
柚木崎さんは、そう言ってのけて、柚木崎さんは私の手を引いて私を二階の私の元寝室に連れて来ると、ベッドに私を座らせた。
「柚木崎さん?」
「僕がサイショで良いなら、りりあが欲しい」
ん?
サイショって、何だ。
要領を得ない私に、柚木崎さんは、苦笑いで言った。
「りりあ。 本当に、ヒッキーとナニも無いんだね」
「えっ、ナニって何ですか?」
「はは、いや、本当に、筋金入りの頑固かやせ我慢だね。 もう半年も一緒に居るのに、何にも無いんだね」
半年も一緒って氷室さんと、と言うことなら。
何も無いことはない。
「何にも無いこと無いですよ。最初は、毎日、夜帰って、朝、迎えに来てましたけど、今は殆んど住んでますよ。住み込みしてくれてます」
「ふ~ん、でも、キスしたりはしないの?」
「してません。 あっでも、こ、この前、玄関で抱き上げられてバスルームまで連れて行かれました」
「えっ、一緒にお風呂に入ったの?」
「違います。裸足で歩いたから、足を洗えって連れて行かれたんです。バスルームで放逐されました」
柚木崎さんは、何故か楽しそうに私の話しに耳を傾けながら、何故か、私の足から靴下を脱がせ始めた。
「えっ、柚木崎さん、何するんですか?」
「気にしないで。で、りりあは、ヒッキーとボクみたいに、ベッドで一緒に寝たりしないの?」
「はっ⋯⋯」
一度、寝た。
先週は、ベッドの前で手を繋いで寝たけど、大鏡公園の呪いの時。
背中を抱いて、眠って貰った一夜があった。
「あれ、否定しないの?」
「えっ、あっ⋯⋯」
「何だ。ちゃんと、する事してるんじゃん。 そっか」
柚木崎さんは、そう言って、私の肩をベッドに抑えつけた。
「柚木崎さん? 私、まだ、眠く無いです。昨日、寝てないんですか?」
「ヒッキーは、良くても、僕はダメなの?」
「⋯⋯一回だけ、ですよ。 ヒッキーとベッドで眠ったの。 柚木崎さんが私を裸にした日。 目が見えなくなって、私、真夏なのに、凍えてて。それで、心配されてたのか、その日だけ、ベッドで背中を抱かれていて。 でも、私、柚木崎さんとも、何度も寝たじゃないですか?」
お盆のみたま祭りの間、柚木崎さんが一緒に寝たいって言ってくれて、どちらかと言うと柚木崎さんとの方が寝てる。
2日間だったから、1回、柚木崎さんの方が多い。
先週のはベッドに、寄りかかって床に座り込ん出たのは、ノーカウントだ。
私が、認めない。
「えっ、あぁ、ただ眠っただけなの? そうか、だったら、やっぱ、筋金入りか。 僕より、う~んと大人の癖に……」
「えっ、私のベッドですか、素材を詳しく確認してないですけど、スプリングで入ってるかも知れません」
「うん、どうしよう。 破滅的に、話しが噛み合わないな。 もう、りりあ。 好きだよ」
柚木崎さんは、私をベッドで抱きしめて、そして、目を閉じた。
「ごめん、僕、ここを離れてたから、力が欲しいんだ。少しだけ、強めに君の力を吸わせて」
※
柚木崎さんは私を抱きしめたまま眠ってしまった。
結構な量、持って行かれて、頭がくらくらした。
「りりあ。大丈夫?」
驚かせないで欲しい。
柚木崎さんが名を呼んでいたのに、出て来ないな?
とは、思っていたが、結局、来ていたのか。
「ちょっと、ダルい」
私の返答に、りょうはそっと、私の所に来て柚木崎さんの額に手を当てた。
「少し、起きないようにしておくから、僕と、来て欲しい。立てる?」
「はい」
私がそう答えると、りょうは私を抱き締めて離さない柚木崎さんを私からゆっくり離して、私に手を差し伸べて来た。
私はりょうの手を取って、りょうに求められるまま、レンズサイドに切り替えた。
「何処に、行くんですか?」
「近くだよ。大鏡神社の中だから、安心して」
そう言って、連れてこられたのは大鏡神社の社殿の隅だった。
「りょう、りりあちゃん」
りょうの連れて来た社殿の隅で、そこの壁に手を触れ、佇む柚木崎さんのお父さんがそう声をかけて来た。
ここ、レンズサイドなのに。
「また、仕事をさぼって、いるの?」
りょうの言葉に、柚木崎さんのお父さんは肩を竦めた。
「あぁ、でも、そろそろ、仕事に戻るよ。でも、何で、りょう」
柚木崎さんのお父さんは、急に険しい顔でりょうを見た。
「どうして、りりあちゃんを連れて来た?」
りょうは、屈託の無い笑みで言った。
「僕の意思だ。 りりあを連れてここに入る」
柚木崎さんのお父さんは、私を見つめた。
「何の為に?」
「覚悟を決めて、生きて行く為だよ。 もう、相手も本腰入れて、あれこれ、本性見せて来たからね」
「本性?」
「そうだよ。 トモを奪ったのは、いつか、りりあを引換えに出来る担保になると思ってこその略奪だ。 いつか、必ず、直面する交渉の時、彼女が、見誤る事のないように。 ちゃんと、今のトモに会わせておきたかったんだ」
りょうの言葉に、柚木崎さんのお父さんは、血の気の引いた表情で唇を震わせるように、言葉を漏らした。
「友枝を⋯⋯、とり返して⋯⋯くれ。 何年かかっても良い。 ダレのイノチも、犠牲にすること無く、ダレのどんなイノチも厭わず愛する優しい彼女に、イノチを返してやって欲しい。 俺は、いつだって、肝心な時に、彼女を救えた事がない。 篠崎に呪詛をかけられ苛まれた時も、子供を流産して病院を抜け出した時も、俺はあいつに何もしてやれなかった。 今もそうだ。 自分が情けない」
子供を流産した時?
それは、柚木崎さんの兄姉の話しか、それとも⋯⋯。
※
若葉学園の孤室のように、そこは扉も窓もない密室で、灯りも無いのに、一定の視界の保てる不思議な部屋だった。
眼の前に祭壇があり、その前に仰向けになって、胸に両手を組んで眠った小柄な女性は、記憶の奥底にあった、トモだった。
その周囲に、何人もの見覚えのある人達の姿があった。
「みんな⋯⋯分魂ですか?」
柚木崎さんのお父さん
柚木崎さん
要さん
遥さん
お父さん
お母さんまでいる。
「そうだよ。君の分魂に比べれば、微々たる僅かな思念体だけど、これでもみんなかなり力を取られて、記憶に支障を来してる。生身の人間でやったら、言葉も忘れてただろうけど、みんな若葉の特別クラスだったからね」
「えっ、お母さんも?」
「そうだよ。君のお母さんは、トモのクラスメイトで親友だった。僕が、初めて、トモと出会った時、君のお母さんも一緒だった。トモは、お腹の子を流産して、お腹の中から、取り上げられるのが嫌で病院を抜け出して大鏡公園で願い事をした。既に、一度死んだイノチを蘇らせたりゅうの事を知って、死んだ我が子に、イノチを願った」
えっ、じゃあ、その流産した子が柚木崎さん。
亮一なの?
「りょうが、願いを聞き届けて、その子の中に入ったの?」
私の問いにりゅうは答えた。
「そうだよ。 僕は、柚木崎 亮一と魂を合わせた」
※
「りょうは、私に最初に会った時。本当に、滅ぶつもりだったの」
「うん。 母親が恋しい亮一には、残酷過ぎる。そう思ってた。 だから、俺は、お前には、会わせたく無かった」
りょうが、自分を俺と言った。
いつもの一人称は、僕。
私の事は、君。
いつもと違う。
でも、何か、耳に馴染む気がする。
「言葉遣いが変わった」
「亮一が、粗暴に振る舞ったら、トモが悲しむ。普段は、抑えている。 今日くらい、勘弁して欲しい」
ヒッキーは、りゅうに引っ張られてあの言葉遣いなのか?
りょうが努力して、今の優しい柚木崎さんの言葉遣いや物腰が在るのなら、その努力に感謝だった。
「俺は、元々、亮一がある程度成長してからは、亮一とは距離を置いていた。 でも、りりあの前では、素だった⋯⋯。 亮一と裏腹に、お前は俺達の言動に引っ張られて行った。つくづく幼少期の環境と言うのは、その後の人格形成を変える土壌なんだと実感した。両親と4年過ごして、俺達の色に染まら無かったお前は、別人だった」
りょうは、私の手を引いて、孤殿を出るよう促して来た。
出る直前、私は祭壇の奥に、大きく一筆書きされた言葉を見つけて、それを見つめた。
「りょう⋯⋯これ、どういう事?」
「これは、律の遺言⋯⋯。否、ラブレターだよ。 この地に封印しておいて、おかしいよな? 俺も好きだった。愛せば良かった。愛を伝えておけば、良かった。 人生で、俺は、それを唯一、後悔している。 だから、お前には、言っておく。俺も、お前を愛している」
私は、壁に書かれた文字の真意に思いを馳せたいところだったのに、りょうの言葉に、頭が混乱した。
「今更、改めて言われなくても、知ってたよ」
「そうか? お前は、俺を愛していたか?」
「うん、大好きだった。二人が居れば、後は、もう何も要らないと思えるくらい、でも、その心は、分魂が持って行ったから、イノチある限りだけど、愛してるよ。今は、みんなをって、一括りだけど、それじゃダメ?」
「それで、良い。俺は、お前が人間として、死ぬ事を選んだ事を責めない。 律も、人として、生きて、死んで行った。俺は、お前が寿命を全うするまで、幸福であってくれれば、何も望まない。 それが、俺からのお前への愛だ」
私は、りょうの前に行き、りょうを抱き締めた。
「りりあ?」
「よく分からないけど、何でだろう⋯⋯。今のりょうを、私、すごく懐かしく感じる。記憶ないのに、今、凄く言いたいの」
「何と言いたいんだ?」
「ただいま、りょう」
私の言葉に、りょうは目を見開いて、驚いた様な顔をした。
「おかえり、俺の【最愛】のりりあ」
りょうは私を抱き締め返して、私とキスをした。
※
りょうは私を柚木崎さんの元に送り、姿を消した。
私は柚木崎さんの傍らに行き、柚木崎さんの隣りで眠った。
眠っている間に、柚木崎さんは、目を覚ましていたのか、私のタートルネックの上着を脱がして、ブラも外して、何をしたんだろう?
ズボンは履いてるから、上半身だけ、何のご用だったのか。
私が服を着ていると、柚木崎さんは目を覚ました。
「ごめん、今、何時かな?」
「15時です。お昼、食べ損ねちゃいましたね」
柚木崎さんは、ベッドを降りて私に言った。
「お腹空いたよね?」
「私は、そんなには、空いてないです。もう夕食まで、良いかと」
私がそう言うと柚木崎さんは、苦笑いで言った。
「じゃあ、おやつにチェリーブロッサムにでも行こうか?」
「賛成です」
2人で、チェリーブロッサムに出ようと言う時、家に、柚木崎さんのお父さんがやって来た。
「父さん、どうしたの?」
「あぁ、りりあちゃんに、話しがあるんだ」
インターホンを鳴らして、出迎えた柚木崎さんにそうことわりを入れて、柚木崎さんのお父さんは、私の所までやって来ると、柚木崎さんに二人で話したいから、来ないように言って、二階の寝室まで行って、私に言った。
「あのね、りりあちゃん」
「はい⋯⋯」
なんだろう。
改まって。
「ちゃんと、トモは、居たかい?」
「⋯⋯はい」
私の言葉に、柚木崎さんのお父さんはちょっと微笑んだ。
「どんなだった?」
「眠ってました。みんなに、傍で見守られながら」
私の言葉に、柚木崎さんのお父さんは、今度は、一度、息を吸って、改まってから言った。
「俺も、ちゃんと、そこに居た?」
「はい、勿論です」
そう言うと、柚木崎さんのお父さんは一瞬だけ、泣き笑いの表情を浮かべた。
「ありがとう。そう言えば、この前、学園祭の時、慶太が、ヒッキーに生徒会の集合写真を奪われて、生徒副会長になったご褒美に見せてあげる約束が果たせなかったって頼まれてたんだけど、ほら」
そう言って、L版の写真をラミネートしたものを私に見せてくれた。
「やだ!! え、みんな若いっ!! 会長がヒッキーで、副会長が柚木崎さんのお父さんと、慶太さん。あれ、私のお父さんと、この女の人は?」
私の言葉に、柚木崎さんのお父さんは顔をしかめて言った。
「君のお父さんは生徒会書記だった。もう一人は、生徒会の会計だった。カノジョの名前は、篠崎 茉莉愛【しのざき まりあ】。学園祭での襲撃の時、倒れていた子にそっくりだ」
柚木崎さんのお父さんは、これは複製だから、と私にその写真をくれた。
私は、その意を無言で汲んで、お礼を言って受け取った。
話しを終えて、二人で下で待つ柚木崎さんの元に戻ると、柚木崎さんは訝しげに私達に尋ねた。
「二人とも、僕を除け者にして、何の話ししてたの?」
「あぁ、2つ歳上の女性にモテモテの先輩と、24歳も歳の離れた無愛想なおっさんとの事で、悩みがあったら、いつでも、相談においでって言っただけだよ」