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第29話 浅蔵家-騎士

「――例え、文明や星が破壊されたとしても人間という種が存在出来るのであれば、他の生物の命を絶やしてでも、別次元を崩壊させてでも、宇宙の法則を乱してでも、存在という概念の天秤が崩れようとも『人類の存在』を優先するガーディアン……だと?」


 壬剣は騎士とは人や星、はたまた世界に生きる全ての生物を救済するシステムだと考えていたが、そんな生ぬるいモノではなかった。


 人間という種が存在するのであれば、その他の存在が消えても構わないレベルのシステム、それが騎士。


「その判断基準は騎士紋章にある、か」


『テストを行っている次元内のうち、人類が滅亡した第一次元から第四次元、人類が生存している第五次元から第十六次元までの平行世界の善悪をデータベースとして構築、事例を吸い上げ、人類存続の脅威となるモノを排除する。それが第零次元に存在する《ナイトメアスレイ・システム》であり、過去現在未来、空間に関連性はなく、脅威のみを的確に判断する』


「また――」

 と、文章は続ける。


「騎士はナイトメアスレイ・システムから逃れる術はなく、人類の脅威となる存在は必ず消滅する事となる」


 どういう事だ。

 壬剣は必ず消滅するという文面に違和感を感じる。


「騎士が任務放棄、または敗れた際は騎士鎧が騎士を飲みこみ、強制活動に入る……?」


 強制活動モードにより、必ず脅威は消去されるとの事らしい。


「消滅後、強制活動モードは解かれるが騎士の意志を反して起動している事や肉体限界を超えての活動の為、これまでの生存者は無し……」


 つまりこれは壬剣と凛那が黒騎士討伐に失敗すると、己の騎士鎧に飲み込まれ、黒騎士を討伐後に、


「――命を落とす」


 と、同意義の内容だろう。


 どうやら騎士が『主』となるのではなく、騎士紋章が『主』として決定権を持っているに等しい様だ。脅威を排除するためにどんな手段を用いても良いが、脅威に対して拒否権も退路もないという事だろう。


「という事は黒騎士は黄玉騎士の強制活動モードか?」


 だがそうなると人を襲う理由が分からない。

 脅威のみを倒す強制活動モードならば、あの状態はなんだというのだろう。


 騎士鎧についての詳しい内容もあり興味をそそられるが、今は次々とページをめくり、黒騎士の手掛かりを探す。

 ――と、ある部分で手が止まり、壬剣は内容に目を落とす。


「騎士の意志が折れた状態は騎士鎧に身体・精神が耐えられず、騎士鎧に侵食される状態となる、か」


 騎士鎧は騎士の心が失われた場所から侵食していき、全てが浸食されると心喰状態となるらしい。すると騎士鎧と紋章は輝きを失い漆黒に飲まれる。人類を守るための騎士が人類を喰らう黒騎士となる内容が記載されていた。


(どれほど他の書物を探っても、黒騎士と似たような魔物が見つからない訳だ。やはりあれは元騎士であり、騎士として生きる事に絶望した黄騎士に他ならない)


 騎士を救出する術があるのか確認したがそれらしい方法はなく、黒騎士を討伐する以外に活動を止める方法はないらしい。


 そしてこれらの事実は騎士たちの士気に関わる為、騎士団長以外、安易に目を通せないように禁書とする内容が綴られていた。


 大体分かってきた。

 ここ最近の流れをまとめるとこうだ。


 黄玉騎士の騎士紋章を持つ人物が四桜市に足を踏み入れた。何かしらのきっかけがあり、黄玉騎士は騎士としての意志を失い、黒騎士へと変化。黒騎士の変化と共に人類の脅威を感じ騎士になったばかりの壬剣と凛那の騎士紋章が反応し、討伐命令が発令された。


 そして黒騎士討伐に失敗すれば、黒騎士に侵食された赤槻昂我はレプリカとして黒騎士の手下となり、騎士二人は強制活動モードに入り、二人を殺し、騎士たちも命を落とす。


 これがこの話の結末。

 喉がカラカラだった。唾を飲み込もうとするが、上手く飲み込めない。

 壬剣は手に持った漆黒の本を置く。


 騎士としての役目は人類の脅威が現れた時、それを排除する事。

 父親から騎士紋章を受け継いだ時、イメージ通りの騎士の役割に胸は高鳴った。


 受け継ぐ前は脅威など現れるとも思っておらず、ただ勉強やスポーツに明け暮れ、そのまま企業に就職し、毎日働いて家族を養い、ただ死んでいく――そう考えていた。


 それはただの高校生がイメージする『何となくの未来』と同じだった。それがレールに敷かれているとしてもそれが正しく、それが幸せなのだと考えて生きていた。


 しかし分かりきった未来に対して何処か退屈な印象を受けていたのも確かだ。

 大小のトラブルはあるだろうが、大体は分かりきった平穏な未来予想図だろうと。


 騎士紋章を受け取ったとき胸が高鳴ったのは、それを打開できると実感と可能性が生まれたからだ。もしその時が来たら騎士鎧をまとい、勇敢に戦って人類を守ろうと思ったから。


 騎士の気高い意志に突き動かされていた。

 誰かを守ろうとする意志が、こんなにも気力を湧かせてくれるとは思わなかった。


 だから黒騎士が出現した時、不謹慎にも『ついに来た』と思ったのだ。

 奴を倒し、父親を越え、人々を守り、自分の運命を自らの手で切り開いて行こうと。


 だが実際はどうだ。

 黒騎士や機械人形と対峙し、殲滅どころかまともに戦えない。

 それどころか騎士紋章や騎士鎧の本質を知らず、運命に翻弄されようとしている。


 自らの命が天秤に掛かっている事を知り、改めて事の重大さを身を持って知った。


 壬剣と凛那は騎士のシステムに取り込まれてしまったのだ。

 この状況を打開するには、騎士鎧の力を使いこなさなければいけない。


 ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》以外を開発または発見しなければ、この先、生きる術はない。


(そうと分かれば、ここで立ち止まってもいられない。もっと騎士鎧を扱いきらないと)


 父親のデスクから離れようとした時、まだ読んでいない本がある事に気がついた。


 黒騎士とトパーズの関連性は確認できたが、騎士に関する禁書があったのも確かだ。念の為、この本にも目を通しておこうと手を伸ばす。先ほどの禁書のように施錠されていないので、そのまま表紙をめくろうとし、異変に気が付いた。


「……誰か来る」


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